Sing

white123

第1話 エイリアンズ

「メンヘラ」

という言葉だけで私は片付けられるかもしれない。

過去に付き合って来た男性には、この性格のせいでものすごく嫌な顔をされてきた。

でも、今回の彼は違う。

「裕里はそんな人じゃないよ」

と否定してくれた。

私のこの性格を、彼なら受け入れてくれると信じた。

彼とは共通の友人を介して知り合った。

LINEで連絡を取り合って何日かしてお互いが会おうということになった。

いつも仕事が終わると彼は連絡をくれた。

就寝前にも電話をくれる。

電話口から聞こえる彼の声は、落ち着きが

あって、彼の優しさがスマートフォンの画面から私の耳へ一言、一言、ゆっくり流れ落ちてくるようだった。


何度かデートを重ね

「好きだから一緒にいて欲しい」

海辺に止めた車の中で彼からそう言われた時は本当に嬉しかった。

「私も好き!」と伝えれば簡単で可愛い理想の女なのに「大事にしてほしい」と伝えた。

彼は安心したように微笑みながら私を抱き寄せた。

付き合って一ヶ月経った頃に二人で新幹線に乗り金沢へ行った。

そこで、彼との初めての夜も経験した。

「こんな幸せがこれからずっと続くんだ」

と私はその時本気で思った。

付き合って五ヶ月後、彼の行動は怪しくなった。

LINEの通知はホーム画面から確認できなくなっていた。

「この子は可愛くて」

「この子はおしゃれで」

「友達の女の子が雑誌に載ってて」

そんな言葉を会話で耳にする度に我慢した。

過去のトラウマがあるから重い女、メンヘラ女にはなりたくないと気にしていないフリを演じた。

自分を制御し胸になにかが詰まり

下手くそな笑顔で「へへっ」と笑うことが精一杯だった。

私は我慢するからメンヘラなんだ。

誤魔化しの笑いをするからメンヘラなんだ。

メンヘラと思われたくないからメンヘラなんだ。

大学の友人、真由に彼とのことを相談すると「別れた方がいいよ」

とキッパリ言われた。

「彼はきっと、ユリの事を大事にする気がないよ。あの子みたいになって欲しいとか、前の彼女はどうだったとか、平気で話してくるの。ちょっとショックを与えて自分好みに変わればいいなと思ってるの。そんなの理想の押しつけよ。」


何故だか私も否定されているようで彼を擁護した。

「でも、彼はそんなつもりないと思うの」

「人はそんなつもりがなくて人を傷つけるのよ」

と真由は呟いた。

こうして男は彼女の友達から嫌われるのだと裕里は思った。

私だって気づいていた、電話が少なくなったこと、他の女の子とLINEをしてること、遊んでいること、浮気していること、そして付き合った三ヶ月後には、もう私のこの性格で嫌な顔をしていたこと。

だから私は彼に伝えたいことがあると呼び出した。

「お別れを告げにきたの」

「電話でよかったのに」

「もう、あなたは私のことを好きじゃないとおもう」

「私もあなたの事を好きじゃないと思う」

少し否定をしてくれるかなと思ったが、彼は何も話さなかった。無言は肯定である。

「さようなら」「今までありがとう」と告げ私は小さくて静かな喫茶店を後にした。


帰り道、私はあることに気がついた、私がメンヘラなのはきっと彼たちのせいだ。

容易く自信を失わせてくれる彼たちがいるからメンヘラにならざるを得ない。

私は、顔の前に固く作ったガードを下ろすわけにはいかない。

容赦なく殴打を繰り返す彼達がいるから。

「これは、当分彼氏できないな」

寒い夜は今日もわたしの敵らしい。

私はこの世界では生きにくいエイリアンなのだ。

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