第64話 草津の湯は最高
翌朝、イソイソと朝食を取り、お出かけの準備をして、兄上に見送られて、駅へとゲートで移動した。
「あのぉ……母上、兄上置き去りは流石に酷では?」
と捨てられた子犬の様な目をした兄上を思い出しつつ話してみると、
「いや、これで、少しはヤバいって思わないと、あの子も日常に流されて、先へ進まなくなるでしょ?」
と母上。
なるほど。まあしょうがないか。子供じゃないんだし、飢え死にする事は無いだろう。
さあ、久々に公共の交通機関に乗っての旅行だ。
兄上には悪いが、ここは一つ旅路を楽しもう。
グリード達は、初めて乗る日本の鉄道にテンションが上がっている。
「なあ、アツシ、日本の鉄道には駅弁ってのがあるって本当か?」
と興奮気味に聞いて来た。
「あ、それ、買わないと無いぞ? 飛行機の機内食の様に漏れなく付いて来る訳じゃないからな?」
と言うと、ガーーンって表情をして、「オゥ・シット」とか言って、エバさんから窘められていた。
うちからだと、2回乗り換えになるんだが、我が家の場合、荷物は全部アイテムボックスか、ブレスレットか、マジックバッグに入れちゃうから、ほぼ手ぶらなんだよね。
移動中、米国組は、電車での移動を最大限に満喫していた。
日本は、米国と違って地形上、起伏に富んでいるから、山や平野でコロコロ風景が切り替わるのが楽しいらしい。
残念ながら、殆ど紅葉の季節を過ぎているので、山はかなり寂しい感じだが、それでも喜んでいる。
途中で仕入れた駅弁に大喜びで食べたが、全然足り無かったらしく、
「チェッ、もっと沢山仕入れておくべきだったぜ。」
と嘆いていた。
可哀想なので、俺のアイテムボックスの中から、サンドイッチやお握りを出してやると、喜んで齧り付いていた。
「しかし、本当に日本の食い物は美味いな。
最初は、何だこれ? とか、味付いてるのかよ? っておもったけど、今考えると舌がバカになってたんだな。
そりゃあ、あんな食生活してりゃあ、アメリカ人は太るわなぁ。」
と自虐的にグリードが呟いていた。
そして、食べ終わったゴミをみんなが自発的に集めて袋に入れているのを見て、
「なるほど、これだから日本は何処に行っても綺麗なんだな。
基本的に生まれ育つ際の人としての道徳観が丸っきり別世界だ。
凄いな……日本。」
と何やらウンウンと納得していた。
そして、草津に到着した。
駅前の湯畑で見学しつつ、温泉饅頭を堪能し、予約した温泉旅館へと到着した。
「ようこそ、遠い所を来て下さいました。」
と俺達を女将さんらしき女性やスタッフが出迎えてくれた。
早速、部屋へと通されたのだが、ちゃんと俺とさっちゃんは別の部屋、父上、母上、双葉、ピートで1室、グリード達が1室だった。
どの部屋も素晴らしく、部屋に個別の露天風呂まで付いていた。
「おー!! 滅茶滅茶良い部屋だなぁ。」
とウキウキ気分で、部屋の写真を撮って、兄上に送信しておいたら、血の涙の滲む様な返信が、直ぐに返って笑った。
すまん、兄上。
何はともあれ、早速宿の大浴場へ、ピートを連れて行く。
すると、グリードも父上と一緒に着いて来た。
さっちゃんは、先にエバさんに堪能して貰う為、マリーを預かるらしい。
母上がエバさんと一緒に入るらしい。
何か、さっちゃん一人に押しつける様で、心苦しいのだが、
「後でユックリ入るし、温泉は逃げないから!」
と言われ、背中を押された。
初めて見る温泉にピートが大興奮。
思わず走り出しそうになっていたので、慌てて止める。
あ……グリードも父上に押さえられた。 お前、大人だろ?
