7

 ホテルのレストランで夕食を取ったあと、お風呂を先に使っていいと言われた遥香は、浴槽の中で膝を抱えていた。


 雨はまだ降り止んでいないが、勢いはだいぶ穏やかになっているようだ。明日には電車も動き出すだろう。


(うう……、やっぱりホテルに泊まるってことは、そうなるのよね……?)


 遥香を緊張させているのは、眠るときのことだ。


 いくらツインでベッドが二つあるからといって、その一つにもぐりこんで「おやすみなさい」ですまないことくらい、鈍い遥香もわかっている。


 ゴールデンウィークに入る前に弘貴とつきあいはじめたが、彼とはまだキスどまりの関係だ。何度か弘貴のマンションにお邪魔したが、キスをされて抱きしめられるだけで、それ以上の関係を望まれたことはない。


 弘貴が関係を進めることを急がないので安心していた遥香だったが、さすがに今の状況で何事もなく終わるとは思っていなかった。


(どうしよう……)


 決して嫌なのではない。けれど、過去のトラウマのせいで、遥香は異性と体を重ねることが怖かった。弘貴はきっと優しいはずだし、大好きだが、怖いものは怖い。


「でも、弘貴さんはあの人じゃないし……、きっと大丈夫、よね?」


 遥香はのぼせる直前まで湯船につかったあと、ドキドキしながら浴室から出たのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る