第29話 封印
「シグルト、入るぞ」
声と同時に扉が開く。許可する前に入ってきた大男に、大きな執務机に向かってペンを動かしていたシグルトは、ため息をついた。
「……言い終わる前に、もう入ってるじゃないですか」
ブランは構わずにつかつかと歩み寄ると、険しい表情で椅子に座るシグルトを見下ろした。
「……シグルト、お前、リシェルに何をした?」
「はて? まだ何もしてませんが? さっきは君に邪魔されましたしね」
シグルトは本当に思い当たることがない風で、首をかしげる。
「そうじゃない」
ブランは執務机に手をつき、前かがみになってシグルトの顔を睨むように覗き込む。
「……お前、なんでリシェルの魔力を封じてる?」
シグルトは持っていたペンを置くと、ブランから距離を取るかのようにゆっくりと身を引いて、椅子の背もたれに背を預けた。表情を消して、紫の瞳でじっと親友を見返す。
「さっき、俺の魔力を流し込んで、あの子の眠ってる魔力を軽く引きだそうとしたんだ。そしたら、凄まじい力で反発された。で、このざまだ」
ブランは片手をシグルトに広げて見せた。先程リシェルの額に触れていた左手だ。まるで火傷したかのように赤く爛れている。
「無理に続けてたら、腕一本やられてたかもな。こんな
シグルトは、ブランが入って来た時と同様、再びため息をついた。
「やれやれ、あの子の師匠はこの私です。いくら君でも、勝手な真似はしないで欲しいですね」
「……リシェルが魔法が使えないこと、悩んでるみたいだったから、ちょっと手助けしてやろうと思ったんだよ。お前が何もしないから」
そんなシグルトを、ブランは赤い瞳でじっと睨みつける。
「なんであの子の魔力を封印してるんだ? あれじゃあ、いくら練習したって、魔法が使えるようになるわけがない。一体何のためだよ?」
「……」
「一瞬しか感じ取れなかったが……あの子の魔力は、相当強い。パリスとも並ぶかもしれない。あるいは――――」
「……だからですよ。あの子の力は強すぎる。放っておけば、暴走して周囲を、あの子自身を傷つけかねない。だから封印術を掛けたんですよ」
シグルトが渋々といった感じで説明する。
「それはしょせん、一時的な措置に過ぎないだろう。何かのきっかけであの子の魔力が解放されたら、どうなるかわからないぞ」
ブランは首を振った。
「封印なんてただの問題の先送りだ。強い魔力を持って生まれた人間は、与えられた力と一生付き合っていかなくちゃならない。周囲や自分自身を守るため、力を操れるよう、魔道士になるしかないんだ。あの子にとって必要なのは、自分自身で魔力を操る技術を学ぶこと。そうだろ?」
「……私が側にいて、力を押さえてやれば問題ないでしょう」
たいしたことじゃないと言わんばかりにあっさりと言う友に、ブランは目を見開いた。
「お前……それ、意味わかって言ってるのか? リシェルは一生お前の傍から離れられないってことだぞ?」
「……結構なことじゃないですか」
シグルトの口元にうっすらと笑みが浮かんだ。
その笑みにどこか狂気じみたものを感じて、ブランは背筋を凍らせた。
「お前……ちょっとおかしいぞ? そうやって、あの子を束縛してどうするんだ?」
「彼女は、私がどんなことをしても幸せにしますよ」
「なんだってあの子にそんなにこだわる? ただ惚れてるってだけ……じゃないよな?」
