第51話 勇者と望み 上
「僕の望みを君に話そう。」
待ち望んだ暁の光にその身を照らされながらフィオンを見るアーロンの真剣な瞳には、並々ならぬ決意があらわれていた。
「少し歩こう。
ルーク達に聞かれたくない。」
アーロンは小さな声で言うと、フィオンについて来るように手招きをした。
「歩くって…俺は見張り中なんだよ。」
「心配ない。光は射し始めた。
害を与える者がいるとしたら、既にその刃が僕達を刺し貫いていただろう。
巨大な力が待ち受けているのは、ダンジョンの中だ。
この大地を人間の血で汚すようなことはなされない。
それに昨日エマと共に君の前を歩いていた時に、フィオンに大事な話があると言っている。
だから、見張りの順番も僕が先で君を最後にしたんだ。
戻る時間も伝えている。何の問題もない。」
フィオンは彼の用意周到さに大きくため息をついてみせた。
「僕の望みを潰えさせないでくれ。
君が必要なんだ。」
アーロンが真剣な顔で言うと、フィオンは騎士の剣を見つめた。
勇敢な騎士だけが持つことのできる立派な剣はズシリと重たく、主の望みを宿して燃えたぎるようにあつく感じた。
フィオンは立ち上がった。
後方では、エマが動き出す音がしていた。
2人の勇者は粛々と歩き始めた。
木々の間を通り抜ける度に、輝く鎧で身を固めた2人の勇者の姿を鳥達がつぶらな目でまじまじと見送った。甲高い声で時を告げる鳴き声は、2人の勇者の胸にはっきりと響き渡った。
高い空に向かってそびえ立つ太い幹の大樹の下で、アーロンは立ち止まった。彼はフィオンを振り返った。
振り返ったアーロンの表情には、長い間この瞬間を待ち望んでいた興奮と騎士の誇りが見えた。また己が望みを他国の騎士に初めて打ち明けることによる覚悟の色が浮かんでいた。
しばらくフィオンを見つめた後に、彼は重々しく口を開いた。
「3つの国の大陸にいる時は、何処かで聞いているかもしれない者のことを思うと、君に全てを話せなかった。
けれど、最果ての森に着いてから全てを話すのでは遅すぎる。
それでは君という人間を知り、君が僕という人間について考える時間がなさすぎるから。だから、少しずつ話をしていたんだ。
僕の命運に…いや、それ以上に多くの者達の命運がかかっていることだから。
どうか最後まで聞いて欲しい。
いや、君には何としても聞いてもらわねばならない。
まず、あの日に君に聞かれていた話からしよう。僕がマーニャに薬を飲ませて、強制的に目覚めさせた日に君が聞いてきた事についてだ。
魔法使い達があの室の中で一体どのような酷い扱いを受けているのか。ただ、その中には一部僕の推測も入る。王ではない、騎士の隊長にすぎない僕は、ほんの一部しか知ることはできないのだから。
剣に誓いし僕は君に嘘をつかない。
僕を信じて欲しい。」
アーロンはフィオンが握っている自らの剣に力強い手を触れ、騎士の誓約をしてから話し出した。
「僕の望みは、3つある。
まず1つ目は、魔法使い達を救いたい。
あの室から自由にして、救いという名の希望の光を彼等にもたらしたい。
そもそも魔法使いは人間を光の道に導く為の存在として、神がその手でつくられた。けれど、今の人間にはそれすらも知らされていない。君も知らなかった。
その事を知っているのは王族と一部の者だけだ。彼等の力は、今や一部の人間に利用されている。」
「神がつくった?」
「そうだ。魔法使いは人間とは違い、神が願いを込めて、その手でつくられた特別な存在だ。さらに光の力を与えられた。だから彼等は特別な力である魔法が使える。そして魔力に応じて長い時を生きる…。
けれど何処かで何かが狂い、全てが変わってしまった。
彼等はあの室の中で容赦ない暴力と暴言によって苦しめられている。身も凍りつくような残酷な扱いを受けているんだ。
さらに彼等が持って生まれた魔法の能力を調べ、奴等にとって都合の悪い魔法を使えぬようにした。魔法の全てをコントロールしようと体を弄り回している。
細胞を狂わせる痛くて堪らない注射を打ち続け、クスリによって特定の魔力を通常の倍以上に強化させ、全てを人間の思うがままにできるように彼等の心と体を支配した。
