3
硬い地面の上で暴れたせいで小傷がたくさんできていて、湯を使ったあと、遥香は弘貴に傷の手当てをしてもらった。
特に大きな傷はなかったが、腕と背中に少し目立つ切り傷ができていて、それぞれ弘貴に絆創膏を貼ってもらう。背中を見せるのは恥ずかしかったけれど、見せなさいと強い口調で言われて逆らえなかった遥香は、弘貴に傷をチェックされるあいだ、体を丸めて羞恥に耐えていた。
「これでよし」
傷のチェックをすべて終えて、弘貴がポンポンと頭を撫でてくれる。
まだ少し裕也に押さえつけられた恐怖が残っている遥香が弘貴に甘えたようにすり寄ると、弘貴は遥香を膝の間に座らせて、うしろからぎゅっと抱きしめてくれた。
「昨日はごめん」
遥香の肩に顎をつけて、弘貴が言う。
遥香が少し振り向けば、困った顔をされた。
「……遥香の昔の男に嫉妬したんだ。あと、俺のことを信じてくれないのかってムカついた」
「ごめんなさい……」
「いや、俺が悪かったんだ。遥香には過去のことがあるし、不安なのは当然だよな。それなのに怖い思いをさせて……、今日だって、仕事だったのは本当だけど、電話一本入れて、休み明けに対応してもよかったのに、少し頭を冷やしたくて会社に行ったんだ。そのせいであんな目に合わせて、本当にごめん」
遥香は首を振ると、身をよじって、後ろの弘貴に抱きついた。
「わたしも……、弘貴さんは裕也じゃないのに、勝手に不安になってごめんなさい。―――でも、今度のことでわかったの。弘貴さんじゃないとだめ。弘貴さんが大好きなんです。だから、面倒な女だって、離れて行かないでください……」
「馬鹿だな、俺が遥香から離れていくはずないのに」
「弘貴さん……」
弘貴の腕にすっぽりと包まれてうっとりしていると、頭のてっぺんにチュッと口づけられる。顔をあげると唇にキスをされて、そのままキスを深めていった弘貴に、ころんと畳の上に転がされた。
上から見下ろされて、遥香の心臓がドキンと跳ねる。
「……あいつに触れられたところ、上書きしたい」
少し熱っぽい目をした弘貴が、そう言って首筋に口づける。
「ん……、そんなとこ、キスされてないです……」
軽く吸いつかれて、くすぐったくなった遥香が身をよじれば、チュッと音を立てて唇を離した弘貴に顔を覗き込まれた。
「じゃあ、どこに触れられたの?」
「えっと……。弘貴さん、夕ご飯来るし、その……」
「夕飯まであと二時間あるよ。上書きするには十分な時間だね」
遥香はうろたえるが、弘貴には通じなかった。
(な、なにか、変なスイッチが入っちゃってる気がする……っ)
弘貴にキスをされるのは嬉しいけれど、上書きすると言うことは、裕也が触れたきわどい部分にも触れると言っているのだろう。
「ま、まだ夜じゃないし……!」
「夜じゃないと恥ずかしいようなところにも触られたの?」
「っ」
(しまった!)
墓穴を掘ったと思ったときにはもう遅い。少し怒ったような顔をした弘貴が眼鏡をはずし、畳の上におくと、遥香は観念したように体の力を抜いた。
遥香がおとなしくなると、弘貴が褒めるように頭を撫でてくれる。
「あいつが触れたとこ、どこ……?」
耳元でささやきながら、ゆっくりと体のラインを確かめるように弘貴の手が滑っていく。
裕也に触れられた時は気持ち悪くて仕方がなかったのに、弘貴に撫でられるのはとても気持ちがいい。
キスを落としながら遥香の服を乱していく弘貴の背中に腕を回し、遥香はそっと目を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます