第6話「初めて作ったチョコレート」
「一美の方から会いたいって言うのは、2回目だね」
驚いたようにそう言う千尋だが、快諾して自分の部屋にまで招いたのもまた、千尋である。なんだかんだ、会いたいと言ってくれた事実が嬉しいのだろう。
「まあ、気分が乗ったというかなんというか、ちょっとした実験というか、検証というか」
我ながら、なんて煮え切らない態度なのだろう。これでは、何を伝えたいのか、何がしたいのか、何一つとして伝わらないじゃないか。それは困る。せっかく、チョコを作って、自らの意思で私に来たというのに、部屋に入れてもらうだけではなんとも、もの寂しいというか、本末転倒だ。
「あ、そうだ、一美ちゃんに、バレンタインチョコをあげようと思って」
しまった、と心の内で落胆してしまう。私が私に来たと言うのに、その意図すら伝えられないまま、先を越されてしまったなんて。
「あ、あの、あのね、私もチョコ、作ってみたんだけど」
千尋がチョコを持ってきたタイミングで差し出す。初対面の頃の私の態度からは考えられない変化なのだろう。驚いて一瞬固まった後、喜んでそれを受け取ってくれた。
「ああ、でも、初めて作ったから、あんまり美味しくないかもしれないけどね」
私は過度な期待をさせないためにその事を話したはずなのに、千尋は予想に反してより嬉しそうな表情を見せる。
「一美の初めてチョコを貰えるなんて、ありがとう。嬉しい」
そう、か。初めて、あげようと思って、作ったんだ。今更ながら自分の変化の大きさに気づき、頬を赤らめる。
もしかしたら、これが、この胸の高鳴りと恥ずかしさが、恋というのだろうか。
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