第22話 咲間春陽の憂鬱(後編)

 カフェに移動し、注文を終えた私たちはカウンター席に横並びで座りっている。私は大事な事を切り出せず、雑談で時間を浪費している。


「ねえ、冬人? ひとつ聞いてもいい?」


 私は彼の横顔を見ながら、このままではダメだ、と思い切って切り出した。


「うん? ああ、なんでも聞いてくれ」


「ほんと? なんでも正直に答えてくれる?」


「えーと……答えられる事なら」


「うん、分かった、答えられる範囲でいいよ」


 冬人は今から何を聞かれるんだ? といった様子で身構えている。

 

「冬人と友火は付き合ってるの?」


 ――ブホッ! 冬人が飲みかけていたドリンクを盛大に吹き出した。


「冬人! 大丈夫⁉︎」


 私の直球の質問に慌てたらしい彼がせている。


「ゴホッ、だ、大丈夫。いったい何の事だよ?」


「言葉の通りだよ。二人は恋人同士なのかな? って」


 冬人も、こんな質問をされるとは思っていなかったようで戸惑っている。


「そんな訳ないだろ。俺と秋月が付き合ってるって、どう考えたらそうなるんだよ?」


「だって、最近は二人でよく話してるし、反省堂で見掛けた時も凄い仲が良さそうに見えたから……」


 そう、反省堂での二人はまるで恋人同士がイチャついてるように見えた。


「あの時は、秋月にイラストの事で揶揄からかわれてただけだ。アイツが俺の趣味を知ってて、その辺にあるラノベの表紙でイジられてただけだよ。付き合ってるとかあり得ないな」


「ほんと? 嘘は言ってない?」


「ああ、本当だ。そもそも秋月みたいな人気者が、俺と付き合うとかある訳ないだろ」


 冬人は友火の事を人気がある友達くらいと思ってる様で、特別な感情は無さそうに話している。


「……うん、分かった。信じる」


 でも……冬人は分かってない。人気があるからとか、モテるとか、そんなのは関係ないって事。


「で、聞きたい事ってそれか?」


「うん、それだけ。いきなりヘンな事聞いてゴメンね」


 何か少し胸のモヤモヤっていうか、胸のつかえが取れた気がする。


「本当に変な事を聞いてきたな。いったい何だったんだ?」


「えへへ、内緒」


「まあ、いいか。じゃあ、そろそろ帰るか」


 私は久しぶりに一緒に帰れるのが嬉しくなり、さっきまでの憂鬱が嘘みたいだ。


「うん、帰ろ。一緒に帰るの久しぶりだね!」


 日が暮れて薄暗くなった中、私は冬人の隣で繁華街の人混みの中駅に向かって歩いている。


「えい! 腕組んで一緒に帰ろ?」


 私は冬人の腕に自分の腕を絡ませ、身体を預けるようにしがみ付いた。


「お、おい⁉︎ 春陽! 何やってんだよ! こ、恋人同士じゃあ無いのに、こんなの誰かに見られたら誤解されるぞ」


 ――私は……誤解されてもいいんだけどね。


「春陽! と、とにかく離れろ」


 私の呟きは街の喧騒に掻き消され、冬人には届かなかった。


「冗談だよ! 冬人ってば恥ずかしがっちゃって、ちょっと嬉しかった?」


 本当はもっと冬人の身体の熱を感じていたかったけど……私は彼の身体から離れる。


 あとは……友火とも話をしなければいけない。


 冬人はそうじゃなくても、友火の気持ちは……確かめなくてはならない。



「はあ……今日は冬人とちゃんと話せて良かった……」


 冬人と一緒に帰宅した私は、部屋に入るなり着替えもせずにベッドに倒れ込み安堵の溜息を吐いた。


 冬人の口から直接、友火と付き合ってはいないと否定の言葉を直接聞けて、胸の支えが少し取れた気がする。でも……まだ気になる事がある。あの日、学校の廊下で二人の間に何が起こったのか、それが知りたい。あの日を境に二人は仲良くなった。


 私はスマホを取り出し、ライムトークの友達リストからメッセージを送った。


『明日、学校終わったら、一緒に帰らない?』

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