第20話

《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第20話》


強大な魔力の光は、俺たちを包み、辺りにも影響していた。太陽の様に暖かく、炎の様に猛々しく荒ぶる熱さ。そのまま召されてしまいそうな、神々しささえも感じるその光を、俺は受け入れていた。


あぁ、何か安らぐ・・・。ん?安らぐ?


先程まで本能的な殺意を向けられていた魔獣の暴発しそうな魔力に安らぎを覚えた事に、違和感を感じた瞬間だった。



バキィッ!!!!



『お前たち、大丈夫か!?』


何かが折れる音と、聞き覚えのある声に、ハッとする。


この声は・・・。


お前たち、という荒っぽい言葉の中にも凛とした女性の声。俺は目を開ける。


「ソフィアさん・・・!!」


そこには、『火』を纏った日本刀をバッファロー型の魔獣の光っていた角に突き刺し、こちらを心配そうな視線で無事を確かめる、この王国の後のお姫様になられるであろう、王国騎士団・突撃部隊長のソフィア・アラグリッドがいた。強大な暖かい魔力は、彼女のモノだった。


『ソフィア様!!!?』


彼女の登場により、俺以外がかなり騒ついた。俺からしてみれば、お世話になった先輩が駆け付けてくれたようなニュアンスだったのだが、どうやらカペラたちの様子がおかしかった。


「ソソ、ソソソソフィアさ様、いや、あの、その、お、お会いできて、こ、こここ光栄、ですす・・・!!」


ど緊張の極みかよ。


その様子をフフッと笑いながら見ているシャウラ。


「なぁ、カペラはどうしたんだ?」


「・・・憧れてるの、ソフィア様に」


あぁ、なるほど。


確かに俺も好きな芸能人に会ったりしたら緊張して言葉に詰まるだろうが、流石にここまでにはならないだろう。彼女の尊敬具合が凄すぎるが故の、この現状を招いていた。


「コウキ、無事か?」


ソフィアは絶賛大興奮中のカペラや、やいのやいのしている周りをやり過ごし、こちらに歩み寄った。


「えぇ、何とか。ありがとうございます、一度ならず二度までも助けていただいて」


「それは構わない。が、コイツは何だ、一体?」


彼女は魔獣を後ろ手に親指で指差した。


「こんなが防壁の周りをうろつかれちゃ、堪ったもんじゃないぞ」


「今回の試験の一部ではないんですか?」


俺の言葉に、ソフィアは表情を険しくした。そして顎に指を這わせ、ブツブツと何か呟いている。俺たちが初めてここに来た次の朝、泉が寝ていた部屋の時と同じ顔に、緊迫感を忘れてどこか安心さえも覚えていた。


「あり得んな。よくお前たちがここまでやれたモノだと、感心を超えて驚愕をする程だ。この手の魔獣は、王国騎士団の副隊長格がようやく倒せる程のモノだ」


「そんな魔獣だったんですか・・・」


「まぁ、コイツの場合は魔力の蓄積場が角だったから破壊しやすかったが、魔獣の中には体内に魔力の蓄積場がある奴もいる。それを破壊すれば、空気中に魔力が霧散するから被害はなくなる」


そんな構造になってたのか。


「魔獣にトドメを刺すには、その魔力の蓄積場を破壊しなければ、最終的に暴発し、辺りを消し飛ばしてしまう。体力の削りが甘いと絶命させる事ができなくなるので、そこは注意が必要だ」


急に始まった魔獣についての講義に、俺を始めそこにいた全員が聞き入っていた。中でもカペラは両手を祈りの如く組み、まるで聖母でも見るかの如く目をキラキラさせていた。


「とにかく、この件は私からプロキオンに報告しておく。場合によってはこのまま中止もあり得る。この2組は一旦戦いは辞めて、待機していてくれ」


と、ソフィアは城内へと走って行ってしまった。現場に残された俺たち8人は、とりあえず座り込んだ。緊張感が抜け、俺とレグルスは仰向けに、シャウラは溜め息を、カペラはまだ目がキラキラしていた。そして俺は、アイザックに話を振る。


