第106話 お伽噺級の1ページ
「何者だ? ん? ッハ、ハミルダ様!!
こんな非常時に、一体何処に行かれてたんですか!
おい、直ぐに王宮へ伝令を出せ!」
とエルフのの衛兵が他の者に命令を出していた。
「え? 人族……だと? ハミルダ様、これは一体??」
とやっと俺と清兄ぃに気付き、更に慌てる衛兵5名。
まあ、予想通りと言えば予想通りだったのだが、この世界と言うか、この大陸のエルフの世界でも、カサンドラス同様にエルフは排他的で、ヒッキー体質であった。
更に多種族に対しては、人見知りが激しく、プライドが高い為、多くの人族は、ツンデレの『ツン』しか見る機会は無いのである。
ん?こうして見ると、超美形揃いではあるが、デメリットだらけじゃねーか! と言いたくなるだろうが、そうとばかりは言えない。
メリットを上げると、兎に角、人族よりも魔力が多く、魔法に精通している(と言われている)し、精霊に愛されやすい体質なので、精霊魔法も使える。
加えて弓の扱いは一級品で、その矢は針の穴をも通す。
一度デレた相手に対しては、情が深く、一途になる。まあ、これは逆に良い面と悪い面でもあるが、頑固且つメンヘラ体質でストーカーに成り易かったりするのだがな。
エッチに対しては、非常に相性が良く、貪欲に求めてくる。
さっちゃんはと同じで、性的に興奮したエルフの女性は、あの長い耳から、非常に素晴らしい香りが漂って来るのである。
ペッタン好きや、匂いフェチには、至極のパートナーであろう。
おっと、今の俺はさっちゃん一筋だからな……。
話が逸れたが、どうやらこのちびっ子エルフの1人リーダー格のハミルダと言う子は、それなりの地位を持つ生まれの子らしい。
ふむ、これが吉と出れば上々なのだが、誘拐犯と間違えられたら目も当てられんな。
しかし、何だなぁ~。こうして敵意を持ったエルフに囲まれるのは、久々だなぁ。
「うーん、どうせ取り囲むのであれば、エルフの男ではなく、おねーちゃんにして欲しかったのぉ~。」
と清兄ぃは暢気な事を呟いている。
しかし、取り囲んでいるエルフ達の顔色は悪く、明らかに空腹なのが見て判る程の状態であった。
「なあ、あんたら、食料無いんだろ? まあ取り囲むのも良いが、先に食い物食べないと、俺らの相手にはならんぞ?」
と俺は兵士らに、カロリーを補充してくれるスティックタイプの携行食を一箱ずつ配って廻る。
「それはこちらの世界の携行食品で、非常に栄養価が高い物だ。
フルーツ味で美味しいビスケットと言うかお菓子みたいな味だぞ。
食べてみろよ。」
と言うと、空腹に堪りかねていたエルフ達の1人が袋を開けて、1本をパクッと半分食べた。
「うっめーーー!!!」
と目を輝かせるエルフの兵士。
一箱に入っている2本をアッと言う間に食べ、
「滅茶苦茶美味しかった。」
と足りなさそうな顔をしている。
それを見た兵士達は、手にした携行食品の袋を開けて、同様にバクバクと食べて、これまた同じ様に絶叫していた。
足りなさそうだったので、紙に包まれたハンバーガーを1つずつ配ってやると、これまた絶叫して食べていた。
「なあ、あんたらの国には、こんな美味しい物があるのか?」
と最初に食べたエルフ兵士が聞いて来た。
「ああ、他にも色々と美味しい物があるぞ。なんせ、俺の祖国は日本だからな。こちらの世界でも有名な美食の国だぞ。」
と言うと、滅茶滅茶食い付いて来ていた。
そう、俺の知るエルフは、実に食い物に弱いと言う弱点があった。
それは、エルフ料理が割と簡素な物が多く、味付けもハーブや何かで、良く言えば薄味。悪く言えばボヤけた病人食を更に薄くした感じで、パッとしないのである。
よって外の世界を知らないエルフ達は、長年それに慣れてしまい、食に対する意欲が薄れてしまっているが、一旦外の世界の美味しい物を食べてしまうと、貪欲になるのである。