シグルトはそっと机の上の、小さな花瓶に活けられた花へと手を伸ばした。薄紅色のリシェルの花。可愛い弟子が自分のために活けてくれたものだ。指先で花びらをそっと撫でる。
「あの子は……私にとってすべてなんです。あの子のいない世界なんて何の意味もない」
ブランは机から手を離し、身を起こすと、シグルトを見下ろした。
「……お前、何か隠してないか?」
はるかに高い位置から注がれる視線を、シグルトはまるで気にしないかのように、活けられた花を一輪手に取った。
「お前がリシェルにかけたのは、魔力の封印術だけじゃないよな? 複雑すぎてまったく読み取れなかったが、なんだ? あの見たことのない術式は? 一体何の術をあの子にかけてるんだ?」
「……」
シグルトは黙って手にした薄紅色の花を眺めている。
「聞きたいことは他にもある」
答えない友に、ブランは幾分声に苛立ちを含ませて続けた。
「あの夜会の日……エリックとかいう騎士が持ってた“魂の羅針盤”……あれは“存在するはずのないもの”だ。なんであいつがあんなもの持ってる? どうしてお前がそれを知ってた? あいつと何があったんだ?」
「……」
シグルトはただ口を開くことなく、手に持った花をくるくると回し始めた。
「それに、ロドムが言っていたアーシェとリシェルの繋がり……お前、なんで何も調べようとしない? アーシェのことを思い出すのが辛いってのはわかるが……リシェルがどれだけ自分の記憶を取り戻したがってるか、お前だってわかってるだろう?」
「……」
友の沈黙に、ある確信が芽生えた。ブランは一息置いて、それを確かめるべく問う。
「お前……本当はリシェルがどこの誰なのか、わかってるんじゃないのか?」
「……」
花の回転がぴたりと止まった。
「仮にそうだとして――――」
シグルトがようやく口を開いた。ゆっくりと手に持つ花から、ブランへと視線を持ち上げる。
「君には関係ないでしょう?」
「………っ!」
ブランは何か言いかけ、口を開いたが、結局言葉を発せず、黙ってシグルトに背を向けた。そのまま部屋の扉へと歩く。
「……シグルト。ガキの頃からの友達なのに、お前は昔から秘密が多いよな。別になんでも話せとは言わないが……もう少しくらい俺を信じてくれてもいいんじゃないか? お前はほんと……友達甲斐のない奴だよ」
振り返りもせず、それだけ言うと、部屋を出ていった。
閉まった扉を見つめたまま、シグルトは小さく呟いた。
「……たった一人の友達を失いたくないから、君には話せないんですよ……」
自分の部屋へと戻った後、ブランは椅子に倒れこむように座った。
背もたれに身を預け、ぼんやりと天井を見上げる。
(リシェル……か)
6年前、カロンから彼女を連れ帰ってから、明らかにシグルトは変わった。昔と比べれば、性格が丸くなり、他人に対して寛容になった。それはいい変化だと思う。
だが同時に、一体何を考えているのか、わからないことも増えた。
すべてはリシェルと出会ってからだ。
ブランは目を閉じ、リシェルと初めて出会った時のことを思い起こす。
それは、彼にとって驚くことばかり起こった日だった――――
6年前、カロンでの任務を終えた後――――
シグルトはしばらく法院に姿を見せなかった。
任務は成功したと、噂で聞いた。
(なんでだよ、シグルト――――?)
