第30話 悪魔がダンジョンを造るので取引する

 ホーンラビット狩りが終わった夜、俺は家の自室で一人でステータス画面を開いていた。

 すると、今まで不明だったカード【ゴールド】が開放されていた。

 裏ステータス画面の寿命に、年数も表示されていた。


【ゴールド】を押すと地獄で回したガチャが目の前に現れて、地獄で会った悪魔が現れた。


 悪魔はニヤニヤ笑っている。

 地獄で会った時と同じだ。

 クソ! 相変わらず腹の立つ笑顔だ。


 俺は、怒りを抑えて静かに悪魔に話しかけた。


「お前に質問がある」


「クフフ。相変わらずだね……。何だい?」


「寿命を延ばす方法を、俺は知った。だから、裏ステータス画面の寿命の項目が解放されたのか?」


「そうだよ」


 俺は悪魔野郎が詳しい説明をしてくれるだろうと思って、悪魔野郎の言葉を待っていた。

 だが、悪魔野郎はニヤニヤと気持ち悪い笑顔で黙っている。


 思い出してきた!

 この悪魔野郎は、余計な事を話さないのだ。


 だからこっちから、質問攻めにしないと情報は引き出せない。

 じゃあ、クエスチョンタイムだ! この野郎!


「寿命は……、このガチャを回すコインになる。つまり、ガチャのコインが出来たから、ガチャを回せるようになったから【ゴールド】が解放されたのか?」


「そうだよ」


 やっぱりそうか……。

 今日、ギルドでジュリさんから、寿命を延ばす方法を聞いた。

 それがトリガーになって、寿命や【ゴールド】が解放されたのか……。


 そしてコイツが、やって来た。

 

 待てよ……タイミングが良すぎないか?

 コイツは、俺をずっと監視していたのか?

 転生してからの俺をニヤニヤ眺めていたのか?


「お前は、ずっと俺の様子を眺めていたのか?」


「違うよ。【ゴールド】が解放されたから来たんだよ」


 あれ? 違うんだ。


「俺を監視していた訳じゃないのか?」


「違うよ。【ゴールド】の説明をしに来たんだよ。説明は、最初だけだよ」


 俺は悪魔から、ガチャの説明を聞く事にした。

 悪魔の説明によれば、大まかなガチャの仕様はこうだ。


 ・【ゴールド】は、ゴールドガチャが利用出来る。

 ・シルバーガチャ、ブロンズガチャも利用可能。

 ・ガチャを回すには、ステータス裏画面に表示されている寿命がコインの代わりになる。

 ・ゴールド10年、シルバー1年、ブロンズ1ヶ月の寿命が必要。

 ・自分自身の寿命は使えない。

 ・ガチャから出るカードは、地獄のガチャとは違う。


 はあ……。

 地獄では自分の寿命を賭け、転生してからは他者から奪った寿命を賭ける。

 いかにも悪魔好みで、悪趣味だ。


「おい。地獄の時みたいに、ゴールドガチャをやるとオマケはあるのか?」


「クフフ。ないよ。でも10連ガチャがあるよ。10連ガチャは、1回分オマケがつくよ」


 そういうのやめろよ……。

 マジで……。

 射幸心をあおるのは良くないぞ。


 しかしだ。

 地獄でゴールドガチャを回した時は、悪魔はカードをオマケしてくれた。

 ゴールドガチャを俺が回すと、こいつの仕事実績になって出世が出来たからだ。

 だが、今度は、オマケをしてくれない……。

 という事は……、地獄の時とは、悪魔の仕事が違うのか?


「なあ、俺がガチャを回しても、オマエの仕事の実績にならないのか?」


「ならないよ。今は違う仕事を担当しているよ」


 そうか、やはり仕事が違うのか。

 しかし、違う仕事ってなんだろう?


「違う仕事って、何だよ?」


「ダンジョンを、造っているんだよ」


 え? 何だって?

 俺は耳を疑った。


 悪魔が、ダンジョンを造る?

 そんな事は、聞いた事が無い。


 ダンジョンの成り立ちには、色々な説がある。


 ダンジョンは、生き物だ。

 ダンジョンは、神が造った。

 ダンジョンは、周辺の魔力と地殻の変動によってウンヌン。


 悪魔がダンジョンを造る何んて話は、聞いた事が無い。

 だが、俺の目の前にいる悪魔野郎は、ダンジョンを造っていると言ったよな。


「ちょっと待て! お前がダンジョンを造っているのか?」


「そうだよ」


 悪魔野郎は、さも当然とうなずいた。


 あれ?

 じゃあ、俺が聞いた事のある説が間違っているのか?

 俺は悪魔野郎に、ゆっくりと確認する様に聞いた。


「じゃあ、この世界のダンジョンは、全てお前たち悪魔が造った物なのか?」


「違うよ」


 なんだ、違うのか。

 じゃあ、色々なタイプのダンジョンが、この世界にあるという事なのか……。


 あれ?