そうして、魔法使いから全てを奪った。
奴等は容赦ない暴力を振るい、暴言を浴びせている。抵抗ができない精神状態にまでおいこみ、人間に絶対服従をさせているんだ。」
と、アーロンは言った。
フィオンは唖然として、すぐに言葉が出なかった。
魔法使い達が度々自分の顔色を伺っていたのを思い出し、アーロンが言ったその光景を想像すると、フィオンの顔はどんどん引きつっていった。
「あの室の中で……そんな事が…奴等とは…王の側近と…」
フィオンは頭が真っ白になって、うまく言葉が出てこなかった。彼はリアムが注射もクスリも嫌だと言っていた時の怯え切った表情を思い出した。嫌な予感はしていたが、本当に人体実験のような事をされていると分かると吐き気がした。彼の体に朝の冷たい風が吹き付けると思わずよろめいた。
「そうだ。だが、その指示を出しているのは3人の男だ。
あの室の中で、自分よりも何倍もの力のある大人の男達からの一方的な暴力に耐え続けている。
君は魔法使い達のことをどう見ている?」
と、アーロンは言った。
フィオンは黙り込んだ。
もう何の言葉も出て来なかった。
今や様々な怒りがこみ上げ、彼の心はどす黒い感情で埋め尽くされていた。かつて自分自身が大人の男から何度も何度も殴られ蹴られていた日々の痛みと憎しみを思い出した。
すると、いつかの夜から姿をあらわした鋭い爪がまたその姿をあらわして、彼の優しい心を再び深くえぐり肉を喰らった。
そいつらを殺さねばならない…クソ共は殺さねば分からないと彼に強く思わせた。
すると、それに呼応するように、
もっともっと残忍な方法で奴等に復讐せねばならないよと、ソレの爪が彼の心に語りかけて深い深い爪痕を残した。
「彼等は僕達よりもはるかに長い時を生きている。
けれど見た目も中身も何もかもが…」
アーロンはそれ以上の言葉は言えずに黙り込んだ。
フィオンもアーロンが何を言いたいのかは分かってはいた。彼にとって彼等はいつも子供のように幼く、大人が守らねばならない存在のように思えたのだった。
アーロンはフィオンの激しい怒りに満ちた表情を見ると、もう何も聞かずにさらに話を続けた。
「魔法使いは、その魔力が最大となる容姿のまま生き続ける。かつて世界一の魔法使いといわれたユリウスは20代中頃の容姿だったと聞いている。けれどルーク達は10代中頃の容姿をしている。
変だとは思わないか?
これは僕の推測だが、あのユリウスでさえ魔力が最大となるのは…心身共に完成して力が最高潮を迎えるのは20代だった。
それなのに彼等は10代だ…。どう考えても若すぎるんだ。魔力が最大になる年齢が早すぎる。」
「あえて…そうされているってことか?」
フィオンの言葉に、アーロンは頷いた。
「君の国の騎士団には少年兵が沢山いる。
つまり、そういうことだろう。」
アーロンは低い声で言った。
「少年兵は、心身共にコントロールをしやすい。
意のままに操ることさえもできる。死さえも恐れない兵士にすることも可能だ。殺してこいと命令すれば、何者も恐れず、自らの死さえ厭わない。
魔法使いも同じだ。大人の男の恐ろしい力による暴力で彼等をコントロールし、何度も何度も同じ言葉を浴びせ続ければ、締め切られた逃げ場のない室の中で心はどんどん病んでいく。
これは、僕の推測だ。
他にも理由があるのかも知れないが、一つは心をコントロールしやすいように彼等の成長を止めたのだと思う。彼等が真に大人になり本来の魔力を持てば、いずれ人間に抵抗するかもしれないと考えたのかもしれない。だから成長段階で止めてしまい暴力で全てを支配した。人間は怖い存在であり抵抗などはしてはいけないと心と体に刻みこませた。
抵抗する力を根こそぎ奪い、自分は無力な者だと思い込ませ、尊厳すらも奪いとったんだ。
彼等は…勇者の生命を守る事が魔法使いの役目だと何度か口にしただろう…。勇者を守る為なら自分は死んでも構わないと刷り込まされて、この旅に出されたのだろうと思う。」
「いつからだ?いつからお前は知ってたんだ!
