第92話 成長と成
一夜明けると、朝食を取ってからダンジョン横のギルド支部に顔を出し、昨日の集計結果の報告を受けた。
子供らはワクワク顔で、受け取った明細を確認した後、その金額に大喜び。
これを子供ら9名で均等割して、政府銀行に振り込んで貰う様にお願いしていた。
「いやぁ~、冒険者って凄い儲かるんですね。」
と初めて本格的にダンジョン攻略した男の子が呟く。
「ああ、お前ら勘違いしたら拙いから、一応釘を刺しておくけど、一般的にある程度力が伴わないと、こうまでは儲からないし、今使って居る部の備品の剣や防具だけど、本来はそれを自前で用意して、一定期間でメンテナンスしたり、力が付いて来たら、それに見合った物に換えて行くから、そう言う装備投資もそれなりに掛かるからな?
命を預ける道具だけに、買うと良い値段するから。マジで。」
と俺が言うと、ガーーーンって顔をしていた。
うーん、これは前にちゃんと言っておいたんだけどなぁ。
実際、バイトもあまりした事ない様な高校生で、1日の稼ぎが1人頭、240万円(端数切り捨て)だから浮かれるのも理解するんだが、実際は早々甘くないからなぁ。
そして、ギルドスタッフに、今夜はダンジョンに泊まる事を告げてから、ダンジョンへと潜ったのだった。
直ぐにゲートで昨日の到達した第3階層への階段の所へ移動し、第3階層へと足を踏み入れた。
第3階層は、階段から出た所には草原が広がり、ちょっと先には小川が流れ、その川の上流には、渓谷の崖が遠くに見えていた。
「なかなか第3階層も広い様だな。
多分、この階層辺りからは、トラップもあると思うので、油断するなよな!」
と声を掛けると、
「「「「「「「「はい!」」」」」」」」
と全員が声を揃えていた。
30分ぐらい廻ったところ、この草原には、ホーンラビット、ワイルドボア(2mぐらいの猪)、ブリッドホッパー(50cmぐらいの巨大バッタ)、グリーンスライム等が生息していた。
女の子達は、巨大なバッタに、「「「ギャーー、デカい!」」」と叫んでいた。
このブリッドホッパーが結構厄介な奴で、尖った頭から、凄い高速で突っ込んで来ると言う、正に弾丸の様な奴。
身体加速が使えれば、一緒に動体視力も上がるので、その熟練度にもよるが、目で追え、対処も出来るのだが、出来ないと、身体に突き刺さって、場所が悪いと貫通したり、千切れたりする。
対処は簡単で、弾丸の様に突っ込んで来るが、途中でコースを変える事が出来ないので、50cm程横にズレ、刀をコース上に出すだけで、サクッと真っ二つになる。
双葉が2回程実演して見せ、徐々に落ち着いて対処出来る様になって行った。
慣れてしまえば、超高速球のバッティングセンターみたいな物だ。
芯を外してしまうと、上手く斬れないなけどな。
まあ、ダンジョンに潜るまでには、身体強化や身体加速は必須で行える様に、訓練しているから、下手に怪我する様な事はなかった。
ブリッドホッパーのドロップ品は、発達した後ろ足と魔石なのだが、魔石も小さくて、収益としては全然美味しくない。
ワイルドボアは肉のブロックと魔石、それに毛皮がドロップする。
ワイルドボアは肉は大変美味しくて、そこらのブランド豚肉よりも芳醇で旨味成分が豊富。
雄の豚肉は獣臭さがあったりするが、ワイルドボアの肉にはそんな獣臭さが無く、火が入っても、堅くならない。焼いて良し、煮て良し、蒸して良しなのである。
子供らがワイルドボアを倒しているのを見守りつつ、
「うむ……今夜の夕食は、焼きトンも良いな。フフフ。」
と頭の中で、夕食メニューを考えつつ、ニヤニヤしていた。
第3階層に入り、2時間程経過した頃、子供達から提案があった。
「佐々木さん、このままこのペースで廻っていると、第3階層全体を廻るのに、恐らく3日間ぐらいは余裕で掛かりそうな気がするんですが、3チームに分かれて手分けした方が効率的じゃないですかね?」
と。
「ふむ……そうなると、3名+付き添い1名か。それでも良いぞ? じゃあ、冒険部2名+鍛冶錬金部1名の3名チームを作るか。」
と言う事で、バランスを考えつつ、3チームを作った。
勿論、双葉のチームには城島君を入れた。
双葉チームの引率は愛子ちゃんにお願いし、俺と凛太郎は、別チームを受け持った。
鍛冶錬金部のメンバーが、それぞれマッピングを行うらしい。
「じゃあ、ある程度廻って夕方近くにセーフエリアで集合しよう。何かあったら連絡してくれ。」
と言う事で、それぞれが三方へと別れて行った。
俺の担当は遠くに見えて居た渓谷方面で、恐らく第4階層への階段の在りそうな場所である。
男の子2名、女の子1名のチームと共に……と言うか、その後ろから着いて進んで行く。
冒険部の剣士タイプの男の子、佐藤君がリーダーを務めるらしい。
ちなみに、冒険部の女の子は九条さんでどちらかと言うと魔法がメイン。
