87話 ゼレナの巫女と空駆ける天馬(後)
『『『 新しき
この世に生きとし生ける全てのものが一斉に動きを止め、願わくば見逃してくれと恐怖に震える中で。
遥か幽玄の彼方から降り注ぐ、何重にも重なった声は続く。
『『『 混じらぬ子は徒なり 新しき童どもよ そこな新しき雑じり子を手伝ひ給へ 己が力を貸してやらむ 』』』
その言葉が何を意味しているのか、どんな理屈や感情の元に発せられたものなのか、ヴィオラもイグナーツも皆目理解できない。ただ分かるのは、途方もない力が大気を震わせ始めたことで――
「な、何だ!? がはああああああ!」
――人智を超えた不可視の雷のようなものが地表に突き立つのと、未だ猛威を振るう蒼焔の向こうでシルヴィエの絶叫が上がったのは同時だった。
『『『 混じれ 混じれ 其れこそが生 其れこそが命 』』』
虚空から何重にも重なった声が降り注ぐ中、シルヴィエの苦悶の叫びは止まらない。
動くものひとつない霊峰チェカルの中腹で、ヴィオラもイグナーツも金縛りにあったがごとくに指一本動かせない。
『『『 そこな童よや 其れ恋しからむ? 由は知らねど 多が其を求む 斯くてこの床しき箱舟を なほ愉快にし給へ 己も其れを望めれば 』』』
その絶対的な声が何に話しかけているのか、二人には分からない。ただ、それが自分ではなさそうなことに泣きたくなるぐらいの安堵を覚える、それだけだ。
けれども、かの混沌と創造の大神が直接話しかけている存在は、二人の実に身近な存在だった。
「うがああああ、な、何をををを!」
時と共にますますその声を振り絞って叫び続ける、シルヴィエだ。
ヴィオラとイグナーツのいる場所からはその様子は見えないが、それは尋常ではない苦しみ方。
身動きもできずにシルヴィエの叫びを聞き続ける、数秒とも数分とも取れる時間の後。
ふっと二人の身体から、それまでの圧迫感が抜けた気がした。同時にシルヴィエの苦悶の声も止まり、そして。
『『『
人知を超えた不可視の嵐のようなものが唐突に周囲一帯を席巻し、その声はあっさりと遠ざかっていった。
ようやく自由を取り戻した体でイグナーツが見上げれば、空の渦がみるみる消えていくところ。後に残されたのはいつもどおりの見慣れた夕焼け空と、遠くそこで狂ったかのように互いに殺し合っている飛行蟲の影だった。
「な、何だったのだ今のは。……その気になれば飛行蟲などひと睨みで跡形もなかっただろうに。何のために臨界して、何をしていったのか」
「シ、シルヴィエは!? サシャさまやエリシュカも無事なのでしょうか!」
弾かれたように立ち上がり、すっかり鎮火した蒼焔の焼け跡を脱兎のごとく駆けていくヴィオラ。イグナーツが慌てて追いかけるその先に、猛烈な勢いでシルヴィエの元へと走るサシャの無事な姿が見えた。
「サシャさま!」
「使徒殿、無事か!?」
「あっ! 二人とも無事だったんだ、良かった。でもさっきの叫び声ってシルヴィエだよね! あっちからの!」
「はい!」
合流した三人が、一団となって蒼焔の焼け跡を駆け抜けていく。
あれだけ激しく燃え盛っていたサシャの焔は地表の飛行蟲をかなりの範囲で焼き尽くしたらしく、動くものは遠くに僅かしか残っていない。もちろん奈落の手に落ちた転移スフィアのなれの果て、小奈落は存在の痕跡すらなく消え失せている。
サシャの渾身の攻撃自体は見事成功していたのだ。
残る気がかりは生き残った飛行蟲――手の出しようのない、上空で同士討ちしてくれている分はとりあえず放置――と、あれだけ苦しげな声を上げていたシルヴィエ、そして禁呪発動と同時に悲鳴が聞こえたエリシュカだ。
「エリシュカ! シルヴィエ! 二人とも大丈夫――」
蒼焔が吹き荒れたであろうその外れに倒れ伏していた人影を見つけ、さらに加速したサシャの声がふつりと途切れた。
