魔法学園
第68話:レベル1
──結局、人は自分の立場にあぐらをかくものだ。
アルは学園に通い始めてから、改めてそんな風に思ってしまった。
パーティ訓練が終わって一週間後の放課後、結果発表がペリナから口頭で行われた。
「はいはーい、ちゅうもーく! それでは、パーティ訓練の結果を発表しますねー。順位は下の方から読み上げるので、早く呼ばれたパーティの生徒は精進するようにねー」
そうして読み上げられていく成績に、アルたちは学園長室でのやりとりが本当だったのだと思うしかなかった。
そして、最後に発表されたのはもちろん──
「そして、最高成績のパーティはアル、リリーナ、クルルのパーティで、到達階層は七階層、素材はブラックウルフでーす!」
ペリナから発表がなされた直後、生徒の口からは三人に聞こえるか聞こえないかの声音で誹謗中傷が囁かれる。
「──七階層って、そんなばかな」
「──どうせなにかしらインチキでもしたんだろう?」
「──レベル1のお荷物がいるんだもんねー」
「──あいつ、ノワール家だろ? 色々と話を聞いて、抜け道とか知ってたんじゃね?」
リリーナとクルルに対しての言葉ではなく、明らかにアルに対しての言葉ばかり。
そして、そんな言葉を囁いているのはほとんどが貴族家の者だ。
「言っておきますけど、ダンジョンでインチキなんてできませんからねー。これは三人の実力が勝ち取った成果ですから、皆さんも精進するようにー! それでは、今日の授業はここまで! 気をつけて帰るのよー!」
ペリナが教室を後にすると、一気に騒がしくなった。
それは、三人に対して敵意を持つものばかりではなかったからだ。
「な、なあ、アル様。七階層まで行ったって、本当なんですか?」
「リリーナ様も、クルルさんも、凄いですね!」
「……尊敬」
三人の生徒がアルたちに話し掛けてきた。
驚きはしたものの好意的な反応を無下にするわけにもいかないので、アルは笑顔で口を開こうとしたのだが、その前に別の生徒からも声を掛けられてしまった。
「──おい、貴様! どんな手を使って七階層にいる魔獣の素材を手に入れやがった!」
高圧的な態度で声を掛けてきた少年の回りには、パッと数えただけでも五人の男女が付き従っている。
(……上位貴族か)
この場にはアルとリリーナという二人の貴族がいるのだが、それでもこの態度ということはこの少年がさらに上の立場だということだ。
(いや、彼がというよりは、家がだけどな)
「貴様! ゾラン様が話し掛けているんだ、さっさと答えないか!」
取り巻きの一人が黙っているアルを見て声を荒げている。
しかし、話は先ほどペリナからされたままなのだから説明のしようもなかった。
「どうやってと言われましても、七階層まで行って、ブラックウルフを倒したとしか答えようがありませんが?」
「ふざけるな! ザーラッド家の俺様ですら三階層だったんだ、他の奴らがそれ以上の階層に行けるはずもない! ……貴様、もしや素材を外から持ち込んだな?」
なんともひどい言い掛かりなのだが、取り巻きはゾランの言葉が正しいと言わんばかりに周囲へ聞こえるように騒ぎ立ててきた。
「なんて奴らだ! 成績欲しさにインチキを働くなんて!」
「全く、これだから下位貴族は目も当てられないのよねー」
「素材はそこの商人風情が持ってきたのか?」
口を閉ざしていたリリーナとは違い、クルルは堪忍袋の緒が切れそうになっていたのだが、最後の発言に対してはさすがに我慢ならなかった。
「……なんですって? あんたらねえ──」
「ははは、面白いことを言いますね」
イスから立ち上がろうとしたクルルだったが、その腕をグッと掴まれたと思った直後、代わりにアルが立ち上がり口を開いた。
「……何が面白いだと?」
「俺たちは七階層まで潜り、そしてブラックウルフを倒した。この事実が消えることはありませんし、評価も先生が判断されたものです。異議があるなら、俺たちに対してではなく、スプラウスト先生に言うべきですね」
「貴様、誰に対してものを言っている! 俺様は──」
「ザーラッド家の方なんですよね? 上位貴族ともあろうお方が、抗議する相手を間違えてはいけませんよ。それに、ここは学園ですから、皆が平等です。しっかりと抗議なさってください」
そう口にすると、それ以降は黙ってしまった。
クルル以外の四人はハラハラドキドキしながら見守っていたのだが、何も言い返せなくなったのかゾランは体を震わせている。
「……き、貴様! 覚えていろよ! おい、行くぞ!」
ゾランは取り巻きを従えて教室を後にしてしまった。
「なんだったんだ、いったい。なあ、クルル……って、どうしたんだ?」
「どうしたも何も、あんたねぇ」
「いや、最初に突っ掛かろうとしたのはクルルだろうに」
「それはそうだけど、あそこまで言う必要あった?」
「俺は事実を述べただけなんだがな。……みんなもそんな変な顔で俺を見るなよ」
クルルは呆れた顔をしているのだが、残りの四人は何が起きたのかという感じで口を開けたまま固まっていた。
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