鍛冶錬金部の男の子は、山本君である。彼もなかなか優秀な奴で、面白い変わり種である。
チーム佐野助の影響で、忍者に対する憧れがあり、その結果忍者スタイルの小道具や刀を自分で作りたいと、鍛冶錬金部に入った口である。
なので、彼の愛刀は自作の一品だが、ハッキリ言って出来は良くない。
忍者への憧れから、彼のジョブはどちらかと言うと盗賊やアサシン寄りとなっていて、罠や隠し部屋の発見は彼の仕事である。
一応、気配察知のスキルを持っては居るみたいだが、熟練度が低いので、その範囲が狭くまだまだ発展途上である。
所々に存在する、罠の見過ごしや、察知しきれなかった魔物の奇襲等を指摘しつつ、渓谷を目指して進んで行った。
3チームに分かれて1時間半程進んだ所で、サンドイッチやお握り等の軽食と飲み物で、昼食を済ませた。
そして、更に1時間進んだ所で、やっと渓谷の入り口である崖の目の前に辿り着いたのだった。
「ふぅ、やっと到着したな。
さあ、どうするリーダー、渓谷の崖の上を行くか、渓谷の中を行くか、決めてくれ。」
と俺が佐藤君に言うと、暫く考えた後、渓谷の中の川沿いを進む事になった。
「まあ、途中で道が無くなったら、無駄になるけど、一旦戻って崖の上に出ましょう。」と。
渓谷中の小川に沿って、僅かな川岸を上流へと進んで行くと、フライング・フィッシュと言う飛び魚の様に空中を飛んで攻撃する口の尖った川魚系の魔物が突っ込んで来た。
「おお!こいつ、美味しいんだぞ!」
と俺が叫ぶと、佐藤君がニヤリとしながら、剣で斬って落として居た。
カサンドラスでは、普通に川で捕って食べていたのだが、ダンジョンでのドロップ品となるので、どうなるのかな?と思っていたら、なんと斬ったのに丸々1匹の姿に戻ってドロップしていた。
何ともまあ、都合の良い事で。
その後も30匹ぐらい、連続で飛んで来るので、ホクホク顔で佐藤君や山本君が斬ったり、九条さんがサンダーで感電させたりして、大量にゲットした。
「佐々木さん、これってそんなに笑顔になる程、美味しいんですか?」
と俺のニコニコ顔を見た九条さんが聞いて来る。
「ああ、串に刺して、塩焼きにすると、滅茶滅茶美味いんだよ、これが。
うーん、味は……サヨリとかに似てるかな? 白身でとても美味いぞ!
ああ、大根おろしにも合うな。 いやぁ~、ここは良いな。時々獲りに来なきゃ。フッフッフ」
その後もフライング・フィッシュや、ジャンピング・サーペントやワイルド・クラブ等水性系の魔物が出て来た。
渓谷の崖には所々にモンスターハウスや、隠し部屋もあり、順調に山本君が発見して、攻略して行く。
チームに分散してから、4時間が過ぎた頃、やっと渓谷の終点の滝に辿り着いた。
滝の傍の洞窟には、セーフエリアと第4階層への階段を発見した。
また、滝の反対側には、崖の上に上る小道があり、上のルートからもこちらに繋がっている様だった。
俺は、凛太郎と愛子ちゃんにブレスレットで下階層への階段とセーフエリアを発見した事を報告し、日暮れ時の約2時間後集合地点でピックアップする事にしたのだった。
2時間を有効に使う為、崖の上のエリアのマッピングと探索を進め、担当エリアは制覇し終えたのだった。
徐々にダンジョン内が暗くなって来た。
子供らをセーフエリアに残し、俺は単独で残りの2チームをピックアップして、ゲートでセーフエリアへと連れて来る。
そして、全員で今夜の宿泊の準備を始める。
あえて、マジックテントを使用せず、子供らは普通のテントを使う。
とは言え、女性陣には酷なので、俺ら用のマジックテントのトイレは使わせてやるんだけどな。
初めて入るマジックテントの内部に子供らは目を丸くして、
「わぁー、これあったら家要らないじゃん!
ってか、家より豪勢なんですけど!」
とはしゃいでいた。
「まあな。でもこれ(マジックテント)って、ハッキリ言って普通には手に入らないレベルの金額だからな?
そこらの豪邸より高価だし。」
と俺が言うと、ガーーーンって顔をしていた。
「あ、でもダンジョンの宝箱から時々出るぞ。俺達も何回かマジックテント引いてるし。
マジックバックとマジックテントは、冒険者の憧れのアイテムの1つだからな。
まあ、頑張れよ。」
と言うと、力なく笑っていた。
その後の夕食には、フライング・フィッシュの塩焼きや、ワイルドボアの串焼き等、豪華なダンジョンの幸に舌鼓を打った。
子供らは今日の成果を自慢し合い、発見した罠等の情報も交換していた。
今日までで、双葉を除く全員がレベル4つ程上がり、レベル15前後になった。
そして、クリーンを使える子達が、他の者へも掛けてやり、サッパリした所で就寝となったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます