第136話 押しつけられた

 さてと、お宝部屋へ突入である。

 シャッター横の扉を開けて中に入ると、倉庫の中は真っ暗。

 何処かに照明のスイッチ無いかな?


 しょうが無いので、自前の光魔法のライトを浮遊させて照明代わりにすると、

 凄く広い空間に、棚が並び、小箱等に色々と書かれた紙が貼ってある。

 奥の方までは光りが届き切って無い感じがするので、多分空間拡張型の倉庫だと思う。


「なあ、これはもの凄い量があるよな。多分空間拡張されているんだと思う。

 いやぁ~、これは大変だ~ ハッハッハ!!」

 と俺が笑うと、兄上も満面の笑みで笑っている。


「あつしさん、これ、ヤバいっすね!」

 と城島君もテンションが上がっていて、目を輝かせている。


 あまり興味の無い清兄ぃ、叔父上、父上、聡君は結構ゲンナリとした表情で、何処まであるのか判らない倉庫の奥の暗がりを眺めてボーッとしている。


 まあ人間、終わりの見えない作業に関しては、楽をしたがる物で、

「なあ、徳士~、これさぁこの倉庫ごと収納する方法無いものかな?」

 と何とか時間を掛けなくて済む方法を模索している。


 俺も一瞬何か方法が無いかと考えてみたが、そもそもこの部屋をきりはなしたとする、そうすると、魔力供給源が無くなって、部屋が爆発する可能性すらあるな。


「うん、無いね。切り離したら、下手すると塔が爆発するかもね。

 やっぱり、ここは地道に手分けしてやるしかないかと。」

 と俺が言うと、項垂れていた。


「でも、ここにあるのは結構お宝だと思うよ?」

 と俺がフォローしたのだが、あまり興味なさそうであった。

 まあ、錬金とか魔道具作成に興味無いと、そうなるだろうなぁ。



 俺達は手分けして一人一列を担当し、ドンドンと収納を開始した。

 俺も結構身体強化と身体加速まで使い、ドンドンと収納していたのだが、一行に終わる気配もなく、そのままその日は早めに終了したのだった。





 いまだ1つ目の倉庫で回収作業を行っているが、3日目の今日でさえ、終わりが見えないと言う状態である。

 この回収作業のテンションを下げる要因の1つは、更にこれと同じ様な倉庫がまだ沢山残っている事である。

 余りにも怖いので、シャッターの数は数えていないと言う……。


「もうちょい、効率を上げる方法か……。ちょっと真剣に考えないと、終わりが見えないな。」

 と当初は喜んでいた自分でさえ、ウンザリし始めているので、元々興味の無かった人達には苦行でしかないだろうし。




 昼食休みの際に、

「なあ、これはマジな話し、この倉庫だけで後何ヶ月かかるか、判らないよな。

 流石にこのまま力業でやるのは無理があるし、ちょっと方法を考えるべきだよね。」

 と俺が全員に話しかけると、これまで我慢していたのであろう、清兄ぃや父上、叔父上が堰を切った様に激しく同意して来る。


「方法かぁ。あ、もしかして…… ねえ、誰かあの棚があったじゃん、あの棚ごと収納を試みた人いる?」

 と聞いてみると、全員首を横に振っていた。


 おれは再度倉庫に入り、入り口付近にある空の棚を収納してみた。


「おお、棚単体は収納出来るな……。じゃあ、荷物のある棚ごと収納出来るかな?

 ちょっと試そう。」

 と場所を移動して行き、品物のある棚へと移動した。

 そして、棚ごと収納! っと……出来たよ。


「「「「「「おおーーー!」」」」」」

 と周囲から歓声が上がる。


「出来るじゃん! マジか。 これで10倍以上効率が上がるよね?」

 と俺が全員を見ると、大きく頷いている。



 そこで、1つ閃いてしまい、試す事にした。


 一応俺のアイテムボックススキルだが、ある程度の距離が開いていても、収納したり出したりする事が出来る。

 この特性と、魔法を組み合わせたら、どうなるんだろう? と。


「ちょっと、もう1つ試したい事を思い付いた。

 上手く行くかはやった事ないから微妙だけど。」

 と言いながら、闇魔法のダークバインドの応用で、俺の身体から、黒い闇の触手をウネウネと生やし、明らかにアイテムボックスのスキル範囲外の所にある棚の所まで触手を伸ばした。

