第15話 美人刑事再び
完徹も二日目となると、少々テンションがおかしくなってくる。昴もそういう状態に陥っていた。
「ふふっ、なるほど」
さらに今日の昴は数学のし過ぎという、より厄介な状況に陥っていた。見るもの総てが数式で表せそうな気がしてくる。そんなマス・ハイテンションのような状態だ。そんな言葉は存在しないと思うが。
「大丈夫か。よく研究現場でもそういう状態の奴を見かけるが、大体とんでも理論を生み出すことになる」
大学までの道のり。たまたま同じ時間に出ることになった翼に、そんなことを言われる。なるほど、何事もやり過ぎは良くない。しかしとんでも理論とは何だろうか。
「いや、でも復習だけで凄い時間が掛かってさ」
「そんなに根を詰めると続かなくなるぞ。それにまだ学部生だ。二宮だってその辺は心得ている。手加減してくれるさ」
ゆっくり頑張れよと、そう言って颯爽と自分の研究室に向かう姿を見せられて、焦るなというのが無理な相談だ。ただの年齢の差で片付けられない、負けたという気持ちがいつも以上に強くなる。
「大丈夫か。鬼のような形相をしているぞ」
「え、おう。由基か」
いつの間にやって来たのか、研究室のある校舎を睨む昴の横に広瀬由基が立っていた。そしてそんなにひどい顔をしていたかと確認するのを忘れない。
「ああ。そのまま兄貴を殺ってしまうのかと思うほどね」
「どっから見てたんだよ」
明らかに翼と喋っていたところから見ていないと成り立たない例えだ。昴は先ほどの形相で由基を睨む。
「怖い怖い。やだね。嫉妬は身を滅ぼすぜ」
由基はそう言うと、講義のある校舎はこっちだぞと走り去ろうとした。しかしその前に誰かに呼び止められた。
「月岡さん」
「ん?」
誰だと見ると、制服姿の警察官が駆け寄ってくるのが見える。当然、何事だとキャンパスを歩いていた学生たちが振り向いた。ひょっとして学生の中に犯人がいるのか。そんなスクープの予感に、スマホのカメラを向けてくる奴もいた。
「あ、あの警察官。たしか前の事件の時の」
「ああ。山内君だな」
二人は他人の振りをしたいのを堪え、やって来る洋平を待つことにした。しかし途中で何かに躓いたかのように転んだ。制服を着ているだけに、その見事に転んだ姿は不安しか与えないものだ。
「山内。周囲に大声で喧伝するような行動は慎め」
そして聞こえた怒鳴り声。まさかと目を凝らすまでもなく、山内の背後には怖い顔をした麻央の姿があった。どうやら麻央が蹴り倒したらしい。あれを鬼のような形相というのだなと、たしかに気を付けようと思う昴だ。
「あの美人凶悪刑事も一緒だぞ」
「ああ。川島さんな」
どういうインプットだよと、しかもそれが的外れではないから困ったところだ。翼と大学の同期であるという川島麻央警部まで現れた。ということは――
「川島さん。事件ですか」
「ああ。ここでは話しづらい。そっちが現場だということだ。行くぞ」
「えっ」
麻央が現場だと指差したのは、なんと先ほど翼が入っていた研究室の入る建物だった。
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