第91話 夏休み

 事前に、高校側と協議して、俺、清兄ぃ、前田達4名で責任持って引率する事を誓約し、冒険部と鍛冶錬金部合同のレベリング合宿を行う計画が承認されたのだった。



 夏休みがスタートして1週間後、双葉を含む冒険部12名、鍛冶錬金部6名が待ち合わせ場所の駅前に集合した。

 宿泊施設を予約するのが面倒だったので、俺の買った無人島のロッジを利用する事にしている。

 あそこなら、余計な邪魔も予約も不要だからな。


 俺達は、ゲートで全員を引き連れ無人島へと移動し、部屋割りをした後、早速初日と言う事で、海岸での基礎訓練を行い、本格レベリングは、明日の朝からとしたのだった。


 適度に休憩を入れつつ、浜辺で武術や魔法の訓練を行い、浜辺でのBBQの後は、自由時間として、若人達に夏を満喫させてやった。

 浜辺の波打ち際で戯れる高校生を眺め、

「ああ、さっちゃん達も連れて来たかったな……」

 と思わず呟くのであった。



「徳士よ、二度目の人生はどうじゃ? 謳歌しておるか?」

 と褌姿の清兄ぃが、缶ビールを片手にやってきた。


「ああ、清兄ぃ。色々と2度の人生初体験を日々更新しているよ。

 家族を持てるって、良いな。」

 と俺が言うと、


「そうじゃな。それもこれも、お前達が前世で命を掛けてくれたお陰じゃよ。

 そうか、謳歌しておるか……。良かった。」

 と笑いながら、少し涙を滲ませていた。



 キャッキャと遊び回る双葉達のちょっと離れた場所では、城島君が面白い事をしていた。

「ほー! これは凄いな。」

 思わず近寄って、感心して褒めると、


「あ、どうも。せっかくなんで、ちょっと大作にトライしてみました。」

 と褒められて嬉し気な城島君。


 城島君は、何と魔法の土魔法と錬金で、器用に直径3m程のエリアに聳える洋風の城を砂で作っていた。


「いやぁ~、器用なもんだな。 魔力制御が余程卓越していないと、ここまで緻密な物は作れないぞ!」

 と絶賛する俺。


 そんな俺の声に釣られ、浜辺でキャッキャと遊んでいた冒険部の連中もやって来た。


「おい、これ城島が作ったのか! スゲーな!」

「え?城島君、これ魔法で作ったの? すっごーーーい!」

 と全員目を丸くしている。


 双葉も

「城島君って、そう言えば、昔から手先とか器用で、小学校の頃も、色々作っていたよねぇ。

 この緻密な魔力操作は、本当に脱帽だわ。」

 と絶賛していた。


「ん? お前らって幼馴染みなのか?」

 と俺が双葉に聞くと、


「え? 今更、何言ってるの? 家にも幼稚園や小学校の頃、何度か来てるでしょ? ほら、『とうっち』って居たでしょ?」

 と双葉が、ヤレヤレといった感じで俺に言う。


 え? あのはな垂れ小僧か!


「いやいや、佐々木の兄さん、『はな垂れ小僧』は酷いっすよ。」

 と苦笑いする城島君。


 いかん、驚きの余り、心の声が漏れていたようだ。


「ああ、いや、すまん。余りにも意外だったから、まさかあの時の坊主がこんなに……いや、ビックリだわ。」

 と頭を掻く俺。


 そうか、2人は元々知り合いだったのか。フッフッフ。

 思わず悪い笑顔を漏らしてしまう俺。

 クックック。そうか!


「おまえ、水臭いぞ? 部活で逢った時が、てっきり初対面だと思ってたわ!

