第3話「ずっと無かった私から」

「今日もよろしくね、一美ちゃん」

 待ち合わせ場所に行くと、千尋はいつも先に来ている。一体どれほど前から待っているのだろうか。あまり考えたくないが、一時間以上も前にいるとしたら、流石に私に対して期待しすぎだ。

 でもまあ、悪い気はしない。今までの誰もが、乗り気で援交を楽しんでいるようでいて、どこか遊びだと割り切っている様子が分かったものだ。何人もの人と付き合えば、それくらいは分かる。しかし、千尋はどう見ても毎回が本気で楽しもうとしている。楽しみたいし、楽しませたい。そんな意識がどんどん溢れ出てくる感覚に、少しだけ酔いしれる。

「今日は、どうしようか」

 深呼吸し、気を取り直して改めて聞く。そういえば、私はいつも人にプランを聞いている。

「うーむ、とりあえず、歩こう」

 千尋は首を傾げ、しばらく考えると苦笑しながら答える。これで何度目かのデートだ、そろそろネタ切れなのだろう。

 そういえば、私からプラン立てをした事は無かったことを思い出す。それを悪いとは思わないが、まあ、たまには考えてみるべきなのではと、思わないことも無い。援交の場合、私は依頼を聞く立場だが、千尋とは特殊な関係だ。次回くらいは、私から立ててみようか。

「次、私が日程組んでみるよ」

 隣を歩きながら、さりげなく千尋に伝える。それを聞いた千尋は嬉しそうに笑顔を浮かべ、ありがとうと返す。その笑顔を見ると、私までどうしようもなく嬉しくなってしまうのは、もしかして愛なのだろうか。

 そんな夢を抱きながら、私は千尋の隣を歩く。

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