第60話 浜松町ダンジョン その3

 ふぅ~、もう朝か。

 さっちゃんは、今朝もスースーと寝息を立てて、隣で寝ている。

 夜な夜な攻略を進めるに従って、新たなポイントを発見し、更に攻略に磨きを掛けていく。

 いやぁ~、楽しいな。


 なんか、日が経つにつれ、益々この子に嵌まって行ってる気がする。

 こうして、居るだけでも、幸せなんだが、攻略を開始すると、言い知れぬ幸福感と征服感とサービス精神が漲り、前進あるのみと俺を焚き付けるんだよなぁ。


 そんな事を考えながら、さっちゃんの幸せそうな寝顔を見つつ、髪の毛を撫でていると、朝から魔王さんがガッツポーズを決め始める。


 ふふふ、まあ誰も居ないし、良いか……。



 ◇◇◇◇



 朝から、2回程攻略し、2人でシャワーを浴びて、朝食を取った。


「うふふ、朝から素敵でした。

 こんな朝も良いわね。」

 と嬉しそうなさっちゃん。



「さあ、ちょっと遅くなったけど、(ダンジョンの)攻略を始めるか。」

 と準備をして、攻略を再開する。


 この手のステージの最大のネックは、次の階層への階段がなかなか見つからない事である。

 マッピングスキル持ちであれば、迷う事は少ないが、そうで無い場合は、方向を見失い、何度も同じ所をグルグル廻って、疲弊して遭難する場合もある。

 セーフエリアがあれば良いが、見つからない場合、次から次へと出て来る魔物に削られ、戻らぬ人となる。

 なので、ダンジョン攻略の場合、如何に迷わず、如何に適度な休息を取るかが重要なのである。

 勿論、食事や水も重要だ。

 強いだけでは生き残れない、それがダンジョンである。



 朝から(と言っても既に11時を廻っているが)、フルーツを採取しつつ、未マッピングエリアをドンドンと埋めて行く。

 そして昼の12時を過ぎた頃に、ようやく第5階層への階段を発見した。


 朝食が遅かったので、軽くサンドイッチと飲み物で済ませ、セーフエリアを出て、階段を降りて行く。


 第5階層に到達した。

 ここはまた洞窟エリアだが、鍾乳洞の様な雰囲気のデカい空間である。

 凹凸が激しく、道無き道と言う感じで壁がボンヤリ発光しているが、それ程明るくはない。

 浸食で出来た様な影から、突然ワイド・リザード(トカゲの魔物で舌と尻尾で攻撃して来る)が飛び出して来て攻撃して来るが、隠れていても、こっちは察知しているので、隙は無い。