 昔は、俺に抱きついて来て、ズボンで鼻水拭いて逃げたろ!」

 と俺が指摘すると、


「ハハハ、『だから』ですよ。」

 と笑ってた。


 まあ、良いさ、思わぬ接点あったんだから、更に1歩前進と解釈しておこう。



 夕食は、俺が手を出さず、子供ら?に任せ、見守る事にした。

 まあ、双葉も居るし、最悪の事態にはならないだろう……多分。


 1時間半掛かり、出来上がった夕食は、キャンプの定番、カレーライスとサラダであった。

 野菜も肉も美味しい俺が提供した美味しいシリーズだったので、野外と言う調味料も加味して、美味しく頂いたのであった。


 そして夕食後には、キャンプファイアを囲み、明日からのダンジョンの話をしつつ、デザートや飲み物を飲んで健全に過ごした。

 フッフッフ、ロッジ4棟に建物ごと男女に別れて部屋割りしているので、不埒な事は出来ない……筈。



 やっぱり、久々に1人でベッドに入るとちょっと肌寒く感じてしまうな。

 さっちゃんや、子供達の事を考えつつ、眠るのだった。



 ◇◇◇◇



 翌朝、朝食を食べた後、清兄ぃチーム(+前田カップル)と、俺チーム(+凛太郎)の2チームに分かれて、別々のダンジョンへとゲートで分散した。

 勿論、俺のチームには、双葉と『とうっち』こと城島君が入っている。

 俺達は、河口湖ダンジョンに潜る事となっている。


 河口湖ダンジョンに併設された冒険者ギルドの支部に顔を出して、挨拶をしてから、ダンジョンへと潜って行ったのだった。



 第1階層は、スライムから始まり、付き添いの俺達以外は、全員順番にトドメを刺して行く。

 幾らレベルが低いとは言え、既に何度も魔物討伐を行っている面々なので、特に危なげなく前進して行く。


 一応、先頭に近い場所で、双葉は全員を仕切っていて、良い具合に先導している。


「この分なら、俺達要らないかもなぁ。」

 と凛太郎が呟いていた。


「まあな。まあ俺の目的は別にあるから、このまま続行なんだけどな。

 それに、まあ引率者無しだと、色々と対外的には問題あるから、悪いが宜しく頼むよ。」

 と俺が頼むと、凛太郎と愛子ちゃんがニヤリと笑っていた。


「なあ、愛子ちゃん、芽はあると思う?」

 と女性目線の意見を聞くと、


「うーん、そやねぇ~、どうなんかな? 案外在りそうな気がするで?

 元々幼馴染みやし、あり得るんちゃうか?」

 と言っていた。


 そうか、あり得るのか! よしよし。



 昼飯を挟み、午後からは第2階層へと侵入する。

 前半はホーンラビットが大量に出て来たが、後半からはゴブリンにチェンジし、モンスターハウスや隠し部屋も、逃す事無く廻りきった所で、初日の探索は終了とした。

 城島君は、真面目にマッピングまで行っていた様で、そこら辺も全て彼らに任せておいた。

 俺は、ただ各チームにマジックバッグを1つずつ供与しただけであった。


 ダンジョンを出る前に、宝箱から出た戦利品のどれとどれを売って、どれは仲間で別けるかを30分程話し合いし、城島君はその傍ら、マッピングしたデータを綺麗に纏め上げていた。

 結構欲望ダダ漏れで、「これ欲しい」「いや、これは俺が欲しい」と五月蠅い中において、只管裏方に徹する城島君の姿を、ちょっと微笑ましい目で見ている双葉の姿があった。


 フッフッフ、良いじゃん良いじゃん!


 ダンジョンを出て、ギルドに入ると、ギルドスタッフに戦利品の買取をお願いし、更に城島君がダンジョンの第1階層と第2階層のマッピングデータを提出していた。


 結局、ポーション類は、仲間内で別ける事にした様で、城島君ら鍛冶錬金部の3名は、魔道具の製作等に使う魔石の一部だけを貰っていた。


 残りの戦利品は、全て買取となった様だが、点数が多いので、金額等は明日と言う事になり、そのまま宿泊地の無人島へとゲートで戻ったのだった。




 島へ戻ると我々が一番乗りで、まだ清兄ぃチームは戻って無かった。

 そこで、俺は、男共を連れて、島の裏側の岩場でウニやアワビ、それに伊勢海老等を夕暮れまでに取らせ、ロッジへと持ち帰り、海鮮味噌汁や、アワビのバター焼き等、海の幸を入れた夕食メニューを提案して作らせ始める。


 夕食を作り始めて15分ぐらいすると、清兄ぃチームも戻って来て、夕食作りに参加して来た。


「清兄ぃ、お疲れ様! どうだった? 何も問題なかった?」

 と聞くと、


「まあ、取りあえず第2階層までは余裕あったな。

 オークとか出て来る階層だと、ちょっと危なっかしいかもしれないけど、ノーマルのゴブリンは余裕だな。」

 と言っていた。


 夕食が始まると、子供達は、ワイワイとそれぞれのチームの成果を報告しあって盛り上がっていた。


 まあ、どちらのチームもであるが、斥候と言うか盗賊ジョブ的な経験が乏しいので、そこが今後の課題である。

 清兄ぃと話し合って、明日は、罠や隠し部屋の発見の仕方をより一層レクチャーする事にした。


 夕食も済み、またキャンプファイアを囲み、合宿2日目の夜は更けて行くのであった。

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