お前は全部知ってて、王の息子という身でありながら黙認してたってわけか?あの室に入ることができ、それを止められる力があるかもしれないのに!お前なら、こんなになる前に状況を変えられたかもしれない。
それなのにお前は何もせずに、今魔法使い達に優しくして、自分は王族であってもちがう人間だと彼等に思い込ませて、旅の間だけでも罪悪感から逃れようとでもしてたんだろうが!
お前が本気で救う気なら、もっと早くに手を差し伸べてやることもできたんじゃないのか?
知ってたのなら…お前はただの騎士じゃないんだから!」
フィオンは怒りに満ちた目を燃え上がらせながらアーロンを激しく責め立てた。
2人の騎士の間に緊張が走ったが、それを解いたのアーロンの方だった。
「そう思われても仕方がない…」
アーロンは目を伏せた。
「僕が知ったのは数年前だ。
だから、僕は魔法使いの室に遊びに行けなくなった。あの時に僕はようやく目が覚めた。
僕は長い間…見させられているものしか見てこなかったんだ。本当に愚かな騎士の隊長だ。
けれど僕は本当に彼等を救いたいんだ。
ずっと、どうやったら彼等を本当の意味で救う事ができるのかを考え続けてきた。
魔法使いの問題は、簡単には手が出せない。
王は何か恐ろしい事を魔法使いにさせている。
だからこそ奴等は魔法使いを自由にはしない。
奴等はアノシゴトといって何かをさせている…きっととてつもなく恐ろしい事をさせているんだ…。君が前に言っていた斧を持っていた者達がいたという話と関わり合いがあるのかもしれない。
その種族を残忍な手法で殺戮したのか…僕には分からないが。
君は頭が痛くなり魔法にかかったみたいになると言っていただろう。きっと…それと何か関係があるのだろうと思う。」
アーロンはここで息を吐いた。
「僕が中途半端に手を出せば、目の前の僕の国の魔法使いをその瞬間だけは…救えるかもしれない。
その瞬間だけはな。
けれど、事態はさらに悪化する可能性がある。
僕は騎士の隊長だ。
ゲベート国第1軍団騎士団隊長である僕は非常事態には何をおいても出陣せねばならない。それが第1軍団騎士団隊長の役目なのだから。
現状では四六時中彼等を守ってやることはできない。
その場合に何が起きるのかを想像して欲しい。
僕がそう言ったことで、僕がいない時にさらなる恨みの矛先を魔法使いにむける。彼等の叫び声を奪い、僕が戦から戻った時に余計な事を喋らないように、より恐怖でおさえつけることを奴等ならするだろう。
さらに精一杯我慢せねばならないと思い込ませる為に新たなクスリを開発して、彼等の心を完全に奪い去るかもしれない。
人間とは醜いからな。
中途半端な介入によって救えるのは、その瞬間だけだ。
君が隊長になるまでに過ごしてきた日々の中で、他の騎士や兵士が見るも腹立たしい行為を人々にしている姿を、君は何度も何度も見てきただろう?
その行為を憎く思い、耐えきれなくなって止めろと叫べば、君の恐ろしい力をもってすればその瞬間目の前にいる人間だけは救えただろう。
だが、それをすれば君は決して隊長にはなれなかった。騎士のままでは、本来の望みは果たせまい。
目の前の少ない者達を救っただけで終わりだ。何もかもが終わる。太くて醜い悪の根を絶やさなければ永遠に終わらないんだ。犠牲者が出るのは止まらない。
光の存在だというだけじゃない…もう彼等が苦しみ続ける姿を見るのは…たくさんだ…。
同じ城の中で、彼等が酷い扱いを受けているのを知りながら何もできない無力さに…僕だってもう…限界なんだ。
これ以上誰かが傷つくのは苦しくてたまらない…救いたいんだ…」
アーロンの体が激しく震え出した。
「君はあの袋の中にまだ何か入っていたと言っていたが、確かにその通りだ。
あの袋の中には、ルークの体の痛みを癒す薬もいれていた。
マーニャの薬ほどではないが、万能薬だ。」
フィオンはそう言ったアーロンをジロリと睨んだ。
「どう考えてもルークは普通じゃない。ほとんど何も喋らない。
その万能薬とやらでお前はルークを助けたのか?とてもルークを助けたようには見えないが。なぁ、アーロン!」
「そうだ。助けたなんて言えない。僕が助けたのは体の痛みだけだから…。
あの日…マーニャが苦しみ出して馬を売る事を決めた時にルークが言った言葉を覚えているか?」
と、アーロンは聞いた。
「恐れ多くて薬を飲めないって言ってたことか?」
と、フィオンは答えた。
「そうだ。
時々だが…ルークはテントの中で僕に気付かれないように、自分の腕を噛みながら苦しんでいた。体がきしむほどの苦しみをあの細い体中に分散させながら、苦しむ声が漏れないようにしていたんだ。痛みで夜に何度目覚めようが、我慢をし続けていた。
ルークが僕にバレないように必死で耐えている後ろ姿を見ながら僕は…どうしたらいいのか分からなかった。
テントの中でルークに薬を飲むように言った時に、ルークは僕に何て言ったと思う?
