第104話 合図

 スッキリした徳士&清治郎コンビが爽快に夕食の一時を過ごしている頃、ジャンセン王国はとんでもない騒ぎになっていた。


 まあ、それはそうだろう。王都を守っていたご自慢の城壁も、王城を守っていた更に頑強な城壁も、一瞬でこそなかったが、たった2人の反撃で全て消え失せ、瓦礫の山になっている訳で、謂わば丸坊主に近い状態である。

 これまで空腹に耐えていた王都の住民達も、一気に目が覚めてしまった。


「あれだけ威張り散らかしていたジャンセン王も王都の守備を行っていた騎士達も、こんなにも無力で弱い存在だったのか!」と。

「俺達の今までの我慢は意味なかったんじゃね?」

「こんな奴らの為に、家の娘は慰め物に……悔しい……」

「魔物攻めて来たら、どうするんだよ、これ!」


 等と彼方此方でこれまで鬱積していた不満の声が挙がりだし、やがて爆発した。


「おらーーー!!! どうするじゃー!!」

「今まで毟り取った税金や賄賂を返せーー!!」

「食い物寄越せ!!!」

「子供を返せーーーー!」

「娘の命を返せーーー!」



 近衛騎士団と一部王城を守っていた兵士以外は、ほぼスッキリコンビの城壁破壊で下敷きになったり、埋もれたり、負傷したりで、現在残って居る兵力は、王都の全兵力の10%未満であった。

 更にこの残った兵力の一部と冒険者が住民に加わり、既に丸裸の王城を取り囲んで、一気に王宮内へと雪崩混んだ。


 そして、丁度徳士が眠りに就く頃、ジャンセン王家は幕を閉じたのだった。



 ◇◇◇◇



 翌朝、昨日久々に暴れ、スッキリとした2人は、朝食を取り、魔人族の国、アルサンドラ魔人国へと進路を取った。

「ああ、無駄な時間取っちゃったな。最初からスキップしときゃあ良かったよ。」

 と俺が呟くと、


「まあ、そう言うでない。お陰様でスッキリはしたじゃろ?

 それにどんな奴らかも大体判ったし、こっちは身の危険を回避する為の防衛措置を行ったまでじゃ。」

 と清兄ぃ。


「ハハハ。まあ過剰防衛と言われても照れるだけだがな。」


「ガハハ。しかし、魔法障壁とか掛かっておった割には、あんな立派な城壁も、脆い物よのぉ~。

 もうちっと、骨があるかと思っておったが?」


「まあ、この大陸の元の世界の魔道具が発展していたと言っても、偏りはあるだろうから、一概には言えないけど、ザッと見た限りでは、カサンドラスより若干魔道具方面が秀でて発展した感じぐらいじゃないかな?

 騎士のレベルも20~40ぐらいまでだったし、それ程鍛えてないか、その必要が無かったかだろうな。」


「うむ……しかし、メイドは美形揃いじゃったな。」


 清兄ぃは、どうやらメイドが気になって仕方ないらしい。

 下手すると、ドライスラーにちょくちょく出没しそうな予感がするな。




 さて、アルサンドラ魔人国だが、ジャンセン王国から見ると南西で、ドライスラー王国から見ると、中央のユグドラシルを挟んだ南側に位置している。

 国としては然程大きくはない。まあ、そもそも魔人族と呼ばれる人口が少ないらしいが、やはり長寿なので本来は人口の変化が少ないらしいが、今回の危機で、現状は不明と言う話だった。

 ドライスラー王国とはユグドラシルのあるエルフの森で分断されている為、現在のドライスラー王の御代では、特に交流は無いらしい。


 若干心配なのは、『あの』ジャンセン王国がお隣さんだった事で、人族へのヘイトが高まってないかと、ちょっと心配なのである。

 まあ、しかし、サキュバスとか居る訳だから、人族なんてお得意様って気もするけど、兎に角下手にヘイトを稼いで無い事を祈るしかないな。



 ジャンセン王国の王都から最短距離を移動しているが、御前11時の段階でエルフの森上空へと侵入した。

 一応念の為、森の空域に入る前に高度を上げておいた。



 森の空域に入って30分ぐらい経過した頃、右斜め前方の森の中から、視線と気配を感じ始める。

 どうやら視線の発生源からは遠く離れているのだが、なかなかに強烈な視線である。


「清兄ぃ、感じるか?」


「ああ、来てるな。ビンビンと。撃って来るか?」


 やはり流石は清兄ぃだ。ちゃんと感知しているらしい。

 尤も、今の所は殺意までは無さそうではあるのだが、エルフなんだろうか?


 どうするかな? 一応声を掛けるべきだろうか?


「なあ、清兄ぃ、これ声を掛けてみようかと思うのだが、どうだろうか?」


「うむ。まあ戦闘になったとしても問題は無いと思うがな。取りあえずエルフとのご対面ぐらいはしたい物じゃの。」


 とか話していると、視線の素から、一本の矢が前方の方へと飛んで来た。

 明きからに、威嚇と言うよりも合図に近い……まあ勘なんだが。


「合図かな。一旦止まろう。」

 と清兄ぃに言って、空中に止まり、矢の飛んで来た方向へユックリ近付きつつ、風魔法の拡声で話掛けてみた。


「我々は、この世界の別の大陸にある、日本国からやって来た特使である。

 そちらへ侵略の意思も、悪意も無い。

 女神カサンドラ様と、こちらの世界の大神様よりの神託を受け、この大陸が転移して来る事を知り、必要であれば不足している食糧等の救援物資を用意して来ている。

 このままアルサンドラ魔人国へと通り抜けるつもりであった。

 もし、話し合いや救援の必要性があれば、合図を1回出して貰えるだろうか?」

 と俺が告げると、1回光魔法の玉が上がった。


「了解した。今そちらに降りて行く。

 攻撃はしないでくれよ? こちらも不要な反撃はしたくないので。」

 と言いながら、ユックリ光の玉が発射された森の辺りへと、降りていったのだった。




 森に降り立つと、前方の大きな木の陰からは、上空で感じた3つの気配が感じられる。


「攻撃しないでくれて、ありがとう。

 私は日本国の特使で、佐々木徳士、こちらは佐々木清治郎だ。

 この森も、一見立派だが、木々の生気が尽き掛けている様だな。

 必要であれば、食料を含めた救援物資を持って来ているが、どちらにしても、姿を現してくれないと、話が進まないのだが?」

 と俺が言うと、暫く前方の木の陰でゴニョゴニョと相談している気配がしていたが、覚悟を決めた様に木の陰からエルフが3名出て来たのだった。

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