第5話「大きな勘違い……千尋×柚葉」

「千尋に報告です。私、就活始めました!」

 数年ぶりに柚葉に会ってみると、一言目がそれだった。お嬢様、恐るべし。

「遅すぎない? 今まで何してたの……」

 高校以来になので、馴染み深いところ。という考えのもとカラオケで会ったのだが、まさか中身が高校生以来全く変わっていないだとか、そういう事ないよね?

「んー、メイドとお茶してた。かな」

 聞かなかったことにしたかったが、残念ながら相手はお嬢様、真に受ける他に道は残されていなかった。というか、それでも暮らしていけるということは、まんまそれだけの金があるということで、今更仕事を探すような事が有り得るだろうか。親の勧め? しかし、社長ならコネでも使えばいいだろうに。

 まさか、倒産という事は有り得ないだろうか? いや、まさかそんなはずはない。そうだったら気楽にこうして話しているはずがないのだから。それとも、娘には悲しすぎると思って親が隠したのか? だとしたら、なんて悲しいことだろう。

「柚葉、私は応援してるからね。服とか雑貨とか欲しいものがあったら買ってあげるからね」

「急にどうしたの?」

 私の慰めに、柚葉は不審そうな表情で答える。あれ、違ったかな。それとも、貯金を崩して今は何とか暮らせているとか?

「お父さんの会社の倒産は?」

「いや、してないけど」

「じゃあなんで就活を?」

「自立心がやっと芽生えた」

「あぁ……」

 何でもなかった。安心したが、随分変な勘違いをしてしまったと、自分で恥ずかしくなる。

「で、倒産って?」

「なんでもない」

 まあ頑張るようになったなら、それでいい。

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