 サクッと刀で首を刎ねて終わり。


 ドロップ品を収納して、進み始める。

 所々に罠や宝箱、宝箱風トラップ等もあり、良いドロップ品も出るので、楽しい。

 ただ、鍾乳洞の様に、岩肌がツルツルで濡れているので、滑りやすい。

 下手に転けると転げ落ちる所もあり、油断禁物である。


「ヒッ! ヤバいね、ツルツル滑るよ!」

 とさっちゃんが、転び掛けて小さく悲鳴を上げてボヤく。


 手を引っ張り、岩の上に引き上げ、岩の向こう側に降りて……なかなかペースが上がらない。

 時々飛んで来るキラー・バットの噛みつき攻撃や、毒を持つ爪の攻撃にも気が抜けない。

 ケイブ・サーペントが岩と岩の隙間から、鋭い牙で噛みついて来たり、毒液を拭きかけたりと、ゲリラ攻撃を受けてるみたいで嫌になる。


 この階層を探索始めてから、約2時間経過するが、階段はまだ発見出来ない。

 さっちゃんの消耗がかなり激しくなった。

 30分程、少し開けた場所で休憩を取る。


「大丈夫か? 少し疲れたろ?」

 と声を掛けると、


「ふふふ、まだ大丈夫よ。あと2時間は頑張れるわ。」

 とさっちゃんが言うが、


「そうか? そんな風には見えないが。

 訓練では120%まで頑張り、冒険では60%に収めるのが、生き残るコツだぞ。」

 と言うと、


「ごめん、ちょっと強がっちゃった。本当は結構グッタリよ。

 80%を超えたぐらいかな。」

 と苦笑いしていた。


「ふふふ、いやそれでも大した物だよ。

 OKじゃあ、今夜は丁度良いからこの開けた場所で休もう。」

 と俺が提案すると、少しホッとした顔をしていた。


 結界を張って、テントを展開し、中に入って一旦ソファーで落ち着く。


 今日は、まだ早い時間に切り上げたから、ユックリ風呂に浸かって筋肉をほぐして、全身マッサージしてやろうじゃないか。


 風呂から上がって、うつ伏せにベッドに寝かせ、ライトヒールを両手の魔力に集めて袋はぎ、太もも、お尻、腰、背中、肩、首、頭、腕と軽くもみほぐして行く。

 今度は、上を向かせて、上気した顔で照れるさっちゃんを眺めながら、また足の先から、徐々に上へと移動しつつ、優しくもみほぐす。

 上気した顔がドンドンと赤くなり、甘い吐息を漏らし始める。


「あー、これはあくまで、疲労を取る為の真面目な医療行為だからな?」

 と言いながら、徐々にニヤける俺は、ちょっと悪戯心がニョキニョキと膨らみ始める。


「あっ………そんな所……、ああっ……、ちょっ……何かさっきと触り方がち…がっ……ああ………」



 ◇◇◇◇



 すみません、過剰に疲れさせてしまいました。

 さっちゃん、お昼寝に入ってます。


 軽くシャワーで汗を流し、ちょっと早いけど、夕食の準備を始めた。

 今夜は、久々に、ピザとパスタにしよう。


 カサンドラスで昔の勇者が伝承したと言う、ピザの存在を知り、嵌まった俺は、カサンドラスで魔道具のピザ釜まで購入していた。

 ピザ職人に生地の練り方や、伸ばし方まで教えて貰ったので、そこら辺のなーんちゃってピザ屋よりは上手いのである。

 生地を練り込み、寝かせ、各種チーズをブレンドし、ドンドン準備を進めて行く。

 パスタの方は、カルボナーラを作り、アイテムボックスに収納した。


 生地の寝かせ時間が過ぎ、本格的にピザ生地を伸ばして行く。

 ピザ生地を空中で回して伸ばしていると、さっちゃんが拍手をしていた。


「すっごーーい、流石旦那様。何でも出来るよね。」

 とはしゃいでいる。


「あ、もう起きたのか。大丈夫か?」


「うん、うふふ、スペシャルマッサージが凄かったから。」


「そうか。ふふふ。 またしてあげるよ。 腹はどうだ? そろそろ夕方だけど。」


「うん、一杯したから、お腹減っちゃった。」

 とペロッと舌を出して微笑むさっちゃん。


「じゃあ、座って。今からピザ焼くから、先にカルボナーラとサラダを食べよう。」

 と言って、ビザを釜に放り込んで、パスタとサラダをテーブルに取り出した。


 頂きます!


 さっちゃんがフォークに巻いたカルボナーラを口に入れ、

「わーーー! 凄いよ、これ!! 滅茶苦茶美味しい。 ちゃんとカルボナーラになってるよ!」

 と褒めてるのか褒めてないのか判らない言葉を興奮気味に叫ぶ。


 どうやら、さっちゃんが、カルボナーラを作った際、卵が固まって、違う物になり果てたらしい。

 ははは、コツがあるんだよコツが。


 ピザが焼けて、素早く切って、熱々パリパリのピザを口に入れ、ハフハフと食べる。

 うん、良い感じに出来てるな。


「わーー!ピザもすごーーい! 旦那様凄いよーー!」

 と大喜びのさっちゃん。


 ピザが無くなる前に、具を変えて次のピザを焼き始める。

 結局、直径40cmぐらいのピザ3枚を完食し、満腹となった。

「あーー、旦那様に胃袋完全に掴まれちゃったわ。」

 とさっちゃんが諦めた顔で苦笑いしてた。


「そうか? 俺は俺で、さっちゃんに色んな袋掴まれてるけどな?」

 と言うと、暫く考えた後、真っ赤な顔をして、ポンポンと肩を殴られた。


 後片付けをして、テントに入り、ソファーでマッタリした後、寝室へと向かうのだった。





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「あのぉ~、隊長、一昨日入った冒険者2人、まだ今日も戻って来ておりません。」


「あー、あの2人か。ギルド本部に問い合わせた所、『ああ、あの方が一緒なら問題ありません』との事だった。

 だから、心配しなくて良いぞ?」


「え? そうなんですか? まあ、第1階層もまだマッピング出来てない状況ですから、助けようが無いのですが、そうなんですか。了解であります。」


「(しかし、本当にダンジョン内で夜を明かすとか、本当に可能なのだろうか? 今度出来れば一度話を聞いてみたい物だな。)」


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