「そう言えば、お前ら、何でアレに追われてたんだ?」


すると彼は、話しづらそうに口を開いた。


「その〜、何というか、始まってすぐ、俺たちは隠れてやり過ごしていたんだ・・・」


その顔は神妙だった。何かとんでもない理由でもあるのか、俺は唾を飲んだ。


「・・・それで?」


「近くの2組がやり合ってる時だった。俺は次の遮蔽物(しゃへいぶつ)を探している時に、同じチームのシャークがある物に気付いた」


アイザックは向かって右後ろに座っている座高の高い青い短髪の男性に視線を向けた。


「自分、シャーク・レゴイースという者です。お助け頂き、感謝しております」


シャークは深々と頭を下げた。まるで武士みたいだった。


「俺はコウキだ。よろしく、シャーク。それで、君が気付いたものって?」


俺の問いに、彼は神妙そうに答えた。


「・・・遠くからフラフラと歩み寄ってきたコイツが、突然変異でもしたかのように姿が変わり、魔力を帯びた魔獣になったんです」


シャークは既に事切れているバッファロー型の魔獣に手を置いた。


「シャークの家系は船乗りらしい。そのおかげで目が良い」


アイザックが補足してくれた。しかし、俺はシャークの真剣な話が耳に薄くしか入ってこなかった。それは何故か。


シャーク・・・。コイツ、めっちゃアゴしゃくれてんな。


ただならぬアゴのしゃくれに気を取られ過ぎて、途中の話が理解できてなかったのは事実だ。


シャーク・レゴイース。侮れない奴だ。


俺は何度も彼の名前を繰り返した。そんな中、レグルスが口を挟んだ。


「あの、今の話を聞いて、戦ってる時に気付いた事が・・・」


「どうした?」


「ソフィア様が壊した角にあった魔石、何か、無理矢理埋め込まれた様な感じだったんですけど・・・」


ほう。無理矢理埋め込まれた様な感じ、か。


俺は思い返したが、突進を避けるのに必死でそんな余裕はなかった事を思い出す。が、黒幕がいるという可能性が出てきた事に不安を覚え、且つそんなモノが量産されてしまった日には世界が破滅してしまうのではないか、という気がかりが頭の中を渦巻いていた。しかしまだ、自然に発生した可能性も拭い切れない。原因は魔力の暴走なのか、一定期間が経過した魔物が魔獣へと変貌するのかは分からない。


これは、俺たちが頭を突っ込んで良いのか・・・?


何やら闇がありそうな雰囲気を感じ取り、先程のソフィアの様にアゴに指を這わせる。



パァァァァァァァン・・・・・・!!!



ん?


俺たちは音の方へと目をやる。緑の噴煙を出しながら天高く舞い上がる号砲。試験開始の時と同じく乾いた音は、試験終了を告げる合図と取った。


「ソフィアさんがプロキオンさんに伝えて、試験を中止にしてもらったんだろう。屋外演習場に戻ろう」


と俺が防壁内へ戻ろうと歩き出した瞬間、カペラがふいに疑問を投げ掛けた。


「コウキ、アナタどうしてソフィア様とあんな親しげに話ができたの?もしかして、お知り合いだったりするの・・・?」


ただならぬ雰囲気に、俺は思わず言葉が詰まる。


「え?いや、その〜、倒れてたところを助けてくれて〜・・・。今俺も城内に住まわせてもらってるというか、何と言うか・・・」


「私を紹介しなさいよー!!」


「ひぃー!?」


嫉妬なのか、どの感情かは分からないが、カペラは叫びながら屋外演習場に到着するまで俺を追いかけ続けた。


《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第21話》へ続く。

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