けれども、その周りに。
つい先ほどまでエリシュカと共にいたはずの、シルヴィエの姿が見当たらないのだ。下半身が馬体の彼女は、人より随分と大きな身体を持っている。エリシュカがこれだけ簡単に見つかったのであれば、シルヴィエが見つからない訳がないのだ。
「……シ、シルヴィエはどこ?」
「なぜエリシュカさまだけが、ここに残って。まさか」
駆けつけたサシャとヴィオラの頭に咄嗟に浮かんだのは、そのシルヴィエが先ほど太古の大神に話しかけられていたらしきこと。
そして神といえば、サシャ。
サシャは赤子の時に天空神がらみで不可解な失踪――神隠しに遭っている身なのだ。
「使徒殿、とりあえずエリシュカに癒しを。我々は周囲を探してくる」
「そ、そうだね。お願い」
「……イグナーツさま、わたくしはあちらの方を見てきます」
イグナーツの冷静な言葉にサシャは大きく息を吸い込み、頭を振ってエリシュカの元へと走り寄った。倒れたままぴくりとも動かないエリシュカはエリシュカで、とても放っておく訳にいかないからだ。
「エリシュカ! 大丈夫!?」
ひび割れて濁った
サシャの中の青の力は先ほどの小奈落への自重なしの一撃で大きく目減りしたものの、展開した【ゾーン】からまた大量に流れ込んできたので余裕はある。ただ、それをまたここで景気よく癒しに注ぎ込むという、そのあまりに早い消費と補充のサイクルにサシャの頭がくらりと揺れる――が、それはそれ。
今はエリシュカを癒すことが最優先なのだ。
「ん……」
そんなサシャの癒しが功をなしたのか、全身を青光に包まれたエリシュカがもぞりと身じろぎをした。よくよくその顔を見れば目の下にくっきりと隈が出来ており、心なしか頬がこけているようにも見える。
もしかしたら無理やり大魔法を発動させた反動で、体力が急激に枯渇したのかもしれない。それならそれで、この癒しが多少は体力回復に役立つかも――そんなことを、サシャが思っていると。
「や、やってやったぞ……き、禁呪を成功させてやった!」
「エリシュカ!?」
「かの存在が私に話しかけてきたのだ、史上三人目の成功者にさせてやると」
「エリシュカ、その辺は後で聞くから! 身体は大丈夫なの!? もうちょっと横になっていた方が――」
ガバリと起き上がって握りこぶしを天に突き上げたエリシュカが、何やら意味不明なことを口走って再び崩れ落ちた。サシャとしては非常に心配ではあるのだが、再び気を失うことはなさそうだ。
「エリシュカさま! 気がついたのですね、良かった」
「エリシュカ殿、心配したぞ」
サシャが顔を上げれば、シルヴィエを探しに行ったはずのイグナーツとヴィオラが戻ってきたところだった。……そこにシルヴィエの姿は、ない。
「ねえ、シルヴィエは?」
サシャの問いに、二人は首を振るばかり。
思わずサシャが辺りを見回せば、そもそも探しに行くまでもないぐらいに周囲はひらけており、障害物になりそうな飛行蟲の残骸すらほとんどが燃え尽きてしまっている。
「ねえ、シルヴィエは!?」
最後の小奈落も綺麗さっぱり破壊した。どこにそれがあったかすら、今では注意をしないと分からないぐらい。今なお山裾に向かっている大量の死蟲の存在とか、今は上空で同士討ちしてくれている飛行蟲の存在とか、あともう先兵が出てくるラビリンスは本当にないのかとか、まだまだ全てが片付いた訳ではない。
けれどもこの霊峰チェカルに訪れた突然の危機、その最大の難所はどうにか力を合わせて一緒に乗り越えたというのに。
「ねえヴィオラ! イグナーツさん! シルヴィエはどこ!?」
思えば、このザヴジェルに来てからずっと一緒だったシルヴィエ。
この地の常識を知らないサシャを何くれとなく面倒を見てくれ、姉のように頼りにしていたそのシルヴィエが。
「シルヴィエ! ねえ、出てきてよ!」