どうしようもないやるせなさと無力感。
なぜこんなことになってしまったのか。自分にできることはなかったのか。
後悔ばかりが胸に渦巻く。
だが、自分とは比にならない程、友は苦しんでいるはずだ。
さすがのシグルトも絶望し、自暴自棄になっているのではないか。万が一ということもある――――
心配になり、いてもたってもいられず、法院での仕事を終えた後、シグルトの家の扉を叩いた。
「……!?」
「どちらさまですか?」
現れた女性に、ブランは硬直した。そこにいたのは、いつも対応してくれる、人形のように無表情なメイドではなく、ぽっちゃりとした体型の、中年の女だった。
答えずに固まってしまったブランを、女は怪訝そうに見ている。
と、奥の部屋から、白銀の髪の男が出てきた。
ブランを見てちょっと驚いた顔をしたものの、すぐに笑顔になる。
「ああ、ブラン。君ですか。ロナさん。彼は私の友人です」
「あらまあ、そうでしたか。さあ、お上がりになって下さいな。今お茶お持ちしますね」
中年の女もまた、にこにこと人のよさそうな笑顔を浮かべて、奥へと引っ込んでいく。
彼女の姿が消えるなり、ブランは問いただした。
「ありゃ誰だ?」
「新しく雇った使用人ですよ」
「雇ったって……セイラはどうした?」
彼女がいれば、わざわざ“普通の使用人”を雇う必要などないはずだ。
「しばらく休ませることにしたんです」
「なんだって急に……」
「彼女を使うのも結構、疲れるんでね」
シグルトは微笑みを浮かべたまま、答える。
その表情は、穏やかで満ち足りたものだった。
こんな表情は長い間見ていなかった。――――彼の弟子が彼の元を去ってからは。
絶望に打ちひしがれ、やつれた友の姿を想像していただけに、面食らう。
「……何があった?」
「ええ、まあ、いろいろとね。実は――」
シグルトが言いかけ――――
突然、ばたばたという足音とともに、シグルトが出てきた部屋の扉から何かが飛び出してきた。
「お、女の子?」
またもや思いがけぬものを目にして、ブランは目を白黒させた。
駆け出てきたのは、まだ幼い少女だった。この国では珍しい、長い黒髪を持つ、あまり美醜に関心のないブランでさえ驚く程の美少女。
「……シグルトさま。だれ?」
シグルトの後ろにぴったりしがみつき、頭だけ出して、大きな瞳でおそるおそるブランを見上げている。
少女の瞳は、淡い薄紅色だった。
今まで幾人も瞳の変色した魔道士たちを見てきたが、初めて見る色だ。この少女も魔道士の卵なのだろうか。
だが、目の前の少女からは何の魔力も感じなかった。普通、年齢が幼いと、うまく魔力を制御できず、魔力が外に漏れ出ていることが多いのだが、少女からはまったくそれがない。
「友達のブランですよ」
シグルトは優しい声音で少女に答えた。愛おしげに少女の頭を撫でてやりながら。
その様子もブランを驚かせた。シグルトが子供にこんなに優しく接するのを初めて見た。
「見た目は熊みたいですけど、全然怖くないから大丈夫ですよ、リシェル」
シグルトに言われても、少女はまだ警戒しているのか、ブランに近づこうとはしない。
「リシェル……」
ブランは少女の名前を小さく反芻した。
それは、“彼女”が好きだった花の名前ではないか。
どうやら、少しの間に、友の生活状況は一変したらしい。以前は、無口なメイドと、弟子の3人暮らしだった。もっとも、半年前からはメイドと2人だけの暮らしになっていたが。
「そ、その子、どうしたんだ?」
「……カロンの雪山で倒れてたところを拾ったんです。記憶がなくてね。私が引き取ることにしました」
「引き取るってお前……」
ブランは絶句した。
シグルトは昔から子供嫌いだった。クライル王子とミルレイユ王女の教師役に任じられた時も、散々嫌だとぼやいていたのだ。
そのシグルトが、こんな子供を引き取る?
