第38話 魔導船

<『ハコニワ』より《魔導船》が届きました> 


 魔核を『ハコニワ』に戻した後ついに船は完成した。

 《魔導船》と言われたその船はインベントリに入っている。

 船ぐらいの大きさの物でも保管しておけるのは便利な機能だと思う。


「船が完成したみたいだ」


 俺はシーナとネネに伝える。

 二人にも協力してもらった魔核も使用しているので、完成した船をお披露目したいと思う。

 俺たちは船が出港出来そうな場所を探して海岸に向かう。

 しばらく探しているとちょうど船が置けそうな入り江があった。


「ここにしようか」


 結構な深さもありそうなので船底がぶつかることはないだろう。

 インベントリで船を選択すると設置場所のカーソルが頭の中に浮かぶ。

 これで指定して場所を決めるみたいだ。

 カーソルを入り江の真ん中に指定して設置を選択。

 すると船が出現した。


 出現した船は小型の帆船タイプだ。

 一応外観はこちらにあるだろうと思われる形に合わせてみた。

 メインのマストは垂直に一本のタイプでそれに帆が張ってある。

 船体はフレイムドラゴンの外殻を主に使っている。


「綺麗な船ですわね」

「美しい船ですね」


 二人の評判もいいみたいだ。

 イメージした通り以上の物ができてよかった。

 

「乗船はどうやってされるのですか?」


 入り江の真ん中に出現させたので乗るには距離がある。

 通常は埠頭などに船を横付けして乗船するみたいだけど、この島にそんな場所はない。


「ああ。『転移』でいこうと思っている」

 

 探知内なら『転移』で自由に移動できるので便利だ。

 転移能力の持ち主であった魔人のグエンは集団でも移動していたので可能なはず。

 するとシーナは横からガシッと俺に抱きついてきた。

 少し遅れてネネも続く。


「!?」


 そんなにくっ付かなくても転移できるんだけど、という言葉が口から出そうになったが飲み込む。

 集団で転移するには俺に触れていた方が一緒に行けるイメージはたしかにある。

 実際は近くにいれば大丈夫なのだけど、役得ということで黙っておくことにした。

 俺は船上の開けた場所を探知して『転移』を発動させる。

 ふっとした感覚のあと直ぐに船上に着いた。


「一瞬で移動できるなんて凄い能力ですわね」


 たしかに理屈は分からないけど凄い能力だ。

 船に乗ってみると意外に広い。

 10人ぐらいは乗れるかな?

 階段を降りた中はさらに広い。

 円形に配置された部屋が周りを囲み中央にはテーブルやソファーなども設置されている。

 もちろんキッチンも完備してあり生活するには充分だろう。


「この部屋はお風呂ですわね」

「立派ですね」

「ああ」


 念願の風呂場も付けてみた。

 大きさも充分なので大人数でも足を伸ばして入ることができるぐらい広い。

 『浄化』は楽でいいけど、やっぱり湯船に浸かりたいので設置してみた。


 船上に戻り船首を見ると人影がある。


「久しぶりだね上条練夜。ずいぶん面白い物を作ったんだね」


 のんきな雰囲気で声をかけてくるのは伝道者であるエヴァンだ。


「ああ、久しぶりだな」

「あれ、驚かないんだね」


 突然誰もいなかった船に現れて話しかけられれば普通は誰でも驚く。

 でもエヴァンが来る前に空間の歪みを感じた。

 これは『転移』を覚えたことにより察知できるようになったのかもしれない。


「何となく来るのが分かったからな」

「そうなんだ。ずいぶん強くなったみたいだね」


 俺をまじまじと見つめてエヴァンはいう。


「まあ、まだまだだけどな」


 エヴァンと比べれば全然だろう。

 はっきり言って未だに底が見えない存在だ。

 さらにあの女神は上の力を持っているって言ってたしな。

 レベルアップして浮かれている場合じゃないみたいだ。


「こちらの方はレンヤさんのお知り合いなのでしょうか?」

 

 突然船に現れたエヴァンにシーナもネネも驚いているみたいだ。


「ああ、以前に世話になってな」


 まあ恩恵をもらっているし間違ってはいないだろう。


「はじめましてエヴァン様。わたくしレンヤさんの婚約者のシーナ=スカーレット申しますわ」

「はじめまして。同じくネネ=ライリーンと申します」


 カーテシー風だか騎士風だかの挨拶を流麗に決める二人。


「やあ、はじめまして。上条錬夜とは友人だから堅苦しい挨拶はいらないよ。可愛いお嬢さんたち」


 突っ込みどころがあり過ぎて、どこから突っ込んでいいのか分からない。

 いつから俺は二人と婚約してたんだ?

 とりあえず無難なところから聞いてみる。


「俺たち友人だったんだな?」

「ふふ、君と僕の仲じゃないか」


 そんなフレンドリーな間柄だったか?


「で、今日は何しに来たんんだ? 伝道者って暇なのか?」

「ええっ! エヴァン様は伝道者様なのですか?」

「そうだね。そんな風に言われているよ」


 口に手を当て、信じられないものを見たといった感じのシーナ。


「そんなに驚くことなのか?」

「で、伝道者様は神の代行者といわれている人智を超えた存在ですわ。そんな方に会えるなんて驚きますわ」


 神の代行者か。

 たしかに突然現れたり、強さの底が見えなかったりとよく分からない存在だ。

 たしかに神に準ずる者っていうなら、うなずけるものがある。 

 

「そんなに凄い存在だったんだな」


 そんな存在にこんな言葉遣いでいいのかとも思うけど、いまさら変える気もない。 

 友人っていうなら許してくれるだろう。

 エヴァンも全く気にしていないみたいだしな。


「しかしこの船は面白いね。見た目通りじゃないんだろう?」

「ああ。さすがだな分かるのか?」

「まあね」


 さすがは神の代行者ってところか。

 普通の帆船にはない物を色々と仕込んでいるからな。

 それをあっさりと看破するんだから只者じゃない。


「で、本当は何しに来たんだ?」


 出港祝いに来たとかそんなことではないだろうし。


「まあね。誰かさんがこの島のシステムを破壊したからね修理だよ」

「なっ! 破壊するのは不味かったのか?」

「ああ、気にしなくていいよ。修理するのはこちらの都合だから君が気に病むことはないよ」


 この島から脱出するのに黒雲を払い除けたからな。

 まあ、おとがめ無しって言うならいいだろう。


 俺はエヴァンの次の言葉を待つことにした。

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