第147話 ワクワク転移トラップ

 子供らにとって楽しい夏休みが終わり、季節は秋となった。

 ピートの友人達をチョコチョコ指導する様になって、早2ヵ月。

 彼らの腕前は、かなり上達しており、既に剣術スキルが生えている。

 魔法もグングンと適正のある属性の熟練度を上げて居る様子だ。


 日々魔力操作や魔力感知も磨いている様で、身体強化や身体加速もグングン延びているらしい。


 冒険者になるにしても、他の道に進むにしても、このご時世だし最低限自分の身を守れる事は重要だと思う。

 昔、「他国が攻めて来たら、戦わず、守らず、降伏すれば良い。」とか抜かしてた国会議員が居たが、今となってはとんだお笑い草である。


 俺は現在国内のダンジョンではなく、カウアイ島ダンジョンをメインでアタックしている。

 合間合間でアタックしているので、まだ第18階層辺りなのだが、なかなかに美味しいダンジョンである。

 出て来たオーク・ジェネラルや、ダンジョン産のフルーツを冒険者ギルドの本部に買取で出したりしているので、界隈は盛り上がっている。

 美食家達が、驚く様な金額でダンジョン産のフルーツやオーク・ジェネラルの肉を買っているらしい。

 ハハハ。今度面白いからキング出して見ようかなぁ?


 そうそう、カウアイ島ダンジョンの第18階層は大好きなジャングルエリアで、捥いでも捥いでも翌日には実がなっていると言う美味しい階層なのである。

 だから、2週間ぐらいで、下手な年収分ぐらいを一気に稼げてしまうのである。


 あと、第19階層へ行くのが面倒になっている理由があって、第19階層からはゾンビエリアなんだよね。

 いやまあ、マスクもあるから良いんだけど、臭いし、鬱陶しいし、憂鬱な気分になるんだよね。


 しかし、いつまでも駄々を捏ねる訳にもいかないので、ソロソロ先に進もうかと思っている所だ。



 そんな訳で、朝から気合いを入れて、第19階層に降り、出て来るゾンビを聖魔法や光魔法で倒しつつ魔石を収集しながら進んで居る所である。

 弱いくせに、数だけは多いのが本当に鬱陶しい。


 これなら、まだスケルトンの方がマシだ。

 と内心毒突いていたら、スケルトンがお出ましである。

 更にリビングアーマーも混じっている。


 リビングアーマーは新しい愛刀の一太刀で、ガシャガシャと音を立てて崩れ落ちる。

 まるで紙を切って居る様な抵抗すらないのである。


 モンスターハウスにはリッチーを含めたスケルトン軍団が待ち受けているが、リッチーが魔法を発動する前に、サクッと指弾で弾き飛ばして、光魔法の範囲攻撃で仕留めて終わり。

 宝箱からは、巻物と効果付きの指輪やブレスレットが出て来た。

 なかなか初回特典が美味しい。


 この階層の罠だが、この世界で初めて?の転移トラップを発見した。


「わぁ~!転移トラップだ!! ど、どうしよう? ワクワクしちゃうなぁ。行く?引っかかっちゃう?」

 とワクワクしながら暫く考える俺。


 時刻は午後2時ぐらい。 もし飛ばされる場所が場所だと夕食に間に合わない可能性もあるのだが、取りあえずさっちゃんに一報入れとけば良いかと、さっちゃんにちょっと遅くなる可能性があると連絡を入れておいた。


