第2話「私達の立場」

「そもそも百合音は使用人って立場を分かっていないんじゃないの。社会の前に家では私が上なんだからね」

 またある日、おやつ休憩をしていると、柚葉はそう言って私に注意する。使用人、と言われてもそもそも私は家事手伝いのバイトであって使用人では無いはずなのだが。その辺年齢不相応に幼さがある。ボンボンにはそういう節でもあるのだろうか。平凡な家庭育ちの私にはよく分からなかった。

「な、何よ、その憐れむような目は」

 私の考えが顔に表れてしまったようで、柚葉は不服そうにそう返す。どうにも私は意図に反して柚葉を不機嫌にさせてしまうことが多いらしい。直さなければ。

「いえ、社会の闇に染まらない柚葉が羨ましいだけですよ。そのままでいて欲しいものです」

 綺麗な部分だけを抽出した本音を零す。今のままの柚葉なら、よっぽど父親の経営が失敗しなければ幸せな人生を送れるはずだ。だから、無理に変わる事も、変えられることも望ましいとは思えない。私は今の彼女の純真さが好きなのだから。

「じゃあ、前みたいなその、ふ、不純な事はしない事ね!」

 不純な事と言うと、ああ、手の甲へのキスをしたんだったか。あれで不純を思わせるという事はやはり柚葉は純粋で、その分常識も抜けてるだけで、そこもまた可愛くて。今日もまた、私は彼女が好きだと思い知るのだ。

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