サシャの叫びは虚しく霊峰チェカルの谷筋にこだまし、けれども同志ケンタウロスがどこかから這い出してくるような気配は一切なかった。
◇
サシャの叫びが谷筋に吸い込まれ、こだまも霧散して少し経った時。
誰も何も言えずに、重苦しい空気がすっぽりと一同を包む中。
「どうしたサシャ! 今行くぞ!」
聞き覚えのあるそんな声が、突如としてサシャたちの耳を打った。
「え、シルヴィエさま!?」
「へ、シルヴィエ? どこ、どこにいるの!?」
「使徒殿、上だ!」
サシャが弾かれたように見上げる先、そこには。
「上空の飛行蟲はあらかた殲滅してきたぞ! どうした、こっちは上首尾に終わったように見えていたが――」
差し渡し五メートル近い翼を羽ばたかせながら、矢のように降下してくる存在の姿があった。それは遠目には飛行蟲に見えなくもないが、全く別の存在。
猛禽類のような褐色の大きな翼を羽ばたかせているのは、馬の下半身を持ち、アッシュブロンドの長い髪をなびかせた女性の上半身を持った半人半馬。それが見覚えのある青光をまとった槍を掲げて、猛然と急降下をしてくるのだ。
「……シルヴィエ、だよね?」
「つ、翼? そ、空を飛んで?」
「なんと!」
サシャたちが呆然と見守る中、馬背から生えた翼を大きく羽ばたかせ、颯爽と軟着陸をする空駆ける天馬……いや、シルヴィエ。
もしかしたら、いやもしかしなくても。
飛行蟲が同士討ちしていると遠目に見えていた光景、あれはこのシルヴィエが戦っていた姿だったのか。確かに空をもう一度見やれば、殲滅してきたとの言葉のとおりに飛行蟲の影は消え失せている……のだが。
「サシャ、あんな大声で叫んで何があった? あれだけの神罰の炎を呼び起こしたのだ、さすがに具合でも悪くなったか? ……おお、エリシュカは無事に意識を取り戻したか。あんな無茶をしたから心配していたのだぞ」
「ね、ねえシルヴィエ。つかぬことをお伺いするけど――その背中のって?」
「ああ、これか」
そう言って馬背の見事な翼を広げ、バサリと羽ばたいてみせるシルヴィエ。
サシャを始めとした他の面々は、言葉もなくコクリと頷いてみせることしかできない。
「……これは、あの存在に授けられた、というのが正しいのだろうな。もっとも私からすれば、問答無用で無理やり体に捻じ込まれた、という感覚なのだが」
「ええと、あの存在ってさっきの、エリシュカの呪文で出てきちゃったアレ?」
「そう。どうやらケンタウロスである私が目に止まったらしい。混じれ混じれと面白半分のように、半人半馬のこの身体にさらに翼を追加されたというか」
「……あの存在は、混沌と創造の神ケイオス。やはり常人には計れない危険な存在なのですね」
しみじみと首を振るヴィオラに、否定をしたのは意外にも当のシルヴィエだった。
「ヴィオラ、そうでもないぞ。少なくとも敵ではない。わざわざエリシュカに神託を降ろし、禁呪を唱えさせてまで降臨して、そしてかの神なりに力を貸してくれたのだ。この翼という、な。お陰でさっきの飛行蟲を追撃できたし、今後の戦いでも大いに役立てるのは間違いないだろう?」
「シルヴィエの言うとおりだ! あの大神が見ず知らずの私に囁きかけてくれたのだ。サシャの要望に応え、手伝うつもりがあるのなら自分を召べ。手助けしてやろう、と」
「えええ、ちょっと待ってエリシュカ! そんな出所不明の怪しい囁きに乗って、あんな見るからにヤバい呪文を唱えたの!?」
サシャとしてはエリシュカの行動理由に驚いたのだが、そのサシャの言葉に逆に目を剥いたのは、ようやく起き上がったエリシュカだけでなくその場の全員だった。
「……サシャさま? 神託を受けるということはたいへん名誉なことなのですよ?」