そして、この一連の出来事により、一気にエルフ兵士達5名の警戒心が薄れ、ちびっ子3名も加え、ココアのコップを手にして、ワイワイと話をして王宮からの指示を待つのであって。
正にエルフの性格と言うかツボを知る徳士ならではの、巧妙な技であった。
◇◇◇◇
衛兵の隊長の先導の下、エルフの王宮へと連れられ、現在エルフの女王と謁見の間でご対面中である。
「ふむ……なるほど。その方らの国は食料を提供してくれると言う事か。
実にありがたい。通常であれば拒絶する所であるが、この非常時、しかも女神カサンドラ様からの神託を受け取る者である。
ありがたくお請けしよう。」
と言う事で、すんなりと受け入れられたのだった。
更にエルフの女王、エカトリーナの話を聞いて、この大陸全土の不作の原因が判明したのだが、この大陸の元の世界で暴走した魔動兵器が世界全体の魔素を集めて消費した事で、大地の魔素まで枯渇寸前になった事が原因らしい。
元々ユグドラシルの木には魔素を備蓄したり、宇宙からの魔素を取り込んで、大気中や地中に放出したりする機能があるのだが、その備蓄すら枯渇して、枯れる寸前だったらしい。
「なるほど。では、ある程度時間は掛かるけど、この世界は魔素が豊富らしいので、徐々に元に戻りそうですね。」
「うむ。早ければ1ヵ月ぐらいで、この森全体に行き渡り、ユグドラシル大陸全体も3ヵ月ぐらいで浸透するじゃろうて。」
ふむふむ、3ヵ月かぁ~。ちょっと長いなぁ。幾ら日本が支援するったって、日本も食料が余ってる訳じゃないからなぁ。
ここは強引に魔力譲渡とかで
「ちなみに、1つお聞きしたいのですが、ユグドラシルの木自体に魔力を譲渡すれば、少しは早まるって事はないですかね?」
「いやいや、魔力の多いとされるエルフであっても、100人やそこらの全魔力を譲渡しても、1日すら早まる事はなかろう。」
「まあ、これだけ大きな木ですもんねぇ。しかし、エンシェント・ドラゴンの魔石の魔力があれば、如何ですかね?」
「確かに、エンシェント・ドラゴンの魔石ぐらいがあれば、木の備蓄分はアッと言う間に満タンになりそうじゃのう。
とは言え、エンシェント・ドラゴンの魔石など、お伽噺の中でしか出てこんからのぉ。」
「いやいや、ラッキーでしたねぇ。何かの役に立つかと、取って置いた甲斐があったと言う物ですよ。
フフフ、偶然にも、俺、持ってましてね。」
と俺が言って、アイテムボックスからエンシェント・ドラゴンの巨大な魔石を取り出すと、謁見の間が水を打った様に静まり返った。
「まあ、正直デカ過ぎて、使い道に困ってたってのもあるんですが、どうせ死蔵していてもしょうが無いので、この際、パッと行っちゃいますか。ハッハッハ。」
と一応フォローの意味も込めて補足したんだが、次の瞬間、
「「「「「「「「「うぉーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」
と言う歓声が鳴り響いたのであった。
その後、面倒なやり取りがあったものの、無事に許可を貰ってユグドラシルの木の下へとやって来る事が出来た。
清兄ぃは、初めて間近で見るユグドラシルの木を見上げ、
「いやぁ~、ファンタジーの定番とは言え、本当にデカいのぉ~。」
と感心している。
「高さも強烈だからなぁ。しかし、驚く事にこの木って滅茶苦茶軽いんだぜ。
その癖に頑強で、枝とかは加工するのが大変だけど、この木の枝で作られた魔法の杖は、もの凄いんだよね。」
と説明すると、「ほほー!すると、これを刀の鞘にすると、面白いかも知れんのぉ。」
と興味津々の清兄ぃ。
「ふむ。贅沢過ぎて、その発想は無かったな。面白いなそれ!
