第65話 マジックバッグ

「シーナとネネにこれを渡しておくよ」

「腕輪ですか?」

「ああそうだ」


 宿屋から出たところで二人に渡した。

 手首から肘まである腕輪で『ハコニワ』に作ってもらっていたのが完成した。


「二人とも右利きだから左腕に付けた方がいいな」

「これは……防具ですか?」


 装着しながらネネが聞いてくる。


「いや、これはマジックバッグだ」

「えっ? マジックバッグですか?」

「普通とは違った形ですね」


 見た目は腕輪だか中に物が保管できる。

 腰に付けるポーチとか鞄タイプも考えたけど、動きを阻害しない腕輪にした。

 特にネネは剣を扱うので邪魔にならない形がいいだろう。


「ネネ魔力刀を中に入れるイメージでしまってみてくれ」

「中に入れる……分かりました」


 ゆっくりとネネは左腕に刀を鞘ごと押しつける。

 すると刀はスッと消えた。

 上手く中に保管されたようだ。


「入りました!」

「普通のマジックバッグとはイメージが違いますわ」

「はい。変わってますね」

「ああ、吸い込まれる感じだな」


 普通と違い、手の周りどこからでも物が入れられる。

 中身は魔力を纏った目で見ればリストが浮かぶようになっている。

 出す場合は念じるだけでいい。


 周りからは左腕から右手で物を取り出したように見えるだろう。


 左手に出すことも可能だ。

 リストから物を選択して左手に出現させるイメージを持てばいい。

 手品のように急に左手に物が現れたように見える。


 もちろん魔力登録してあるので本人以外は中身も取り出せないし、リストも見れない。


 さらに中には共有スペースを作った。

 俺たち三人が出し入れできる場所だ。


「便利ですわ」


 ドロップ品や回復薬、道具、武器などを入れておけばスムーズに受け渡せる。

 色々と入れておこう。


 さらにもう一つ機能がある。


「少し実験したいことがある。二人はここで待っててくれ」

「何かあるのですか?」

「ああ」


 そういうと俺は『探知』と『並列』を発動させる。

 広範囲に『探知』をおこない『並列』を使って人々の動きを観察。

 特に一人一人の目の動きに注視する。


 そして全員の目が俺から外れたことを確認した瞬間―――

 

(『転移』!!)


「「!?」」


 探知の最外円まで転移する。

 もちろん転移先でも人々の死角にすべりこむ。

 さらに―――


(『転移』!!)


 繰り返し転移おこないシーナとネネから距離を取る。


(こんなもんかな)


 何回か転移を繰り返すと俺はどこかの知らない家の屋根の上に降り立つ。

 二人からの距離は『探知』では探れないほど離れた。

 つまり『転移』を使って二人の元にはいけない。


 俺は左腕に付けた腕輪をさわる。

 シーナとネネにあげた腕輪と同じものだ。


 それに触り共有スペースを探る。

 そこから二人の魔力を探知。


(『転移』!!)

 

 そして一気に飛ぶ。

 二人の前に移動した。


「!? 何ですの今のは?」

「転移ですか、レンヤさん?」


 成功だ! 『ハコニワ』の道具を利用して『転移』の距離を伸ばすことができた。


「ああ、特殊な『転移』って感じかな」


 通常の『転移』は探知範囲内ならMP10000で転移が可能になる。

 だから探知範囲外は転移できない。

 先程やった距離では『転移』不可能ということになる。


 でも『ハコニワ』が作ってくれた腕輪は共有スペースで物の移動が可能だ。

 ならば二人の魔力と俺は繋がっていると予想した。

 それを利用しようと考え実践。

 結果は二人の魔力が探知できて『転移』することができた。

 上手くいったようだ。


「お互い腕輪を付けていれば距離があっても二人のところには『転移』で移動可能になった」


 はぐれた時とか遠い地にいる時とかには便利だ。


「ふふ。離れてもいつでも会いに来てくださるってことですわね!」 

「私たち繋がっているんですね!」 


 んん? 間違ってはいないけど何か違う気もする。


「まあ、そうだな。アイテムも結構入るから活用してくれ」


 買い物した物も入れておけば邪魔にならない。

 戦闘においてもネネなら魔力刀を入れておけば左手に鞘ごと出現させ右手で刀を抜くなんてこともできる。

 

「そういえば買い物をすると言っても、わたくしたちお金持っていませんわ」

「ああ、それは大丈夫だ。マルティーロさんから今回のお礼ってことで貰っている」


 インベントリから取り出した巾着袋を見せながらいう。

 買い物がしやすいようにと金貨だけでなく色々な硬貨を入れてくれている。

 商人らしい気遣いだ。


「金はある程度共有スペースに入れておく。欲しいものがあったら使ってくれ」

「よろしいのですか?」

「レンヤさんがいただいたお金ですよね?」


 王女様とその侍女の金銭感覚は分からないけど足りるはずだ。

 まあ後で素材を売ったお金も入るしな。

 二人にも使う権利はある。


「ああ、大丈夫だ。欲しい物を買っていいぞ」

「ありがとうございますわ」

「ありがとうございます」


 俺たちは街へと繰り出した。

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