第14話 楽しいって思うことはよくないことなのか。

 いきなり付き合ってくださいとか言うし、人の足音を聞き分けたりするし、俺のことをいままでの彼氏より知ってそうだし。それはどうよってところと、怪しいところばかり目について、はっきり言って警戒心しか湧いてこない。


 それなのに感情が、その目が、その言葉がまっすぐで、それにはっとさせられる。目につくマイナスポイントがなければ、うっかりほだされてしまいそうな想い。こんなに真剣に好きになってもらったこといままでなかった。

 いつも見た目から好きになる。それで話をしてみて気が合いそうだったら告白をする。でも俺ばかりが追いかけて、向こうから想いを寄せられたことがない。だから別れる時も振られてばかりだ。


 この人なら振られなくても済むのかな、なんて考えが浮かんでしまう。


「俺、こういうの眠くなってくるんだよねぇ」


「光喜は映画でも寝る時あるよな」


「興味を引かれないものはシャットダウンされる」


「実にお前らしいよ」


 光喜は眠たかったようだが、できたばかりだというプラネタリウムは広さはないが座席にゆとりがあって人の気配を感じずに観られた。番組は冬の大三角をメインに物語調のナレーション。それもよかったが映像自体が素晴らしかった。


「楽しめましたか?」


「小さいところだからって侮ってました」


「なかなかいい設備ですよね」


「近所でこのクオリティのプラネタリウムが観られるならまた来たいです」


 いい場所を知れたな。また休みの日に観に来よう。三ヶ月置きに新しい番組をやってるんだな。ローテーションかな?


「ちょっと、勝利」


「ん?」


 パンフレットを眺めてウキウキしていたら、ふいに光喜に腕を引かれた。少し鶴橋から距離を置いたところで耳を寄せてくる。それに驚いて目を瞬かせたら、大きなため息を吐き出された。


「なに暢気にデート満喫してんの」


「え? あ、いや、そんなんじゃないぞ。いや、つい、すごくよかったから」


「警戒ゼロでニコニコ笑い返しちゃってどうすんのさ。勝利、断りたいんじゃなかったの?」


「あ、いや、それは、そうなんだけど」


 楽しかったことくらい分かち合いたいと思うのは駄目なのか。いや、そうだよな。駄目だよな。これって期待させてることになるんだ。

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