第108話 不安材料
翌朝8時前に、昨日の最終地点へと戻り、無事に清兄ぃと合流した。
「よくよく考えたらさ、もう年末じゃんよ。
サクッとこの依頼終わらせて、年始はユックリ過ごした所だね。」
「そうじゃったのぉ。
今年の年末年始は温泉無しかのぉ。」
おお、そうだったな。温泉行きたいな。
「いや、温泉行きたいよね。
うーん、今から予約って間に合うのかな?」
「どうじゃろうか?
まあ、復興中じゃから、まだ温泉宿空いてる所もあるんじゃないかのぅ?」
と言う事で、母上に連絡して、年末年始の温泉企画をお願いしてみた。
母上は、ノリノリで、
「判ったわ! 至急みんなに打診して良さげな温泉宿を手配してみるわ!」
との事だった。
「よし、そうと決まれば、サクッとアルサンドラ魔人国の方を終わらせて、任務完了するぞぃ!」
と俄然ヤル気が漲る清兄ぃ。
まあ、俺もなんだけどね。
しかし、自力で飛ぶと、季節柄寒いのと、楽が出来ないので、オスプレーを使う事にした。
まあ、本気で気合い入れれば、時前で飛ぶ方が断然早いし、小回りも利くんだけどね。
ほら、オスプレーで飛べば、飲食も出来るし。
と言う事で、オスプレーを取り出して、アルサンドラ魔人国の王都?魔都?方面へと出発したのだった。
厳密な国境が無いので何とも言えないが、1時間ぐらい飛んだ辺りで既にアルサンドラ魔人国のテリトリーに入ったとは思うが、特に集落等は見当たらない。
アルサンドラ魔人国だが、人口が少ないと言う話だったので、都市は少ないのかも知れない。
ドライスラー王国では、直接国交が無いアルサンドラ魔人国の情報は、殆ど無かったからなぁ。
2時間程南下した所で、小さい集落を発見し、一旦降りる事にしたのだった。
オスプレーから降りてみると、痩せ細った獣人達が、警戒してこちらを見て居る。
「あー、驚かせて申し訳ない。悪意も敵意も無いから。困っていると聞いて、食料を持って来ただけだから、安心してくれ。」
と声を掛け、立場と趣旨を説明し、救援物資を目の前に出して見せると、少し桑や棒を持つ手の力が抜けた。
「あと、病人怪我人がいたら、治療も出来るから、一箇所に集めて貰えると助かる。」
「ホンマけ? た、頼む!」
と熊の獣人に案内されて、病人の集められた大きめの小屋へとやって来た。
中には、老人~子供まで14人が寝かせられており、ゴホゴホと咳をしている。
鑑定を使ってチェックすると、どうやら結核っぽい。
「ああ、これは結核ですね。
これ村人全員保菌している可能性あるので、こちらの部屋の治療が終わったら、念の為、他の人も全員治療しないと、また蔓延しますよ。
残りの住民集めておいて貰えますか?」
と言うと、
「やっぱり、伝染する病気だっぺ?
子供らもおるで、何とか頼んます。」
「おう、任せておけ!」
と言う事で、ヒールとキュアで部屋の中の全員の結核を完治させた。
勿論風呂なんかに入ってないから、実に臭かったので、部屋ごとクリーンも掛けた。
「ふぅ~。やっとこれで普通に息が出来るぜ。」
病人が終わると、今度は残りの村人達にもキュアとヒールを掛けて、保菌した結核菌を撲滅した。
更に各小屋を周り、クリーンを掛けて廻った。
「これでもう大丈夫だと思う。
後は、栄養を取って体力を戻せば元通りだよ。
取りあえず、消化の良い雑炊辺りからかな……。」
鍋や食器を持ってこさせて、アイテムボックスから取り出した出来合の雑炊を別けてやり、更にオークを5匹程別けてやった。
付近の集落の情報も教えて貰ったので、そちらにも寄る事にして、この集落を後にしたのだった。
教えて貰った3箇所の集落でも同様に困窮していたが、結核等の伝染性の病人は居なかったのは幸いだった。
ケモ耳大好きな自衛官の為にも、分散している獣人達を1人でも多く助けたいが、国と言う単位を持たず、分散し過ぎているのが厄介である。
アルサンドラ魔人国の首都を目指しつつ、更に3箇所程集落を発見して救援したが、夕暮れ時になり、適当に着陸して一泊する事になった。
オスプレーの横にテントを出して、適当に食事を取っていると、母上から温泉宿の予約が取れたと、嬉し気な連絡が入った。
「大晦日の朝から移動だけど、そっちは間に合いそうなの?」
と母上が心配していた。
「ああ、うん多分大丈夫だとは思うよ。
まあ、最悪の場合、遅れて合流するけど、この分なら、明後日までには終わる筈だから……多分。」
「判ったわ。兎に角気を付けて、急いでね。フフフ。」
と通信が切れた。
「清兄ぃ、温泉宿取れたらしいよ!」
「ほぅ!そうか!! じゃあ、ワシも彼女に連絡せにゃ! あ、ここじゃスマホ使えんのじゃったな。
ちょっと、行ってくる。」
とホクホク顔で清兄ぃが消えた。
それから3時間程してやっと清兄ぃがスッキリした顔でニマニマしながらご帰還してきた。
こ、こいつ……自分だけスッキリしてきやがったな!!!!