もう訳がわからなかった。
そこへ、先程の中年の女が、盆に茶器と菓子を乗せて現れた。シグルトが声をかける。
「ロナさん、リシェルを先に寝室に連れて行ってもらえますか? お茶は自分でやりますから」
「ええ、わかりました」
ロナと呼ばれた女は、盆をシグルトに渡し、少女の手を取ると階段へと向かう。
「シグルトさま……」
リシェルは不安げにシグルトを振り返った。縋るように大きな瞳で見上げる。その愛らしい様子に庇護欲を刺激されない人間はいないだろうと思われた。
シグルトは少女に優しく微笑んで見せる。その眼差しは慈愛に満ちた、温かいものだった。冷血だと思っていた友にも、誰かをこんな風に見ることがあるのだと初めて知った。
「心配しなくても、ちゃんと後から行きますよ」
「さ、リシェルちゃん。行こう?」
ロナに促され、リシェルは渋々階段を上って行った。
「さ、どうぞ。話があるんでしょう?」
シグルトについて居間に入ると、テーブルの上に、子供向けの字の練習帳が散らばっていた。
「あの子、まだ字が読めなくてね。教えてたんですよ。あの馬鹿王子と違って覚えが早くてね」
ブランの視線に気づいて、シグルトが顔をほころばせながら説明する。まるで自分の子を自慢する親馬鹿だ。
「……お前、法院を休んでる間、ずっと子育てしてたのか」
「ええ、まあ……リシェル、可愛いでしょう? すっかり懐いてくれてね。なかなか私から離れようとしないものだから、しばらく休みを貰うことにしたんですよ」
シグルトは茶を淹れながら、にこにこと満面の笑みで言った。
終始顔が緩みっぱなしの友に、ブランは疑惑の目を向ける。
「お前、まさかと思うが……妙な趣味に目覚めたんじゃ……」
絶望のあまり、頭がおかしくなったとしか思えなかった。それほどの友の変わり様だった。
「まさか。そういう目では見てないですよ。……まあ、確かに、可愛いすぎて、たまに食べちゃいたい時がありますけど」
「……!」
「冗談ですって」
シグルトは笑って、お茶を入れたカップを差し出した。椅子に座り、茶をすすり始めたシグルトを、ブランは立ったままじっと見下ろした。
「どうしました? 座ってください」
「シグルト……」
ブランはそれには応じず、緊張した声を絞り出す。
「……カロンでの任務は成功したって聞いた。その……お前は、本当にアーシェを――――?」
「……ええ」
シグルトの顔から笑みが消えた。悲痛な面持ちでブランから目を逸らす。
それでもブランは問わずにはいられなかった。
「……なあ、シグルト。どうして俺の言った通りにしなかったんだ?」
「……彼女を連れて逃げろ、ですか」
シグルトは俯いたまま言った。
「そんなこと、出来るわけないでしょう。法院を敵に回して、逃げ切れるわけがない」
「だが、お前とアーシェなら――」
「君は私を買いかぶりすぎなんですよ。第一、自分勝手に出て行った弟子のために、私に法院に一生追われる身になれと?」
「だって、お前は、お前には――」
そうまでしても、あいつを守る理由があったんじゃないのか――?
それとも、それは自分の思い違いだったのか。
「もちろん、あの子のことは師として私に責任がある。私だってできれば助けてやりたかった。でも……他にどうしようもなかったんですよ」
シグルトの声音には苛立ちがあった。
その苛立ちが向けらている先は、ブランか、法院か、弟子か、あるいは自分へか――――
おそらくそのすべてなのだろう。
「……ブラン、お願いですからもう彼女の話はしないでくれませんか。もう終わったことです……私だって……傷ついていないわけじゃないんですよ」
「……すまん」
二人ともそれきり言葉が見つからず、黙り込む。物音ひとつない時間が痛かった。
しばらくして、気まずい沈黙を破るように、シグルトが口を開いた。
「……ああ、そうだ。ブラン。私、導師になることにしました」
「は?」
「来月、師匠が引退するので、私が代わりに就任します」
事もなげに言われた言葉に、ブランは目を剥いた。
「ま、待て。話が急すぎる。オルアン導師の引退? いや、というか、なんでだ? お前、導師になるのは嫌だって言ってたろうが? 旅はどうした?」
いつか法院を出て、何にも縛られず、自由な旅に出たい――
それが親友の夢であったはずだ。その夢のために、彼に後を継がせたいと望む師の説得を拒み続けてきたことも知っていた。そして、自分の代わりに弟子を後継者にしてくれと頼んでいたことも。
「もちろん、導師なんて面倒な役は嫌ですよ。でも、リシェルの後見人になる以上、職もなくふらふらしてるわけにもいきませんからね。私が出世すればあの子の将来のためにもなるだろうし」
リシェルの名を口にした途端、シグルトの顔に笑みが戻った。
ブランは呆気にとられた。
ブランの知るシグルトという男は、誰に何を言われようが、どんな状況になろうが、自分の信念や行動を曲げるような人間ではなかった。
なのに、こんなにもあっさりとそれを捨ててしまった。
たった一人の少女のために。
「お前、あの子のこと、本当に大事なんだな?」
「……ええ。あの子は私に生きる意味を与えてくれたんです。どんなことをしても、私のすべてを賭けて、幸せにしてやりたい。絶対に。今度こそ――――」
言いかけて、シグルトは言葉を止めた。
(お前は、あの子をアーシェの身代りにするつもりなのか――――?)
