第39話

《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第39話》


そこからも多少の話し合いのがあり、その最中に防衛部隊・副隊長補佐のカーニャ・グラタンから候補は挙がったが、突撃部隊・副隊長のアレス・サーロインが全て却下してしまい、半ば強行する形で俺に決まった。


しかし、リーダーって何するんだ?


頭を少し掻く。すると、それを見兼ねてか、アレスが俺の肩を叩いた。


「そんな気負いする事はない。俺が全力でサポートしてやるからな!」


ははは、何と心強いお言葉だろうか・・・。


「とりあえず、今後の方針、というか、何をすれば良いのかさっぱりなのですけど」


この王国の外はからっきしだ。ここは地方出身の奴らに話でも窺いたい所だ。


と、そう言えば・・・。


俺はある事を思い出す。同期の、ルナールの出身地だ。彼女は王国の外の、しかも特殊な文化を信仰する村の出身だ。何か魔石についても知っていてもおかしくはないだろう。


「ルナール、ちょっと良い?」


「ん、何?」


「君が住んでた村って、『白狐(しろきつね)』を崇めてるんだよね?」


「ええ、そうね」


「今回の【黒ずんだ魔石】に似た様な物があったり、もしくは、言い伝えみたいなモノって、あったりする?」


俺の問いに、彼女は顎に指を当てて考え込んだ。何か心当たりがあるのかもしれない。


「ん〜・・・、聞いた事ない、かなぁ?」


ふむ。


最後に疑問符が付いた事に引っ掛かりはあるが、王国の研究機関でも初の事のようだったので、他の地域で似た様な事例がある事自体は特になさそうだ。


「あ、でも・・・」


ルナールは何かを思い出したようだった。


「言い伝えではないけど、古くから村に伝わる言葉があるんだけど、それがもしかしたら似てるのかも」


おお、それは何かのヒントになるかもしれない。


彼女は口を開く。


「『朝、昼、夜が1つになる時、悪(あ)しき権化(ごんげ)は顔を覗かせる』」


「・・・何だそりゃ?」


朝、昼、夜が1つになる時なんかあるのか?


「まぁ、古くからの言葉だから、意味自体は今となっては深いモノはないと伝わってるけど・・・。もしかしたら、現村長が意味を知ってるかも」


なるほどね。


俺はアレスを見る。すると、彼は腕を組み、俺と目が合うと頷いた。


「よし、それじゃあ、まずはルナールがいた村に向かおう。村の名前は?」


「イヌア村よ。知ってる人は少ないと思うけど、王国よりも北にあるわ」


北か・・・。寒いのかな?


初対面だった頃の彼女を思い返しても、厚着をしている印象はない。恐らく地球とは違い、北に行けば寒い、という安易な事はなさそうだ。


「・・・でも、あんまり・・・・・・・・・・」


「え?」


俺は尻すぼみに言葉が聞こえなくなっていくルナールに聞き返す。彼女は左腕を庇うように右手で包み、ギュッと力を入れていた。


何だ?帰りたくない理由でもあるのか?


もしそうであるのなら、ハッキリと口にするだろう。自分に自信がなく、周りに流されそうな人物ならゴニョゴニョと口籠るだろうが、彼女は違う。それは、一緒に訓練や仕事をこなしている俺や同期たち、先輩方が知っている。ルナールは何事も卒なくこなす器用さを持ち、且つ、実は野心家だということだ。だからそんな彼女が、何か言い辛い事があったとしても、まず口籠ることはないだろうし、むしろ口に出して言うだろう。だからこそ、今口籠った事に引っ掛かりがあった。


まぁ、何かあったら言ってくれるだろう。


「よし、みんな集まってくれ!」


アレスが調査隊のメンバーを呼び付ける。


「俺たちは明後日、まずはこの遊撃部隊所属のルナール・フォックスの出身のイヌア村に向かう。何か掴む事ができれば御の字だが、何もなくても確かな一歩を踏み出したと言っても過言ではないと思っている。今回の調査隊、俺は王国に大きく貢献できると考え、張り切っている。みんなも目標を立てて、自分を奮い立たせて欲しい!」


アレスの演説まがいの熱い思いは、俺を含む他の14名の胸に響いたのか、ところどころで人が纏う空気を変えていった。人望の厚さと思いの熱さ。言葉一つ一つに本気を垣間見えることのできるアレスは、他の隊員にはないものがある。それが人を惹きつけるモノでもあり、カーニャが最初にリーダーに推薦しようとした理由でもある。


俺もこんな風になれたらなぁ・・・。


「それじゃ!この調査が成功しますように、全員で掛け声を合わせよう!いくぞー!!」


『おおおーーー!!!!!!』


気合の籠もった15名の掛け声は、屋外演習場に煩いほどに響いた。


よし、頑張るぞぉ!!


そして俺たちは、出発の日を迎える。


《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第40話》へ続く。

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