日本式の公共の風呂のマナーをキッチリ2人に教え、互いが互いの迷惑にならぬ様に、気配りし、使った椅子や洗面器を最後に洗う様に言うと、また感心された。
前世の少年時代だと、風呂場や公共の場で子供らが騒げば、そこらのオヤジ共が、誰の子でも叱ってたんだが、今じゃあ、それをすると、逆に放置した親共が文句を言って来たりする。
何とも嘆かわしい……いかんいかん、楽しい場で行きなりジジイ臭い事を考えてしまった。
露天風呂に出ると、またまた米国組が、興奮していた。
そうそう、グリードの身体を見ていて気になり、聞いてみた。
「なあ、グリード、お前のその足のと背中の傷、大丈夫なのか?
何か、後遺症あるの?」
「ああ、これか、背中はまあ、大丈夫なんだが、足の方は、半月板やっちまって、ちょっと動かし辛くなったな。」
どうやら、魔物との戦いで他を庇って負ってしまった怪我らしい。
ふむ。
と言う事で、エクストラ・ヒールを掛けてみると、
「うぉーーー!」と吠えて、お礼を言われ、更に懇願された。
「すまん、俺から頼める筋ではないのだが、出来ればエバに掛けて遣ってくれないか?」
と。
エバも実は服の下に彼方此方傷があって、一番可哀想なのが、怪我の後遺症で指の動きが悪いらしい。
「えーー! それならそうと、早く言ってよー。
よし、風呂から上がったら、早速治そう!」
と言うと、涙を流してお礼を言われた。
そして、風呂から上がって、ピートにフルーツ牛乳を飲ませ、部屋へ戻って、さっちゃんとバトンタッチした。
マリーはスヤスヤと寝てて、寝顔も可愛い。
ピートも旅と風呂で疲れたのか、マリーの横で寝落ちしてしまい、そっと布団を掛けてやった。
ちょっと心配になり、マリーも診断してみたが、マリーには何も問題無かったのでホッとした。
20分ぐらいで、母上とエバが戻って来て、直ぐにエバにエクストラ・ヒールを掛けた。
エバが涙を流しながら、感謝され、グリードと厚く抱擁していた。
その騒ぎで、マリーが目覚め、泣き出して、一騒動だった。
夕飯まで時間があるので、目覚めたピートとさっちゃの3人で手を繋いで温泉街を散策し、ついでにダンジョンの方へも足を伸ばして場所を確認した。
ダンジョンとは別に、温泉街の周辺にも時々、魔物が湧き出るらしいが、今の所、地元の冒険者や、自衛隊、警察官によって、早期に始末されているらしい。
ダンジョンは、駅から、徒歩で20分ぐらいの場所にあり、元道の駅があった場所らしい。
山を背景にした場所なので、バリケードを張るのが、大作業だったそうな。
ここでも、温泉街周辺の警備にリソースを食われているので、なかなかダンジョンまで手が回らない状況で、ほぼ手付かずで放置されている。
地元の冒険者達も、早くレベルを上げて、頑張って欲しい所だ。
草津ダンジョン横の冒険者ギルド支部で、状況を聞き、明日から潜る事を伝え、何日か潜りっぱなしになっても心配しない様にと事前に伝えておいた。
帰りはピートが歩き疲れた様で、ちょっとグタッとしてたので、肩車してやると、元気にはしゃいでいた。
◇◇◇◇
夕食は、座敷に用意して貰い、全員揃って食べる事にした。
兄上には悪いが、非常に美味しいご飯でした。
写真を送ると、代わりにカップラーメンの写真が送られて来て、さっちゃんと苦笑いしたのだった。
「さっちゃん、兄上に、良い子居ないかな?」
と聞くと、
「そりゃあ、良い子は居るけど、相手が居ない子は少ないわね。
それに、お義兄さんの立場や気持ちも判るから、難しいよね。
うーん、ちょっと考えてみるよ。」
と言っていた。
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