喉まで出かかった想いを、ブランはなんとか飲み込んだ。
たとえそうだとしても、友が生きる希望を抱けるのなら、それでいいじゃないか。
そう思った。
次の月、正式にオルアン導師の引退が発表され、シグルトが新たな導師に就任した。既に数々の戦績で国民的な英雄になりつつあったシグルトの導師就任は、皆から大いに祝福された。だが、白いローブを濃紺のローブに着替えた親友は、少し遠い存在になってしまったように思えた。
同時に、シグルトの唯一の過去の汚点とも言える前の弟子の名を出すことは、シグルトの機嫌を損ねないために、法院内では避けられるようになった。
そして、まもなくシグルトはリシェルを新しい弟子として連れて歩くようになる。
いつだったろう。シグルトがリシェルに対して、単純に保護者として以上の気持ちを持ち始めていると気付いたのは。やはり、あの4年前のリシェルの誘拐事件あたりからだろうか。あのロナとかいう女を含めた使用人たちが起こした事件。
いや、シグルトは最初からリシェルに対して特別な感情があったのは間違いない。恋情のような、執着のような――――それをあの事件をきっかけに態度に出すようになったに過ぎないのではないか。
なぜ出会ったばかりのはずの少女にあそこまでこだわっていたのか。
シグルトはリシェルに関して何かを隠している。
そして、それにはおそらくアーシェが関係している――――
(一体カロンで何があったんだ――?)
「あ、ブラン様。お戻りだったんですね」
執務室に戻ってきたパリスの声に、はっと我にかえる。
「ブラン様、さっきあいつの魔力を引きだしてやった時、手が赤くなっていらしたように見えたのですが、大丈夫ですか?」
パリスはなかなか目ざとい。ブランはすでに魔法で治癒し、元通りになった左手を見せて、笑った。
「平気だ。なんでもないさ。ちょっと失敗しただけだよ。それよりリシェル、どうだった?」
大丈夫だとは思ったが、封印に触れたことで、リシェルにも何か悪影響が出ていないか心配だった。
「ああ、ちょっとだけ光ったんで、大喜びしてましたよ。あんなの、とても魔法とは言えないですけど。僕に教え方がうまいから、これからも練習見てくれとか調子に乗って言いだすくらいで。当然僕は断りましたけど」
パリスの言葉に安堵するとともに、ある考えが浮かんだ。
「そうだ。パリス、お前リシェルの練習付き合ってやれ。で、色々教えてやれ」
「……あの、ブラン様。僕の話ちゃんと聞いてました?」
「人に教えるのもいい勉強になる。……そうだな、魔力制御の基礎訓練を重点的にやってくれ」
シグルトがやらないなら、誰かがリシェルに魔力の扱いを教えてやる必要がある。だが、自分がそれをやるのは目立ちすぎる。パリスならば同年の友として、弟子同士で教え合っている、くらいにしか見られないだろう。それにパリスの実力は、本当ならばもう自分の弟子を取っても問題ない程だ。リシェルを任せるのにこれ以上の適任はいない。
一方的に話す師に、パリスはなんとか反論を試みる。
「魔力制御ですか? あいつの場合、魔力を引き出す訓練がまず先だと思いますけど……それに、そういうのは師匠のシグルト様がすべきことであって……」
「いいから。とにかく頼んだ。……って、もうこんな時間か。じゃあ俺は午後の会議行って来るから」
言うだけ言って、部屋を出ていったブランを見送り、パリスはため息をついた。
「……ったく、無茶苦茶だなぁ、あの人は」
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