自分のような者に、そんな高価な薬を使うのはやめて下さい。恐れ多くて飲むことはできません。自分にはそんな薬を飲む価値すらもないと言ったんだ。
あの時のルークの顔は今でも忘れない。悲しみにくれた表情でそう言ったんだ。まるで生きていたくないとでもいっているかのようだった。死を望んでいる顔だったんだ。
しばらくの間ルークはずっと拒否をしていたが、何かを考えた後にようやく飲んでくれた。」
アーロンの表情は苦悶で歪んでいた。
「さらに僕がルークの背中の痣を見つけた時にこう言ったんだ。頭を抱えてガタガタと震えながら…
自分は暴力を振るわれても仕方がない
自分に非があるから仕方がない
自分が劣っているから仕方がない
自分は耐えられる
自分が従順でちゃんと望まれるようになれば、それ以上の暴力は振るわれない
全て自分が悪い
ちゃんとしていないから、こうなる。なって当然なんだ…と。
僕がルークを抱きしめながら何度も大丈夫だ…何も悪くないと言っても、ルークの涙と震えは止まらなかった。」
「お前は、ルークに直接何をされてきたのか聞いたのか?」
フィオンもルークの腕の痕を問いただした時の怯えた様子を思い出した。聞いているだけでも腸が煮え繰り返った。
「薬で癒せるのは体の痛みだけだ。ルークの心までは癒すことはできない。
ルークがされている事を、僕は聞くことはできなかった。
僕にはルークを抱きしめてあげる事しかできないから。
それに何より…いたずらにルークの心の傷を増やすようなことまではしたくない。
君にだって、本当に知られたくないことの一つや二つあるだろう?
興味本位で傷を掘り起こして自己満足に過ぎない言葉をかけ、あるいはそれと気付かずに望まない言葉をかけるだけの男にはなりたくない。
ルークが望むのは、たった一つだけだ。
あの室から本当の意味で連れ出してあげることだ。
あの光のない室から。
ルークを傷つけて楽しんでいる…もう既に感覚が麻痺して相手を苦しめる事をなんとも思っていない連中を僕は決して許さない。必ずルークの心を殺した奴等に罪を償わせる、相応の罰を与える。
あの室から逃れたとしても、心と体に残った残酷な感触は忘れられないんだから。どんなに悪夢だったんじゃないかと思いたくても、ずっと覚えている。永遠に影のように付きまとい、決して拭い去れないんだ。
時が傷を癒してくれるなんてものじゃない。逆に時が経つほどに、心を苦しめたりする。答えの見つからない問いを、何度も何度も自分に投げつける事によって。
僕はルーク達が心から笑った顔を1度も見たことがない。それを奪ったのは僕だ。僕も追い詰めた一員なのだから。
城に戻れば、また地獄の日々が始まる。
僕は、なんとしても光を取り戻す。
なんとしても自由に生きれる場所を作ってみせる。」
と、アーロンは力強く言った。
「君もソニオの騎士団に戻ってすぐにあの騎士団で生き抜く為の狂気が激しく動き出したように、場所と心は密接に関係している。
嫌な場所に行けば心と体が思い出して、どちらも震えだしてしまう。もう止まらないほどに。
そんな場所に君は戻りたいと思うか?そこにいたいと思うか?