じゃあ、お願いして、枝を少し別けて貰うか。フッフッフ。」
そして、俺は片手をエンシェント・ドラゴンの魔石に触れ、もう片手をユグドラシルの木に触れて、気合いを入れて魔力操作を始めた。
ユグドラシルの木、全体がボワンと白く輝き、魔力が木全体を巡り始めた。
魔力譲渡であるが、これは人から人へ程度であれば、まだ難易度は高いものの、出来ない事は無い。
おそらく、魔力譲渡が出来る者は、カサンドラスでも100名以上居ると思う。
しかし、これだけの規模の魔石からこれだけの規模の物へ魔力譲渡となると、話は別で、人類嘗てお伽噺の中ですら出て来ない。
理由は簡単で、例えは汚いが、『ダムの底の栓に繋がったホースを口に咥え、鼻からその水をコップに出す』のが不可能なのと同じ理由である。
つまり、通常であれば、その魔力の圧力に耐えられないのである。
謂わば、細い電線に高電流を流すと発熱して断線してしまうのと同じだ。
人間の体がその圧力を制御しつつ、強烈な流量でユグドラシルへ魔力を譲渡するので、まあ普通なら体が弾ける。
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徳士がユグドラシルの木へ魔力譲渡を開始する遙か後方では、エルフの女王エカトリーナと、その子供達……つまり王子や王女も固唾を呑むで見守っていた。
まあその子供達の中には、ちびっ子3名の姿もあったのだが。
通常、美形揃いのエルフ達は、美形故に外見に対する一目惚れというのは例が少なく、逆に魔力の美しさや逞しさや気品に惚れる事が多い。
そして、神々の寵愛を受けた徳士の魔力は、エルフに取って、初めて見る程の美しさであり、逞しさであり、気品と言うか神々しささえ感じる物だった。
エルフの男達は、その魔力のオーラに憧れを、女性達は激しい程の欲情を抱いてしまった。
況してや、エルフでさえ不可能と思える規模の魔力譲渡を、難なく熟している徳士の偉業に、惚れ込んでしまっていた。
「お母様、あの方素敵ですわ!!
是非、私をあの方の下へ!」
「あら、お姉様、それだったら、私の方が若くて丁度良い年頃かと。」
等と嫁ぎ先争いが密かに勃発していたりした。
女王はボソリと
「ああ、今、私達は、歴史に残る偉業の瞬間に立ち会っているのです。
これは、新たなお伽噺の1ページなのです。」
と興奮していたのだった。
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「なあ、徳やぁ。それ、もうちょっと掛かりそうかい?
退屈なんじゃが?」
と清兄ぃがボヤく。
「ハハハ。そんなに簡単に終わる量じゃあ無いんだよなぁ……。
あ!そうだ!! 清兄ぃ! 手伝ってよ! 清兄ぃなら出来るから。多分。
2系統で補充した方が、圧倒的に早く終わるし。」
と俺が言うと、
「えーぇ?面倒臭いのぉ。
まあ、サクッと終わらせた方が、ユックリとエルフの里を堪能出来るかのぉ。」
と呟きながら、俺と同様に、手をユグドラシルの木とエンシェント・ドラゴンの魔石に引っ付けて、魔力譲渡を開始した。
ユグドラシルの木を取り囲むボワンとした白い光が、更にボッと明るくなり、2倍のスピードで魔力譲渡が進んで行く。
「徳や、これ、結構大変じゃのぅ。凄い勢いで体の中を魔力が駆け巡るわい。ガハハ!!!」
と初めての魔圧に驚きつつも、流暢に魔力をバイパスして行く清兄ぃ。
流石だな。
「ああ、なんかこれ、慣れるとかなり魔力の流れが良くなってくるな。
ほほーー! ええぞ!ええぞ!!」
と頻りとホウホウと嬉しそうに唸っている。
「まあ、確かにこの魔圧と量は魔力操作の熟練度を一気に引き上げてくれそうだよな。」
「じゃろ? これはなかなか良い鍛錬じゃわい。」
と気に入った様子だった。
2日掛かりの作業を覚悟していたが、清兄ぃの手助けのお陰で、途中1回休憩を挟んだものの、4時間程で魔力譲渡が完了した。
直径1m程のエンシェント・ドラゴンの魔石の色は乳白色となり、その魔力残量はほぼ0となっていた。
「ふぅ~。やっと終わった。いやぁ~、思った以上に早く終われて助かったよ。」
「うむ。なかなか良い鍛錬であった。お!魔力操作がカンストしておる!」
と喜ぶ清兄ぃ。
そんな俺達の様子を見て、エルフのギャラリー達がワッと駆け寄って来るのであった。
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