第39話 出港

 エヴァンは周囲を見回しながらいう。


「一応必要な物なのでなおすことになってね」

「エヴァンが作った物なのか?」

「いいや。僕が作ったわけじゃないけどね。修理は必要なんだよ」


 誰かに依頼されたような言い方だ。


「あの女神に頼まれたのか?」


 俺をこの世界に飛ばした張本人で全てを見通すような存在。

 そんな存在からの依頼ならやらざるを得ないのだろう。


「まあね。この世界では機能していたので、ないと困る物なんだよ」

「そうか何だか申し訳ないな」

「さっきも言ったけど君が気に病む必要はないよ。以前も破壊した人間がいるしね。君で二人目かな」


 前にも壊した奴がいるのか。

 まあ破壊による罰則もないみたいだから良かったということにしておこう。


「しかし君もやるね。こんなに可愛い子達と婚約しているなんて。この世界に来てからそんなに経っていないだろう?」


「いや婚約はしてない。二人がこの島に送られてきた時に魔獣に襲われていてな。その時縁あって助けただけだ」


「そうなのかい?」

「申し訳ありませんエヴァン様。どちらかと言うと婚約者と言うより、もはや妻と言った方が良かったかもしれませんわ」

「わ、私も妻です」

「ふふ。シーナとネネと言ったっけ。君たちもなかなか面白いね」


 現実が歪められている感が半端ない。

 いや周りから固められている感じか。


「って言ってるけど。君のこと気に入ってもらっているみたいで良かったじゃないか」


 エヴァンは俺を見ながらいう。

 まあ俺としても二人からの好意は素直に嬉しいしありがたいとは思う。


「ああ、そうだな。今では大切な仲間だ」

「ふーん。じゃあそんな大切な仲間を守れる力があるか僕が見てあげようか?」

「おお、いいなそれ」


 少し強引な感じだけど自分の今の力を知れるチャンスなので、その提案に乗っておこうと思う。


「船を壊しても悪いから離れてやろう」

「ああ、そうだなシーナとネネは船で待っていてくれ」


 エヴァンと俺は船を離れ少し開けた場所で対峙する。

 俺はインベントリから木剣を出してエヴァンに投げる。

 エヴァンは右手で木剣を受け取る。


「これで勝負ってことでどうだ?」

「うん。問題ないよ、やろうか」


 前回は全く歯が立たなかったからな。

 今の自分がどれだけできるのか試したい。


「はっ!」


 木剣に魔力を通してエヴァンに斬り込む。

 上段から斜めに振り下ろす。

 それを木剣で受け止めるエヴァン。


 さらに俺は複数回斬りかかる。


 エヴァンはあっさりと受け止めているけど、周りはそうはいかない。

 木剣を受け止める度にエヴァンの背後にある木や岩や地面が弾け飛ぶ。

 込めた魔力の残滓と衝撃が周りを破壊していく。


「少しは剣術を覚えたみたいだね」


 ネネの動きを見ていたから少しは俺も上手くなったかもしれないな。

 それを何事もなく受け止めているエヴァンは、やはり只者ではない。


 エヴァンは反撃に出る。

 俺が受け止めると同じように背後で破壊がおこる。


 何回か斬り合ったあとエヴァンはいう。


「これぐらいしておこうか上条練夜」

「なんだもういいのか?」

「君の実力は分かったよ。これ以上やると島がひどいことになりそうだからね」


 たしかに周りへの影響が大きすぎる。

 これ以上の環境破壊は良くないだろう。


 しかしエヴァンは相変わらずその場から動いていない。

 こちらも本気を出していないとはいえ、さすがと言わざるを得ない。

 一撃でドラゴンを地面に叩きつけられるぐらいの衝撃はあったはずだ。

 それをあっさりと受け止めるだから


「じゃあ船に戻ろうか」


 俺たちは『転移』でそれぞれ船に戻る。

 戻ってきた俺たちにシーナとネネは気づきいう。


「素晴らしい戦いでしたわ。お二人とも凄まじい魔力でしたわ」

「あんな威力の斬撃なんて……こちらまで衝撃が伝わってきました」


 まあ環境破壊してたし離れてるとはいえ、戦いの凄さは伝わってきたみたいだ。


「エヴァン様もお強いのですわね」

「ふふ、そうだね。まあレンヤも本気だしてなかったみたいだしね」


 この島でかなり強くなったつもりだったけど、エヴァンの戦いには余裕すら感じた。

 まだ強さの底が見えないというのだから怖ろしい。


「これから行先はどこを目指すんだい」

「いや全然考えていないな。現状ここがどこだかわからないしな。何かヒントをくれるのか?」

「うーん、今回はサービスはなしだね。好きなところに自由にいけばいいんじゃないかな」


 あわよくばとも思ったけど、そんなに甘くはないか。


「君たちが行った後にこの島を封印するから安心していいよ。また閉じ込めることはしないから」

「そうか。それは助かる」


 せっかく黒雲を破壊出来たのにまた作られたらたまらない。


「じゃあそろそろ行くぞ」

「そうだね。船の旅を楽しむといいよ」

「また会えるのか?」

「君がもっと強くなったら会えるかもね」


 ニヤリと笑うエヴァンを見ると、なんだか前もこんなやり取りしたような気がして懐かしい気持ちになる。


「じゃあ二人もまた会えるといいね」

「「はい。お会い出来て光栄でした」」


 満足そうなエヴァンは「じゃあね」というとどこかに消えた。


「よし! 俺たちも行くか」

「「はい!」」


 船を進め島の外を目指す。

 すると二人はいう。


「レンヤさん、エヴァン様から『伝道者の加護』っていうのをいただけたみたいですわ」

「私も貰えたみたいです」


 エヴァンは意外に二人のことを気に入ってたみたいだ。

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