「使徒殿。初めて神の言葉を耳にする者にとって、その神と知遇などある筈がないではないか。相手は当然、常世のものならぬ神なのだから」
どうやらここザヴジェルではサシャが思っている以上に、神が降ろす神託というものが重要視されているらしい。
いや、大陸南方の出身のイグナーツまで衝撃を受けた顔をしているのを見ると、サシャの感覚の方がズレているのかもしれなかった。
けれども、少なくとも天空神と崇められている存在の裏側、それをサシャは知っている。全ての人系種族を子供を育てるための家畜としてしか見ていない、文字どおり別次元の理で動いている別世界の怪物なのだ。けしてありがたがるような相手ではない。だが。
「サシャ君、<救世の使徒>とまで呼ばれる君がそんなことを言うとは思わなかったぞ。あの偉大な大神が手を差し伸べてくれなかったら、私にはあの局面で出来ることはなかった。それにそもそも、私に魔法を撃てと言ったのはサシャ君だろうに」
「サシャ、力を貸してくれた存在を悪く言うものではない。結果を見てみろ。過程はどうであれ私はこの翼を授けられ、上空でファルタに向かい始めた飛行蟲を殲滅できたのだぞ?」
「……サシャさま、もしかしてかの大神ケイオスは、わたくしたちの味方なのではないですか? わたくしに力を授けてくださった麗しの女神ゼレナや、イグナーツさまの剣に宿っている大地神ゼーメのように」
あ、と思わずサシャの喉から言葉が漏れた。
ヴィオラが言ったことは、少し前に祖父ローベルトが語ってくれた神々の陣営の話、それに見事に符合していたのである。
大昔にあったという神々の争い。
クラールもいるこの世界本来の神々と、どこかよそから来た外来の神々がふたつの陣営に分かれ、ぶつかり合った神話があるという話だ。
その時のクラール側の陣営の神々については伝承が不自然に消されているが、辛うじて名前が残っているのは三神。行方不明の生命神は別とすれば、後はイグナーツの神剣に宿る古の大地神ゼーメと、最古の創造神ケイオスだと言っていなかったか。
それに、そこから思い起こせば。
その時ローベルトは、それらケイオス陣営の神々の動きが積極的になってきた、とも言っていたように思う。
まさにそのとおりで、先ほど颯爽と現れて戦局を引っくり返してくれたヴィオラは、ゼレナに力を授けられて巫女になったとかなんとか言っていた。詳細は本人に聞かなければ分からないが、さらにまたここでケイオスが出てきて、シルヴィエに翼を授けたのである。
……おおう。
サシャは思わず内心で感嘆の言葉を漏らした。
祖父ローベルトの話が、次々に現実化しているのをまざまざと実感したのだ。
ローベルトは、サシャに突然翼が生えても驚かないとも言っていた。それは幸か不幸か、シルヴィエに白羽の矢が移ったようだけれども。
そんな刹那の回想からサシャが当のシルヴィエに注意を戻せば、皆に取り囲まれて神授の翼を絶賛されているところだった。ヴィオラが恐るおそるその馬背の翼に手を伸ばし、エリシュカがギラギラした研究者の眼差しでそれをじっと眺めている。
「シ、シルヴィエ、ちょっと失礼しますね? わ、本当にここから翼が生えて……ダーシャさまの天人族の翼とはまた少し違うようですが、底知れない神力を感じます……」
「ふふふ、初めはもう死ぬのかと絶望していたがな。いざ全てが終わって、頭に響いたお告げのとおりに飛び上がってみれば、実に具合がいい。あっという間に彼方の飛行蟲に追いつき、軽々と圧倒できたぞ。ヴィオラの言うとおり、かの存在の大いなる力がこの翼には込められているの――おいエリシュカ、羽根をむしるな!」
「ちちち違うぞシルヴィエ殿! い、今のはこの翼に感覚が備わっているのか実験してみただけだ! ふむ、そこまで敏感とは実に素晴らしいな!」
「……もし羽根が抜け落ちるようなら一本やるから、もう引っ張らないでくれ」