 そして、『収納』っと。


「あ! 出来たよ。」


「「「「「「………」」」」」」


 みんなが黙っちゃったよ。


「おーーい、徳や、なんじゃ、そのグロイ触手は?」

 と一足先に復活した清兄ぃが、2歩程下がって聞いて来た。


「ああ、これ闇魔法のダークバインドを応用した触手だよ。

 これなら、一気に範囲を広げられるみたいだね。」

 と俺が説明すると、


「闇魔法かぁ……俺属性ないな。」

 と聡君が嘆いていた。


「なあ徳や、その触手じゃが、触手ではなくて、網の様に広げる事は出来んのか?

 その網をこの倉庫一杯に広げてじゃな、一気にドカンと収納出来んかのぉ?」

 と清兄ぃが提案して来る。


「ほう、なるほど! 点でなくて、面で広げるイメージか。

 ああ、なんか出来そうな気がするね。ちょっと試して見よう。」


 俺は、ダークバインドをこの床全面に広げるイメージを練って行き、ドンドンと黒い風呂敷を広げて行く……

 そして、広がりきった所で『収納』!


「「「「「「おおーーー!」」」」」」


「出来たね。ハハハ…… 出来ちゃったよ。」

 と笑う俺。

 何だよ! こんな事が出来るなら、今までの苦労は何だったんだよ! と心の底からの後悔と言うか、惜しい事をしたと言うか。


 理由は、これが出来るのであれば、前世のカサンドラスの世界でも、有効活用すれば、今の数倍所では無い量の物資が俺のアイテムボックスにあっただろうし、苦労も少なかったと思う。

 魔王の討伐時期も、もっと早く出来たかもしれないな。


「はぁ~………」

 と心のそこからため息が漏れてしまった。



 と言う事で、結局

「じゃあ、ここは終わった様じゃし、この階の倉庫は徳に任せてええかのぉ。

 ワシは年寄りじゃから、ソロソロ縁側でホッコリさせて貰おうかのぉ~」

 と急にジジイの様に腰を曲げて、「じゃあ、後はよろしく!」と言い残し、ゲートで去って行った……。


「そ、そうだな。ここは徳士に任せて大丈夫そうだな。」

 と父上も悪い顔をし始め、叔父上の方をチラリと見て目で合図している。

「ああ、そうだね。もう大丈夫そうだな。じゃあ、俺らも退散するかぁ。邪魔になるし。」

 と言うと、聡君までも、

「そうだね、これだけ一気に行けるなら、大丈夫だねぇ。」

 と言い出す始末。


 俺は、縋る様に兄上をチラリと見ると、兄上もソワソワし出していて、

「ああ、ソロソロ会社に戻って溜まった通常業務やっておかないとだったな。

 城島君もソロソロ会社の方の業務があるし、悪いけどあつし、頼むね。」

 と言いながら、俺一人を残して全員がゲートで消えて行った。



「ガーーーーン、俺だけでこのだだっ広い塔に置き去りかよ!!!!」


 と誰も居ない倉庫で大声で叫んだ。


 しかし、広すぎて声の反響すらない起こらない静けさを全身でヒシヒシと感じるだけであった。




 それから俺は、ヤケ気味にこの階の倉庫を全部一人で総なめにした。

 しかも、3時間ぐらいで……。

 これまでの3日間が悔しい。


 1人で37階層に降りると、36階層と同じ様な光景が目の前に広がった。

 まずは廊下に散乱している、亡骸を収納し、次に倉庫を制覇して行く……。


 37階層を全て終えた所で本日は終了となったのだった。



 しかし、あれだな。

 これだけ物資あるんだったら、何処かに食料庫とかもあって不思議はないが、どうなんだろうか?

 今の所、食堂の様な部屋は見つかってないけど、この下の階層の何処かにあるのかもしれないな。

 見つけても別けてやるもんか!! と心に決めて自宅へと戻るのだった。


 そして、出迎えてくれた愛する家族の笑顔に、荒んだ心が少し温かくなるのであった。

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