第14話 咲間春陽(後編)

 ホームルームを終えた教室には数人の生徒しか残っておらず、友火はスマホの画面に集中し、冬人もスマホの操作に興じている様子だ。


 私は帰り支度をしながら、久し振りに一緒に帰ろうと、冬人に声を掛けるタイミングを伺っている。中学生の頃は気軽に声を掛けられたのに、今は何だか声を掛け難い。何でだろう?


 そんな事をぼんやりと考えていると、静かな教室に「おお! やっと来た!」と冬人の声が響き渡り、彼に注目が集まる。

 直後、今度は「やった!」と友火の声が教室に響き、教室内の静寂を破った二人のクラスメイトに注目が集まった。あの二人はいったい何をやってるだろう? この微妙な雰囲気の中、更に冬人へ声が掛け難くなった。


 そうこうしている内に、冬人が荷物を片付け始める。


 ――ああ、このままじゃ声を掛けられずに帰っちゃう。


 私が冬人に声を掛けようと、意を決して立ち上がろうとしたより早く、友火が立ち上がり彼が落とした白い紙の様な何かを拾い、彼に声を掛けた。


「あっ! 神代くん、何か落としたよ!」


 冬人に声を掛けながら彼に駆け寄る友火。


 またしても誘うタイミングを逃してしまった。


 ああ、もう! 何やってるだろう? 私は……


 溜息を吐いた私は二人に目を向けたが、何か様子がおかしい。二人はお互い見つめ合ったまま微動だにしない。二人の間に流れた沈黙は僅か数秒、そして二人は動き出した。

 友火が冬人の手を引っ張り教室のドアから廊下に慌てて出て行ってしまう。


 一部始終を見ていた私は、何が起こったかも分からず呆然とその様子を眺めていた。



 二人が教室を出て行ってから二、三分経っただろうか? 何事も無かった様に教室へ戻ってきた友火に声を掛けた。


「友火! 冬人と何かあったの⁉︎ なんか二人して慌てて教室から出て行っちゃったけど……」


 聞けば冬人が落とした紙に、少しエッチなイラストが描いてあったから、思わず廊下に連れ出したとか。確かに冬人はちょっとエッチなイラスト描いてる事があるけど、中学の時の一件以来、学校ではバレない様にしていたはず。さっきの二人の行動は何か不自然さを感じる。

 でも、これ以上、友火に聞くのもはばかれる。冬人に聞こうと思ったけど既に帰ってしまった。モヤモヤも晴れず、今日、何度目かの溜息を吐いた。



◇ ◇ ◇



 冬人と友火の怪しげなやり取りを目撃してから数日経つが、特に変わった様子は無い。今日こそ放課後に冬人と買い物に行こうと誘ってみた。ようやく声を掛けられたのに、先約があるとかで断られてしまった。


 はあ、なんか上手くいかないな……。最近は溜息ばかり吐いてる気がする。友火も先に帰ってしまったみたいだし、一人で買い物に行こう。



 冬人に断られてしまったが、元々買い物予定だった私は反省堂に一人で来た。そこで見知った二人を目撃した。


「冬人……? それに友火……? なんで二人がここに……」


 冬人が言ってた先約って……友火の事だったんだ……二人の姿を見た時、心がザワついた。


「えっと……コイツが本を買いたいって、ほら」


 そう言いながら友火は、冬人が持っている買い物カゴから、本を一冊取り出して私に見せてきた。表紙には可愛い女の子が描かれていて、冬人が好んで読みそうな小説だった。


「それ俺のじゃな――イテッ!」


 友火が冬人の脇を肘で小突いた。


「ふーん……そうなんだ……仲が良いんだね」


 仲睦まじくしている二人を見た私は、冷たい態度を取ってしまった。


「邪魔しちゃ悪いから……私は帰るね……」


 いたたまれなくなった私は、その場から逃げる様に立ち去った。


 友火の機嫌が良かった日、彼氏じゃないかって冗談で言ったけど本当だったのかな……もしそうなら、あの二人の廊下での行動は納得がいく。二人で買い物に来るくらい親しくなるような何かがあったんだ……そう考えたら胸が締め付けられるようで苦しくなった。


 私はエスカレーターを駆け下りながら、二人の距離を縮めた何かがあった事を確信した。でも……何があったか怖くて聞けない。


 考えが纏まらないゴチャゴチャした気持ちのまま、買い物も忘れ、繁華街の人混みの中、ひとり寂しく家路を急いだ。

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