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 新しい派遣社員の名前は、高梨優樹菜たかはしゆきなと言うらしい。


 年は遥香の四つ下で、今年二十三歳。すらりとした肢体にスーツのタイトスカートがよく似合っていた。


「なに、朝から、なんだかちょっと騒々しくない?」


 十時ごろ、朝に得意先に直行していた弘貴が戻ってきて、妙にうきうきした雰囲気のフロア内の様子に首を傾げた。


 遥香のそばに来て、遥香と、隣の中谷に小声で訊けば、中谷がちらりと高梨に視線を投げて、無言でアピールする。


 弘貴が中谷の視線を追って高梨を見たが、どうやら彼は高梨に対して何も思わなかったのか「新しい派遣さん? 彼女がどうかしたの?」ときょとんとした。


 遥香は、弘貴がほかの男性社員のように高梨に夢中にならなくてホッとした。


 中谷は小さな声で、


「安藤係長とか、うちのグループだったら斎藤君とか、とにかく、ここをキャバクラかなんかだと勘違いしている人たちがいるんですよ」


 なかなか辛辣なことを言えば、もう一度高梨の周りを見て、社内に視線を這わせた弘貴が苦笑した。


「ああ……、なるほどね」


「なるほどねじゃないですよ。本来、引継ぎ兼教育係は内山さんのはずなのに、さっきから安藤係長がべったりなんですよ。……ほら」


 高梨が注文書をPDFにしようと席を立つと、金魚のフンのようにあとを追いかける安藤係長の姿が見える。


 おやおやと目を見張った弘貴が、「目に余るようなら少し考えるよ」と言うと、中谷はようやく留飲が下がったのか、「お願いします」と答えてディスプレイに視線を戻した。


 これは、高梨によって、しばらくは社内がぎくしゃくしそうだなと、遥香がため息をつく。


 しかし、この時はまさか、その火の粉が自分にも降りかかることになろうとは、これっぽっちも思っていなかった。

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