「さあ、景気良く引っかかってみようか。」


 満面の笑みでトラップのスイッチを踏み、俺の周りの床に魔方陣が光り出してサクッと薄暗い場所に飛ばされた。


「ここは?」


 辺りを見回すとかなり広いドーム状の部屋である事が判る。

 飛ばされて20秒ぐらいで、壁に掲げられた松明が赤く燃え始め、ホール全体を照らし始めた。


「おーー! クリスタルの壁か。 なかなかゴージャスな部屋だな。」


 これは期待出来そうである。

 見たところ、特に出口らしい物も無く、魔物の気配も無いのだが、中央の方へ移動し始めると突如中央に魔方陣が発動して、何やらデカい物体が転移して来た。


「ドラゴン、キターーー!!」


 もうこの時点で俺のテンションは鰻登りである。

 何年振りだろうか、ドラゴンとの対戦。

 カサンドラスでは、何匹か戦い、貴重な装備となったり、美味しいお肉を提供してくれたり、潤沢な軍資金となってくれた、美味しい魔物である。

 中には、意思疎通が可能なドラゴンも居て、仲良くなったりもしたんだが、今回現れたドラゴンは……



「ギャガァーーーーーーーーー!」

 と真っ赤な鱗を黒光りさせてるファイヤー・レッド・ドラゴンが雄叫びを上げている。


 フフフ、最高じゃないか。

 俺は愛刀を古い愛刀に持ち直し、ファイヤー・レッド・ドラゴンへとユックリ歩みながら、挑発し始めた。


 さあ、ワクワクする戦いの始まりだ。


 ドラゴンが素早く尻尾を振って俺を弾き飛ばそうと仕掛けて来る。


 俺は一気に加速して尻尾が到達する前に4重に付与を重ねた刀で仁王立ちするドラゴンの腹の辺りを横薙ぎに斬り付けるがカキンと言う音が響き弾き飛ばされた。


「やっぱりこの刀じゃダメか。」

 と呟き、師匠の最新作へと再度持ち替えて、5重の付与を掛けて、再度タイミングを見計らうと空振りした事に怒りを滲ませるドラゴンが、今度は大きく息を吸い溜め込んでファイヤーブレスを放って来た。

 シールドを展開しながら、横に飛んで直撃を避け、そこから一気に腹部分へと飛び込んでブレス直後で無防備な腹を横薙ぎに一振りすると、シュパッっと小さい音を立てて、腹が裂けて値を吹き出す。


「わぁ、こんなに斬れ味が違うのか。流石だよ師匠。」

 俺は嬉しくなって、そのままバックステップで5m程下がる。


「グギャーー」

 と一瞬遅れて悲痛なドラゴンの叫び声が鳴り響く。


 ドラゴンが苦し紛れに左腕の爪で俺を八つ裂きに掛かって来るが、俺は敢えて避けずに6重目の付与を掛けてドラゴンの腕を手首を下から上になぎ払う様に斬り落とす。


「ギャーーーーーーー」

 手首と腹から血を噴き出すドラゴン。


 これ以上長引かせるのも可哀想なので、トドメに入る。


 倒れかけているドラゴンの首を目掛けて飛び上がり、7重目の付与を掛けた刀で、袈裟斬りに刀を振り切った。


 シュッパーーンと気持ちの良い音がした後、ドラゴンの首が静かにズレて行き、頭が地面に落ちた。


 首から上が無くなったドラゴン本体から、盛大な血のシャワーが降り注いでいる。

 俺は慌てて、噴き出す血を全て樽に集め始める。


 闇魔法のチューブを血管に繋ぎ、チューチューと血を吸い込み樽に集めて行く。

 ドラゴンの血って、錬金する時に重宝する非常に高価な素材なのだ。

 ちなみにドラゴンだが、素材として余す所が無いともされている。

 首は既に収納しており、血を集めているが、何時もの様にダンジョンに吸い込まれて消える気配が無いので、これ幸いと吸い込ませている。


 ある程度吸い込んだ段階で、光りの粒子となって消える前に本体も収納しておいた。


 俺はアイテムボックスの中を確認し、ちゃんとドラゴンの頭、身体、手首、血の入った樽がある事を確認し、ふぅ~ と安堵のため息を漏らしたのだった。



「いやぁ~、まさかドラゴンに逢えるとは、実に美味しいトラップだったな。

 やっぱり今度から転移系を見かけたらドンドン引っかかって行こうっと。」


 血だらけになった身体全体にクリーンを掛けて、辺りを見回すと、ドラゴンが現れた中央より奥の部分に大きな宝箱が2つと転移魔方陣が出ていた。

 辺りを見回して見ると、後ろの方に正規の入り口らしき物も開いている。


 どうやら、最下層まで一気に来ちゃった感じらしい。


 取りあえず、宝箱の中身を確認すると、ビーチボールぐらいのサイズの魔石が1つ、更にエリクサーが1本、特級ポーションが3本、それにマジックテントが1つ、マジックバッグが1つ。

 素晴らしく良さげな長剣が1つ、盾が1つ、真っ赤な皮鎧(おそらくファイヤー・レッド・ドラゴンの皮鎧?)一式が1つ、それにブーツであった。

 なかなか豪勢である。

 取りあえず全てを収納して、隣の宝箱も空けると、こちらは、特級ポーションが10本、巻物が10本、効果の付与されたブレスレットや指輪、それにネックレス等のアクセサリー系、それにミスリルインゴットとオリハルコンのインゴットと多分プラチナ?のインゴットがかなりの量入っていた。

 こっちは、まあまあって所かな。


 魔方陣に乗って転移すると、第一階層の転移部屋へと移動した。

 後で確認すると、やはり第100階層……最下層だったようである。


「フフフ。ハッハッハ!! しかし、この刀、本当に凄いね。早速師匠に報告しなければな。」

 とほくそ笑みつつ、自宅へと戻ったのだった。

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