「もちろんだシルヴィエ殿! いやあ、大神に見初められるような御仁は気前が良い! 一本と言わずたくさんくれると嬉しいぞ、ふはははは!」
神授の翼から、羽根なんて抜け落ちるのでしょうか……。
そんなヴィオラの呟きが聞こえたのは、サシャだけだったようだ。ともあれ、シルヴィエが戻り、エリシュカも普段どおりの元気さを取り戻している。
このまま皆ともっと話していたいところだが、まだ全てが片付いた訳ではない。
サシャとてシルヴィエの翼に興味は尽きないし、ゼレナの巫女になったと言っていたヴィオラから詳しい話も聞いてみたい。けれど、それよりも――
「皆、積もる話は後にしないか? 少なくとも多くの死蟲が今、山麓めざして下っているのだから」
サシャが口を開く前に、イグナーツがその思いを代弁してくれた。
はっ、と表情を引き締め、即座に臨戦態勢に戻るヴィオラとシルヴィエ、そしてエリシュカ。
「シルヴィエ殿、取り急ぎこの場で確認したいことはひとつ。……その翼、この先も飛行可能な戦力として期待して良いのだな?」
「ああ、もちろんだ。かの天空の支配者、月姫ダーシャ殿とまではいかないが、存分に戦わせてくれ」
凛と胸を張って断言するシルヴィエに、全員が大きな期待を込めた頷きを返す。
広げれば五メートルを超える猛禽系の翼は畳まれた今でも強い存在感を放っており、飛べば飛行蟲の群れを軽々と圧倒できたという。実に頼もしい味方だった。
「うむ、ならば。――我々はこれから溢れ出てしまった死蟲を追いかけつつ、片端から殲滅していくべきと考える」
「そうだな。何をさておいてもまずはそれだ」
「はい!」
「死蟲だけなら私の古代魔法が役に立つぞ!」
イグナーツの手短だが明確な舵取りに、気合のこもった返事を返すシルヴィエとヴィオラ、そしてエリシュカ。
「シルヴィエ殿には上空からの援護と、念のため逃れた飛行蟲がいないか確認をし、もしいれば最優先でそれを」
「了解した!」
シルヴィエが愛槍の石突きで地面を鋭く叩き、短く答えた。
その翼は大きく広げられ、今にも大空に舞い上がりそうな気配をたたえている。
「――私を含めた残る四人は、一気にこの谷筋を攻めくだる!」
「はい! 空は飛べませんがゼレナの巫女の力、存分にお見せしましょう!」
「サシャ君の例の灰はここでたっぷり補充できるからな、派手に行くぞ!」
そこで気迫を露わにしたイグナーツ、力強く気炎を上げるヴィオラとエリシュカ。
二人とも連戦の疲れも見せず、最後の仕上げとばかりに戦意は天を突くばかりだ。
「――使徒殿は我らの要。今のところ小奈落は全て滅してきたが、この先また出てこないとは限らない。力を温存しつつ、その圧倒的な近接戦闘力で我々の補佐にまわって欲しい」
「分かった! でも危なそうだったら遠慮なく前に出るからね!」
サシャが右肘を水平に上げ、その拳でドンと左胸を叩く。
気合充分、もはやすっかり板についたザヴジェル式の敬礼でイグナーツの言葉に応える。
「――目標地点は、エリシュカ殿が作成の手助けをしてきたという山裾の防壁! そこを金床とすれば、我らはいわば神々の鉄槌! 奈落の先兵を追い落とし、そこで一匹残らずすり潰す! 行くぞ!」
「応!」
「はい!」
「任せろ!」
五人の声が谷筋にこだまし、全員が一斉に動き出した。
サシャたち四人は戦意も新たに走り始め、神授の翼を得たシルヴィエは力強く空へと舞いあがっていく。
古の破壊神、ゼレナの巫女になったというヴィオラ。
混沌と創造の大神、ケイオスから大いなる翼を授かり、空駆ける天馬となったシルヴィエ。
クラールの味方をする神々から新たな力を得た彼らの、最後の仕上げとなる戦いが始まった。
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