金曜日「介助百合」

第1話「普通の日常」

 私が目を覚ますと、まずは静流を起こさなくてはならない。しかし、彼女の名誉の為に言っておくと、静流が寝坊助で起きられないというわけではない。彼女は、一人で起きても何も出来ないのだ。ああ、これでも名誉は保てないのか。

 彼女は、目が見えないのだ。盲目で、人の手に頼ることしか出来ない。先天性で、落ち度もない。私は、その不幸を助ける為に、共に暮らすのだ。

「静流、朝だよ。私ご飯作るから、起きよう」

 彼女の身体を起こし、目が覚めたのを確認して話しかける。ウトウトと寝ぼけて欠伸をする姿が可愛らしい。こういう仕草や表情があるから私は寄り添って過ごしていける。要は私もまた依存しているのだ。

「ありがと、依子。連れていってくれる?」

 後ろから肩を抱いている私の手に触れると、安心したように穏やかな声でそう返す。

 ゆっくりと身体を立ち上がらせ、そのままテーブル前の椅子に座らせる。

「今日のご飯はどうしようか」

 座らせてから、近くで会話をする。私達は、互いの安心のために、ずっと近くにいる。遠く離れるほどに、私達は生きる事が苦しくなってしまう。

「じゃあ、今日は食パンに目玉焼きを乗せて」

 少し考えて、静流はそう頼む。私は二つ返事で調理を開始する。いつもの毎日。

 これが、私達の日常。普通の日常だ。

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