第44話 天使のお出迎え

 現在、ブートキャンプに行ったメンバーと週一で月ダンジョンへと行く様にしている。


「ねえ、聞いて、アッ君!!

 私、頭良くなったみたいなの!!」

 と藪から棒のさっちゃん。


「あ、俺もそうかも。

 これって、レベルアップの恩恵?」

 と前田も聞いて来た。


「ああ、ステータスの頭脳も、レベルアップで上がるから、その恩恵だろう。

 更に、身体能力も上がるから、能率が滅茶苦茶良くなるし、良い事尽くめだろ?」

 とニヤリと笑いかけると、


 全員が、へへへ と笑っていた。



「さっちゃん、良かったなぁ? これでアッ君と同じ高校行けるんとちゃうか?」

 と愛子ちゃんが肘でウリウリと突くと、顔を赤くしながら、エヘヘと照れていた。



 盆休みに入る前には、第8階層を突破し、全員がレベル14まで上がった。

 ちゃんと、彼らは自宅でも魔法の練習や、素振り等を行い、魔力量も日々鍛錬で増やしているらしい。

 その結果、単独では、Dランクまでは届いては居ないのだが、パーティー単位で見ると、Dランクパーティーぐらいの実力となっている。


 連携も堂に入った物で、強くなり始めの油断も無く、周囲への気配りも出来る様になり始めていた。


「もう少しで、気配感知も生えるんじゃないか?」

 と言うと、喜んでいた。


 ダンジョンのドロップ品の金等を換金し、5人全員に分配して、米や食料、他の消耗品等の備蓄を親に内緒でさせる様にしている。

 まあ、肉に関しては、ダンジョンのドロップ品の肉もあるし、特に買う必要は無いが、野菜等はダンジョンのかなり下まで行かないと、採取出来ない。

 だから、野菜や調味料も十分に蓄える様に言ってある。

 大神様がくれたブレスレットのストレージに蓄えて置けば、時間停止なので、腐る事も無い。

 飲料水は、特に買わなくても、水魔法があるので大丈夫だが、最悪電気が止まる可能性があるので、冬に向けてのキャンプ用品等も少しずつ揃えさせている。


「佐々木、お前ってどれ位備蓄してるの?」


「ん?俺か? 俺はかなり凄いぞ? 米だけでも数十トンは余裕であるし、肉も魚も野菜も沢山ある。

 調味料もスパイスも人生10回分はあるんじゃないかな。

 まあ、ダンジョン産の物が多いけどね。」

 と答えると、絶句していた。


 いや、ほら、カサンドラスで仕入れた物も多いし、容量無制限だから、ついつい、貯まっちゃうんだよね。

 古い物だと、50年ぐらい前のとかあるよ?


「武器や防具も、大体自分で作れる様になったから、試作品とか色々貯めてるし、まあ最悪でも1年ぐらい耐えられれば、各国の政府がちゃんと順応すると思うぞ?」

 と捕捉すると、


「ああ~、1年かぁ。長いなぁ。」

 と前田がブルーになっていた。


「多分な、日本は世界各国より、準備出来てるから、立ち直りが早いとは思う。

 膨大な備蓄も初めてるし、自衛隊も準備はしてるんじゃないか?

