第27話 浸食された日本

 日本は戦争に負けた。

 結果から言うと、東南アジアの各国は欧米の植民地の呪縛から脱し、独立を果たした。

 なので、現在でも一部の国を除き、日本に感謝してくれている東南アジアの国が大多数である。

 昨今問題となるのは、3カ国だけ。


 占領軍によって、一般の日本国民が大変な目にあったのは言うまでもなく、それよりも酷いのは、併合によって、日本国民となっていた旧半島出身者の所業であった。

 彼らは、無差別な爆撃によって焼け野原となった駅前等の一等地を、役所の書類が焼けてしまったのをチャンスとばかりに、ロープで囲い、我が物顔で乗っ取った。

 そして、それまでは同じ陣営の同じ国民であったのに、掌を返した様に「我々は連合軍として日本を倒した」と呆れた事を言い出したらしい。

 更に進駐軍とかという集団を作り、日本の各地で多くの日本人を殺したと…… しかし、これを今の新聞もマスコミも表には出していない。

 寧ろ、そう言う新聞社やマスコミ内部にまで、彼らが潜り込み、徐々に地位を得て、完全に『日本悪し』の構図を作り上げ、それを国民に刷り込んでいた。

 その浸食は、国会議員まで及び、合法非合法で得た日本国籍で、議員にまで上り詰め、暗躍している事が判明。


 戦前に日本が脱退した国際的な議会から、国連と言う組織に代わり、現在日本も加盟しているが、英語で言うと、連合軍と同じ意味。

 つまり日本語で国連と言っているが、連合軍そのもので、日本は敗戦国条項で発言権も弱く、良い様に食い物にされていた。


 日本国憲法は、GHQの数日で彼方此方から引っ張って来た文章をつなぎ合わせた、素人憲法を原案に押しつけられ、完全に日本から、身を守る為の牙を抜いた物となっていた。


 調べれば調べる程、酷い状況に頭を抱えてしまう。


 更に、かつて日本が併合した半島は2つの国に別れ、その1つの国は日本国民を拉致して、未だに返されてないと……。

 何故、救助に動かない! と憤りを感じ、拳を強く握り締めてしまう。

 そもそもだが、GHQから押しつけられた日本国憲法が『邪魔』をして日本人を救う事も出来ず、奪われた領土も不法占拠された島も取り返せないと言う状況に、苛立ちを覚える。

 これまでも、改憲を謳う政党や政治家は居た様だが、そもそも改憲するまでのハードルが高い上、マスコミにより、変なレッテル貼りをされ、全員が潰されて歴史の隙間に埋もれて行っていた。

 そして、国旗や国歌や愛国心さえもが、それを口にして表に出す事を憚れる様な風潮を、巧みに印象操作されて植え付けられていた。


 確かに、戦前の日本が全て正しいとは思わないし、今の時代の良い所もあるが、これは酷い。酷すぎる。



 ◇◇◇◇



「と言う訳で、大神様……俺、色々やっちゃって良いでしょうかね?

