第139話 別荘は何処に?
先週末の秋の週末温泉旅行は、例の騒動で延期になっていた『天童温泉』で、かなり盛り上がった。
まあ、いつも温泉旅行で盛り上がっているのであるが、佐々木家界隈の盛り上がり方と言うと、宴会は宴会でも、特に『食』の宴会となる。
勿論酒も入るのだが、やはりメインは食。
山形の食と言えば……玉コンニャクや『だし』等が頭に浮かぶかもしれないが、俺は蕎麦である。
肉蕎麦とか板蕎麦とかが美味しかった。
ゴッツい木の板の上にデーーンと並べられた、太めの田舎蕎麦って感じで、ボリューム感も良く、味も良かった。 機会があれば、是非また行きたい。
そして、忘れてはならないのが、米沢牛。
もう美味いのなんの。ステーキやしゃぶしゃぶ、すき焼き、焼き肉、どれも美味しくて、ついつい全員がバカ食いし、宿や店のスタッフにドン引きされてしまった程。
そんなに食べなさそうな細身の女性まで、軽く1.5kgぐらいは食べるのだからなぁ。
更に細マッチョな男性陣は2~3kg食ってたし。
俺が宿に入った際に、予告してなかったら、食材が空になる所だった様子。
まあ、そんな訳で、かなりの暴食の限りを尽くした訳だ。
そして、今朝は月曜である。
温泉旅行と、リアルにハワイのカウアイ島と言う無人島を頂いてしまったので、先週までの清兄ぃ達による『押しつけ』のムカつきを忘れ、目覚めから絶好調である。
今、サイトでどんな別荘にするかを検討中なのだが、どんな建物にするか、悩むなぁ。
でもやっぱり、場所を考えると、純和風ってより洋風リゾート感を出すべきなのかもな。
そうなると、パッと頭に浮かぶのは、ログハウスだよな。
俺は、ログハウスの会社をネットで探すが、弾劾の日からの激動によって、殆どそう言う会社は潰れてしまっていた。
そして1社だけ細々と残っていた会社に連絡し、実際にあると言うモデルハウスを見に行く事にしたのだった。
「いやぁ~正直な話、もうそろそろ限界を感じてまして、会社を畳む事を考えていたのですよ。」
と逢って握手した直後からぶっちゃけるログハウス建設会社の社長。
「ハハハ、そうだったのですか。
それはギリギリセーフで、私にしてみればラッキーでしたね。
確かに今回ネットで探しても御社ぐらいしか残ってませんでしたから、理由は察しております。」
と俺が気の毒そうに言うと、
「まあ、ご察しの通りの理由ですね。
元々日本の風土にログハウス自体がマッチしないと言うか、周囲から浮きますからね。
それこそ、田舎の方とか、別荘には良いですけど、街中の住宅地では、アレ? って感じですものねぇ。」
と社長自身がぶっちゃける。
「ハハハハ。確かにそう思いますね。」
「まあ、うちの場合は、こんな片田舎で兼業でやっているから、残ってるだけなんですが、ただログハウスを作るにしても、現在だとかなりの金額が掛かってしまいますよ。」
と社長が言う。
理由は、弾劾の日以前はカナダ等から、加工済みの丸太を輸入していたのだが、現在では輸入は途絶え、日本国内の木を使う必要があるので、材料費が高騰しているらしい。
当然だよな。日本の林業は嘗てほぼ衰えて、細々とやって居た所に弾劾の日である。
山には当然魔物が我が物顔で闊歩しているので、戦闘力の無い林業従事者(割と高齢が多かった)は、迂闊に山に入れなくなり、その結果、枝の剪定なんかもされずに、自然林となってしまい、今までの様な品質の材木には鳴らなくなってしまった(らいしい)。
で、この社長の所の倉庫には、当時カナダから輸入した最後の荷が残っているそうで。
「しかし、これを使って建てたとしても、もう私もこの歳ですので、会社を畳む事を検討していたのです。なのでメンテナンスや保証が出来ないのですよ。」
と社長が申し訳無さそうに言って来た。
「なるほど。まあ、それは全然OKなんですが、そうなると、ここのモデルルームとかはどうされるおつもりだったんですか?」
と事務所の横に建ち並ぶ、4タイプ程のモデルルームを窓越しに見ながら聞いてみると、
「ええ、会社を畳むとなると、危ないので、全部廃棄ですね。実に勿体無いのですが、こればかりはどうしようもないですから。」
と社長が凄く残念そうに言う。
本来であれば、移設って事も考えたい所ではあるが、ログハウスの場合、かなり重いので厳しい上、モデルルームは全てゴージャスな物なので、どうしようもないらしい。
「そうですか。じゃあ、俺、そのモデルルーム全部丸っと買い取りますよ。そうすれば、撤去費用も掛からないし、お互いにWinWinじゃないですか?