まあ、俺も昨夜スッキリして来たから良いけど、なんか癪に障るな。
だが、まだ皐月は夜泣きとかで手が掛かる時期だし、さっちゃん1人で家に居るからなぁ……新婚の頃の様には魔王になれないもんなぁ。
等と考えながら、結局悶々と夜を過ごすのであった。
◇◇◇◇
翌朝、目覚めると、早々に朝食を済ませ、直ぐに飛び立った。
アルサンドラ魔人国の首都の位置だが非常にザックリとした場所しか判っていないので、集落に寄る度に、方向と大凡の距離を聞いて三角測量ではないが、大体の予想地点を出している。
ただ、聞いた相手が大雑把な獣人と言うのが、実に怪しいのだがな。
種族的に大体の獣人は大雑把で、脳筋が多い。
獣人の女性をゲットするには、端的に強さをアピールすると、思いの外、上手く行く。
そう言う意味ではチョロいとも言えるが、正に肉食女子で、こっちに気が無くてもグイグイと来るので、処理と言うか躱すのが大変だったりする。
「あ、そう言えば、自衛官達に、獣人の尻尾や耳を無闇に触るなと注意し忘れたな……。」
とハッと思い出して呟くと、
「なんじゃ? 尻尾や耳は触っちゃ駄目なのか?」
と清兄ぃが聞いて来た。
「ああ、尻尾やケモ耳って、獣人の女性に取っては、聖域なんだって。
だから、安直に触ると、セクハラというか、嫁に貰わないと拙い事になるかもね。」
と俺が答えると、
「なるほどのぉ~」
と悪い笑みを浮かべていた。何か不安。
そして飛ぶ事1時間半ぐらいすると、前方に都市が見えて来た。
「お! あれかな?」
「おお、見えて来たのぅ。 あそこに妖艶なお姉ちゃんが居るのじゃな?」
と嬉しそうな清兄ぃ。
うーん、清兄ぃってこんなに、女好きだったっけ? もっと真面目なイメージあったんだが。
それを聞いてみると、
「まぁ、女房に先に逝かれ、子も先に逝き、孫も大人になって、一人っきりも寂しいしのぉ。
身体も若返って、持て余しとるんじゃよ。
まあ、冥土の土産と思ってくれ。」と。
まあ、確かに、そうだよな……俺もさっちゃん先に逝かれると、困ると言うか、火が消えた様になっちゃうかもな。
しかも、子供にまで先に逝かれると、確かに辛いな。
「そうだな。確かにそれは寂しいな。」
と思わず、清兄ぃの肩をそっと手を添えた。
「じゃろ? だから情熱を注ぐ相手が欲しいのじゃよ。
まあ、大体みんな孫以下の歳になってしまうんじゃが、その点、あのエルフの女王は良かったのぉ。
惜しいのぉ~。」
と呟いていた。えーーー!? エルフの女王狙ってたんかい! なんと恐れ知らずな……。
「せ、清兄ぃ、それ割と大問題になるから、本当に勘弁してね?」
と言ったが、ガハハと豪快に笑って誤魔化されたのだった。
これから行く魔人族の構成を考えると、一抹の不安が脳裏を過ぎるのは、気のせいだろうか?
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