 そうすると、俺、地獄行きでしょうか? いや、それでも1人の日本人として、現状を見過ごせないのです。」

 と定期的に夢枕に遊びにやってくる大神様とカサンドラ様に訴えた。


「ほっほっほ。お主なら、そう言って来ると思っておったよ。

 まあ、別にそれで地獄行きとかは無いのぅ。好きにやって良いぞ。」

 と大神様が笑っていた。


 ふむ、良いのか。


「ありがとうございます。

 何処までやれるかは、判らないですが、戦友達が命を掛けて守ろうとしたこの国を、正しい姿にしたいと思います。」

 と宣言するのであった。



 大神様からの許可があったので、更に計画を練って行く事にした。

 まずは、ともかく海を渡る為にも、レベルを上げ、魔法の熟練度を上げる事が先決だな。



 ◇◇◇◇



 と言う数年前の経過があって、現在に至る……と長い回想をシーンを終え、大まかな作戦からより現実的な作戦詳細を考え始める。


 作戦目的1)拉致被害者の救出と報復

 作戦目的2)暗躍する外勢力の排除と報復

 作戦目的3)日本人の意識改革

 作戦目的4)日本と英霊の国際的な名誉回復


 とにかく、1と2は是が非でも実現させたい。

 作戦目的1を遂行する為には、まず日本海を越える必要がある。

 そして、やっと十分な力を付けた現在、時空間魔法で飛行も可能となった。

 問題は、まずは拉致された日本人の居場所を探す事。

 直接日本と国交の無い国だけに、情報に乏しいのだ。

 しかも、独裁国家だけあって、地下施設が多いらしいという噂。

 つまり、上空から隠匿を使って観察しても、地下施設に居ると無理と言う事だ。


 更に問題なのは、日本政府が認定している人数は少ないが、未認定の人物も含めると400人近い人数になるかもしれないのだ。

 仮に拉致被害者を発見して救助した場合、その人達をどうやって移動させるかの問題もある。


 そこで、とある猫のロボットがアイテムボックスならぬイベントリから取り出す、非常に便利な道具をヒントに、新しく魔法を作って試す事にしている。

 いやぁ~、思わぬ所で、魔法のヒントが得られるとは、流石は現代である。

 魔法の発動には、具体的なイメージと、それに見合った魔力が必要になる。

 じゃあ、実際にどう言う風なイメージで……と考えた際、某宇宙戦艦が活躍するアニメのワープを思い出した。

 紙の上に描いた空間の座標と空間の座標を紙を折ってくっつけるイメージで、その扉を置く感じだ。

 ハエ男が出て来る映画や、同じく米国の宇宙艦隊ものの映画があったが、あの物質転移的なのは、ちょっと無理だ。

 その場所で再構築をしているが、俺のイメージの中では、再構築が出来ても、魂が抜けて仕舞いそう……そんなイメージしか湧かないからな。

 一度植え就いたイメージの払拭って、なかなか難しいよなぁ……。


 そうそう、某アニメで超能力者が使ってた、テレポーテーションは、何か出来そうな気がする。

 今度そっちも試してみよう。


 あと問題があるとすると、拉致被害者が、彼の地で家族を既に持って居た場合だよな。

 当事者自身は日本が祖国であっても、家族の祖国が日本とは限らないし、思想教育を受けていると、もし仮に連れて来たとしても、不幸な未来しか思い浮かばない。

 また、作戦の実行時には、最悪、人様の命さえも奪う事になる可能性はあるが、しょうが無いだろう。

 どちらにしても、まずは彼らの発見が優先事項で、状況を見てからだろうな。



 ◇◇◇◇



 ある程度方針が決まった翌日の放課後、中学校から帰り着くと、縋る我が家の天使の笑顔を、断腸の思いで振り切り、近所にある人気の無い廃工場へと向かった。

 フェンスの隙間から敷地内に入って、一応、気配を探ったが、野良犬や野良猫以外の反応は無かった。

 ふむ、思った通り、ここなら、この時間は誰も来ないだろう。



 まずは、定番の何処にでも繋がるドアをイメージした移動門……『ゲート』をイメージして魔力を掌に集める。


『ゲート!』


 結構な魔力が吸われ、ボワンと目の前に水面の様な丸い平面が現れた。


「おお!!」と小さく声を上げて驚くと、ジックリとその門の表面を確認するが、残念ながら、波紋と言うか波波な状態で向こう側が見えない。


「うーん、どうやって試すかな。」

 と呟きつつ、取りあえず、足下にあった小石を摘まんで、軽く投げ入れた。


 俺のイメージが正しければ、繋がった先は、清兄ぃの居る実家の裏庭である。


 拾った木の棒を水面に出し入れしたみたが、途中で棒が切れる事なく、無事に出て来た。


 うん、これなら、ヤバければ、戻ってこれるな。

 と自分を納得させて、恐る恐る顔を水面上の表面に突っ込んで見た。

 水面の様に見えるが、別に息が出来ない訳でもなく、突っ込んだ顔の向こうには、実家の裏庭があった。


「お!出来てる!?」

 と一歩踏み出して、完全に門の向こう側へと移動した。


 一度ゲートを閉じて、清兄ぃの気配を道場に発見した。


「清兄ぃ! 久しぶり!!」

 と俺が道場に入って行くと、


「え!? 徳治郎!? いつ来たんじゃ?」

 と大変驚いていた。




 俺は、清兄ぃにこれからの計画と目的をザックリと説明して行くと、

「なるほどのぉ。して、ワシらに何か手伝える事は無いかの?」

 と心強い言葉を掛けてくれた。


「まあ、当面は、被害者の居る場所の特定から始めるから準備期間がかなり掛かると思う。

 また、色々情報を集めて、状況によってはお願いするかも知れないから、その時は頼りにするよ!」

 と笑顔で答えると、


「うむ。任せろ! 出来る事ならワシが突っ込んで行きたいぐらいじゃからの。」

 と脳筋っぽい台詞を吐きながら、笑っていたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る