俺、まあとある特殊能力がありましてね、大きさや重さ関係無く、収納出来るのですよ。つまり土台から上を丸っと収納出来るから、そちらで、配管等を事前に切り離しておいて貰えば、丸っと行けますよ?」
と俺が提案してみると、
「おお!! 本当ですか!? それはこちらとしては最高の提案なんですが。」
とそれまでとは打って変わって、明るい笑顔を見せ始める。
「実は、今回ある仕事で島を1つ手に入れましてね、そこに別荘として置いて置きたいのです。いやぁ~俺としても直ぐに島の別荘が使える様になるから、大助かりですよ。」
と言うと、「宜しくお願い致します。」と堅く握手されてしまった。
価格だが、もの凄く安い値段を提示されたので、逆に恐縮してしまい、4タイプのモデルルーム丸ごとで1億円、更に倉庫に眠る最後のキットも購入する事にして、同様にここの敷地に建てて貰い、それを俺が移設する事で話が決まったのだった。
モデルルームとキットのログハウスの建築費用諸々を含め、1億5千万円を先に全額支払い、明日最初にモデルルームを受け取る事として契約書を交わして、カウアイ島へとやって来た。
日本では、午前10時半くらいだったのだが、ハワイでは時差で既に15時半くらいである。
急がないと日暮れまでに2時間ぐらいしかない。
まずは、一通り空中から観光である。
もう、この強烈な尖った尾根を持つ島全体の形だけでも素晴らしいのだが、まずは何と言っても、ネットで調べたオパエカア滝であろう。
「ぉおーー! これは凄いな。 この滝の周辺に建てるかな? うーん、分散して建てるのもありか?」
と頭を捻りつつ次の観光地へと飛ぶ。
道路は殆ど使い物になるならない以前に、植物や倒木で蹂躙されていて、所々に道路の後が残って居る状態。
更に所々にあった家や商業施設も悲惨な状態で、念の為に生き残った人の気配を探しては居るが、魔物や動物の反応しか無かった。
ネットでは、ワイルア川も綺麗で素晴らしい写真だったが、実物はもっと素晴らしかった。
結局彼方此方良い場所はあるが、1人で決めるのは難しいと判断した。
海岸線を見れば、素晴らしい青い海の側にあると良いかも!と思ったり、綺麗な川だとここの傍も良いな!と思ったり、行く先々で同じ事を思ってしまうからである。
ハワイの夕暮れ時が近付き、海が夕焼け色に染まる。
「ああ、素晴らしい眺めだ。色々な日常の細事が吹き飛んでしまう程に綺麗だな。」
と言う事で、結局別荘の置き場を1人で決定するのを早々に諦め、さっちゃんチョイスに委ねる事にした。
決して面倒だからではないからね?
そして、自宅に戻ると、さっちゃんが昼食の準備をしている最中で、急遽俺の分も追加してくれた。
昼食時にさっちゃんに場所の写真を見せながら、何処が良いかと聞いてみると、
「え? でもせっかくのハワイだよね? だったら、海岸の傍がベストなんじゃない?」
と即答されてしまった。
まあ、言われてみれば、ハワイ=南の島=綺麗な海 って図式だよな……良いのか?それで。
そして、逆に綺麗な砂浜と綺麗な海に沈む夕日が見える所であれば、後はお・ま・か・せ! だそうだ。
昼食を食べ終わった頃、良いタイミングでログハウス会社の社長から、「取りあえず、モデルルームの切り離しが完了したよ。」との連絡を受け、早速受け取りに行った。
「早いっすね。大歓迎っす。」
と笑顔で答えると、
「ハハハ。折角最後の大口のお客様だしね。
それに、モデルルームが撤去出来れば、そこの土台を活かして、キットの方の組み立てが出来るから、一石二鳥だよ。」
とこれまた笑顔で返された。
「はぁ、なるほど。確かに土台を作る作らないで、1週間は時間が短縮出来ますよね。」
と納得した。
社長は、
「まあ、本当なら最後の仕事になるから、設置に立ち会いたい所なんだけど、難しいよな?」
と少し寂しげな顔で聞いて来た。
うーーーん、これは悩ましいな。
どうしよう? 俺の島とは言ってるけど、まさかカウアイ島とは思ってないよなぁ。
でも、長い人生を掛けた会社の最後の作品となる訳だもんなぁ。
「うーん……ダメじゃないんですが、秘密を守って下さいますか? であれば、特別に社長だけお連れしますが、夜中と言うか24時ぐらいに出発する事になりますよ?」
と俺が言うと、
「え!? 良いの? 秘密は墓場まで持って行くので、是非ともお願いします。 俺の人生の大半を掛けた会社の最後の大仕事なんで。」
とお願いされた。
「判りました。日程決まったら、連絡しますね。」
と約束して自宅へと戻ったのだった。
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