心と体をすりへらすだけだ。君になら分かってもらえるだろう。」
「ならば一体どこに作るつもりだ?
逃げても奴等は血眼になって追ってくるぞ。
脱走兵を追うように。
救うのならば死ぬ気で守り抜かねばならない。」
「一つだけ場所がある。白の教会がある孤島だ。
あの場所には今も神の力が残っている。
魔法使いは神が特別につくった存在だ。ならば、何らかの加護を受けられるはずだ。
あるべき場所にかえす。
誰もが白の教会には敬意を払わねばならない。あの場所では神を恐れない一方的な暴力行為も嘘も許されない。
神の雷が落ちる。
あの場所で彼等を守る。僕が最期まで。」
「お前がか?最期までって…お前一体幾つだ?」
アーロンが年を答えるとフィオンは驚いた顔をした。
「俺よりも年上だったのか。
男の歳なんてどうでもいいからな。美形は若く見えるからか…」
と、フィオンはブツブツと呟いた。
「しかし、お前がその手で守るとはね…」
「あぁ、僕が最期までこの手で守り抜く。
室から解放する以上僕にはその責任がある。解放したから終わりじゃない。
彼等の力を利用しようとして、白の教会に近づく人間は許さない。
彼等が本来の力と体を手にして、その手で自らを守れるようになるまで僕は生き続ける。
旅に出た時は僕の信頼できる隊員に任せるつもりだったが、気が変わった。僕は何としても生き抜き、生を受けた責任を果たす。」
フィオンはその言葉でチラリとアーロンの顔を見た。
「お前の国の魔法使いだけか?
リアムとマーニャはどうするつもりだ?」
「3つの国の全ての魔法使いを連れて行く。
どこかの国に魔法使いが残れば、他国に金貨や財宝と引き換えに売られていくだけだ。
そうなれば残った魔法使いがさらなる酷い扱いを受ける。」
「3つの国の全ての魔法使いをか?
そんなの出来るわけがないだろう?国王が許すはずがない。今までにない戦争になるぞ。
お前、そこんところ分かってるのか?」
と、フィオンは言った。
既にアーロンが言おうとしている事を分かり始めているフィオンの心は大きく高鳴っていた。
「僕は、もう他国とこれ以上戦争をするつもりはない。
何の為に戦争をしているのか、もはや分からない。
2つ目の望みは、この無意味な戦争を終わらせることだ。
だからこそ、僕はこの望みの為に君の力が必要なんだ。」
アーロンは自らの剣を握りしめたままのフィオンを強い眼差しで見つめた。今やフィオンもグッと強い力で騎士の剣を握りしめた。
「僕のすべてを君に預けた。
僕のすべてはもう君の掌中にある。
共に真の敵から、世界を救おう。」
アーロンはフィオンに右手を差し出したが、フィオンは握らなかった。フィオンはその力強い騎士の手をしばらく見つめたあとに、顔を上げた。
「一体誰から救うつもりだ?」
「この世界の全ての元凶となっている者達だ。
神がつくりし光の存在を踏みにじり、光の力を己の為だけに利用している愚か者。無意味な戦争を続けて、国民の生命と国土を踏みにじる者。
真の敵は強大だ。
だからこそ、僕だけの力では不可能だ。
全ての国民が理解を示してくれる理由をクリスタルから導き出し、絶対的な正義を背負う者が為し遂げなければならない。
そう…他国の信頼のおける隊長の力…真の勇者であり同じく英雄となって帰還する男の力が必要なんだ。
英雄となって凱旋し、国民の興奮状態をうまくつかい、気を逃さずにこの手で真の敵を討つ!」
「真の敵とは誰だ?」
フィオンは表情には一切出さずに、アーロンの次の言葉を待った。
誰の事を言っているのかは、もう分かってはいた。
けれど、フィオンからはその者の名は決して言えなかった。
「全ての元凶となっている3人の男だ。」
アーロンは憎悪に満ちた鋭い目をした。
「その1人は…」
アーロンはついに内に秘め続けていた感情を剥き出しにして恐ろしい形相になった。
フィオンが何度かアーロンから感じたことのある、自分と同じ狂った目をした男がそこにいた。
「僕の父だ」
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