 ただ、社会としては、今までとは違った形になる可能性は高いけどな。」

 と捕捉した。


「なあ、ラノベみたいに、冒険者ギルドとか出来るのかな?」

 と凛太郎がワクワク顔で聞いて来る。


「おそらくな。

 じゃないと、自衛隊だけでは、圧倒的に数が足りないからなぁ。

 何?お前、冒険者狙い?」

 と聞き返すと、エヘヘと笑っていた。


「まあ、でも厨二病とか関係無く、マジで冒険者って職業出来る可能性は高いし、それがおそらくズッと続くだろうから、選択肢の1つとしては面白いかもな。

 魔物に怯えて暮らすより、積極的に狩って廻る方が、気が楽だし。」


「でも、そうなると、高校受験どころじゃなくなるかもね。せっかく賢くなったのに……」

 とさっちゃんが、嘆いていた。


「そうだよなぁ。魔物が徘徊してて、通学出来るのか?って話だよな。」

 と前田も同意してた。



 ◇◇◇◇



 盆休みに突入した。

 家族全員で、サクッとゲートで実家へと移動する。


「あ~、これ本当に楽だわね。」

 と母上が喜んでいる。

 確かに、小さい子を引き連れて、長距離移動が辛いからな。


 若返った清兄ぃが颯爽と玄関で出迎えてくれた。

 お土産代わりに、無人島で釣った、ヒラメや鯛を叔母上に献上すると、大層喜んでくれた。


「どうせなら、海鮮丼でも作る?」

 と言う話になり、例の無人島へ、兄上と聡君を連れて、バフンウニや伊勢海老等を採取しに行く事にした。


 島の裏側の岩場で捕り過ぎない程度に、食べる分だけを採取していると、


「なあ、あつし、やっぱ本マグロとかは捕れないよね?」

 と聡君。


「マグロかぁ。どうだろう? この近辺に居れば捕まえるけど、ここら辺でマグロって話は聞かないね。

 鯖とかは有名らしいけど。」

 と答えると、少し残念そうだった。


 1時間ぐらいで実家に戻り、母上と叔母上が下ごしらえに入った。


 俺も、魚を捌いて刺身の準備等を手伝い、その間、兄上と聡君は仏壇や墓の掃除へと出掛けたのだった。


 そして、食事の準備が終わり、全員座敷に集合して、豪勢な海鮮丼や海鮮味噌汁で大いに盛り上がる。

 最近行ったブートキャンプの無人島の話から、徐々にチーム佐野助の話になり、そして、魔物の話になった。


「こっちの方は、ちゃんと備蓄足りてるんですか?」

 と俺が聞くと、そこら辺は抜かりないと清兄ぃが胸を叩いていた。


「まあ、もし足り無い様だったら、俺の方でもかなり余分に持っているので、ご遠慮なく言って下さいね。

 最悪、一時的にインフラ止まるかもしれませんし。復旧まで時間掛かると、物流所じゃないですからねぇ。」

 と言うと、


「ガスや水道や電気に頼りっきりになってる今の時代、かなりの家庭が四苦八苦するでしょうね。」

 と叔母上が暗い顔をしていた。




 一方、兄上と聡君は、時空間魔法の話で持ちきりの様子。

 聡君も最近兄上に触発されて、時空間魔法の獲得を頑張っているらしい。



 父上と叔父上は、ポータブル発電機の話をしていた。

 買ったところで、ガソリンの供給がストップすると終わりだから、どうするか?と。


「あ、発電機を改造して、魔石で駆動させれば、普通に使える様になると思いますが?」

 と俺が口を挟むと、2人が思いっきり食い付いて来た。


「あつし、お前、その改造出来るのか?」と。


「バラしてみないと判らないけど、多分99%作れるとは思うよ。

 エンジンの代わりに魔動モーターをクランク軸に取り付ければ、良いだけだと思うから。」

 とサラッと答えると、早速入手しに行くらしい。


「エンジンは不動でも構わないから、電装系だけ生きてる中古品でも十分だよ?」

 と言うと、近所の農機具屋さんの所に行くと、2人共軽トラに乗って行ってしまった。


 40分ぐらい経って、2人がニコニコ顔で帰宅すると、荷台には、6代物薄汚れた発電機が積まれていた。


「おーい、あつし、買ってきたぞーー!」と。


 しょうが無いので、納屋から工具を取ってきて、庭先にブルーシートを敷いて、クリーンを掛けた発電機を、せっせと分解し始める。

 魔動モーターをエンジンと同じ回転数で回る様に、付与する魔方陣を調節し、エンジンを抜いたスペースに魔動モーターと魔石を取り付けて行く。


 30分も掛からずに、1台目の改造が完了した。

 魔動スイッチを入れて起動すると、音も無くフライホイールが回り始め、パイロットランプが点く。

 コンセントにドライヤーを刺し、スイッチを入れると、温風が吹き出した。


「「「「おおーーー!!」」」」

 と周りから歓声が沸き起こる。


「あつし、この魔石ってオーク?」

 と聡君が聞いて来た。


「だね。オークの魔石1個で、多分、発電しっぱなしで、最低でも2ヵ月は余裕で保つよ。

 上手くしたら、4ヵ月ぐらい保つかもしれないね。」

 と答えると、滅茶滅茶驚いていた。


「あー、じゃあ、ついでに、ガスコンロとかも魔石駆動に変える?」

 と一応聞いてみると、叔母上が今度は食い付いた。


 と言う事で、実家が、オール電化ならぬ、オール魔動化に魔改造された。


「とは言え、これ小さい発電機だから、家の全ての電化製品はこれじゃあ、無理だからね?」

 と言うと、


「大型の発電機かぁ……今から手に入るかなぁ?」

 と叔父上と父上が不穏な相談を始め、また軽トラに乗り、どこぞへと走り去っていった。


 俺は、聞かなかった事にして、せっせと残りの5台の発電機を改造した。



 兄上は、聡君とノートPCでオークションの中古発電機をせっせと買い占めている。


「ちょっ! まさか全部俺にやらせる気?」

 と2人に詰め寄ると、清々しい笑顔で頷かれた。


 ちょっとムカッとしたので、2人にも錬金や鍛冶のスキルを取らせる事にしたのだった。

 まあ、錬金スキルとか、無駄にはならないから丁度良いよね。




 盆の間の新月の夜、大神様とカサンドラ様が夢にやって来た。


「久しぶりじゃのぉ。いよいよ日にちが確定したぞ。」

 と大神様。


「どうも、ご無沙汰しております。

 それで、何時になったんでしょか?」

 と聞くと、日本では8月29日の夜中に最初の兆候が出るとの事だった。


「兆候と言うのは?」

 と聞くと、ダンジョンの入り口が彼方此方に出来るとの事で、更に魔素の多い森や地域では、魔物が自然発生し始めるとの事だった。

 関東エリアでは、富士の樹海とかもヤバいらしい。


「基本的に、火山は魔素が多いでの。そう言う意味では、温泉地帯も魔素が多いから要注意じゃ。」と大神様。


「えー、じゃあ日本温泉だらけだけど、拙いじゃないですか。」

 と俺が言うと、まあ、世界で温泉が無くても魔素の多い場所は沢山あるから、日本だけ不利って事は無いらしい。

 寧ろ、俺が居る分、日本が優遇されていると大神様が笑う。


「いや、まあ確かに。」

 と黙るしかなかった。


 話によると、★国辺りは、日本の比でなく、危ないらしい。

 何で?と聞くと、負の感情が多く、核弾頭や原子力発電所が多いからとの事。


「つまり、原子炉は魔物を呼びやすいって事でしょうか?」

 と聞くと、大きく肯定された。


 同様の理由で、米国やロシア、フランスやドイツなど、原子力発電所のある国やICBMを持って居る国はかなりヤバい事になりそうだった。


「わぁ……どうしよう? それ下手すると、メルトダウン起こしてヤバいですよね?」

 と聞くと、頷かれた。


 まあ、放射能汚染があっても、魔法で浄化する事は可能だけど、広範囲は厳しいな。


 大神様に情報のお礼を言って、夢の続きで作戦を考えるのであった。

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