 ルドルのダンジョンで会った双子の女の子は、あれは悪魔なのか?

 他のダンジョンは、どうなんだ?


「おい、ルドルのダンジョンは、悪魔製ダンジョンなのか?」


「違うよ」


「王都のダンジョンは?」


「違うよ。この国には、悪魔が造ったダンジョンはないよ」


 俺は、少し安心した。

 この前会った双子の女の子は、悪魔じゃないんだ。


 俺はあの双子はダンジョンその物。

 ダンジョンの意思とか、ダンジョンの精霊的な存在じゃないかと思っている。


 ダンジョンは喋れないから、俺とコミュニケーションをとる為に、あの双子の姿で俺の前に出て来た。

 という事だと思う。


 いや。

 今はあの双子より、目の前の悪魔だ。


「お前はどこにダンジョンを作るんだ?」


「この国の王都に作ってるよ」


 王都に?

 このオーランド王国の?

 だったら何か……。

 何か利用できるんじゃないか……。


 そうだ!

 俺はひらめきを感じた。


 ダンジョンを造る目的は、人を集める事だろう。

 だから、ルドルのダンジョンで会った双子は、もっと下の階層に人が来て欲しい感じだった。


 それなら、この悪魔と交渉の余地があるだろう。


「なあ、悪魔。お前が作るダンジョンに、人を集めたいか?」


「クフフ。もちろんだよ」


「俺が、協力してやるよ。その報酬で、カードを2枚、俺にくれ!」


 幼なじみのシンディを奴隷から解放するには、まだ足りない。

 金が足りないし、金を手にする為の力が足りない。

 

 悪魔野郎が現れた時は、正直、イラッとしたが、逆に考えれば……。

 普段会えない人物に合う事が出来た。そして交渉の余地がある。


 これはチャンスだ!

 俺はチャンスを逃さない男なのだ!


「……。あの……、私は、悪魔なんだけど……」


 悪魔は、唖然としている。

 初めてニヤニヤ笑い以外の表情をした。


「それがどうした? 俺は気にしないぞ」


「クフ! クフフフ! 君は本当に面白いね。普通の人間は、悪魔を嫌うものだけどね~。いいの? ダンジョンで人が死ぬんだよ? 痛い痛い~! 助けて~! とか言いながら君の同族が死ぬんだよ?」


「俺には関係ない」


 そう、俺には関係ない事だ。


 俺はこの異世界に転生して辛い思いが多かった。

 冒険者ギルドでは、みんな俺に冷たかったし、俺をFランとバカにして、見下していた。

 あいつらは、仲間じゃない。


 王都でこの悪魔野郎のダンジョンに、あいつらが潜って死んだとしても、俺には関係ない。


 今の俺にとって大事なのは、シンディを取り戻す事だ。


 いつも俺の味方だったシンディ。

 いつも俺を励ましてくれたシンディ。


 早くシンディを奴隷から解放してあげたい。

 その為には、悪魔を利用する事に抵抗はない。


 悪魔はしばらく俺を観察する様に見ていた。

 そして、またあのニヤニヤ笑いに戻った。


「クフフ。それで、どうやるの?」


「まず、ダンジョンが出来たら俺に場所を教えろ。ギルドに新しいダンジョンを見つけたと報告してやる」


「クフ。それ、必要あるの?」


「絶対必要だ。王都の真ん中にダンジョンを造る訳じゃないだろう? だったら誰かが見つけなきゃ、人が来ないぜ」


「それもそうだね」


 そう、この世界は人工衛星がある訳じゃない。

 新しいダンジョンが出来たって、誰かが見つけて宣伝しなくちゃ人は集まらない。

 それを俺がやってやる訳だ。


「完成する1月前に教えろ。そうすれば、王都に移動しておく」


「クフフ。わかったよ。でも、それだけだと報酬はカード1枚だよ」


 悪魔は期待した顔で、俺の次の話を待っている。

 悪魔野郎は気に入らないが、良いカードを得る機会だからな。


「もう1つある。ダンジョンが人気になるアイデアを提供する」


「クフフ! 人気になるアイデア?」


「ああ。王都には、既に2つダンジョンがある。オマエが新しく造るダンジョンは、他のダンジョンと競争になるからな。他のダンジョンと、何か違いを作らないと人が来ないぞ」


「クフフ。なるほどね。それで良いアイデアがあるの?」


「ああ」


「いいね。いいね。ダンジョンで同族が死ぬのを手伝うなんていいね」


「アイデアを教えたら、カードを寄越せよ。約束しろ」


「約束するよ」


 よし!

 悪魔野郎は、悪魔なんだがウソをつかない。

 地獄では約束を守ってオマケのカードをくれたから、今度も約束を守るだろう。


 さて……、俺のダンジョンアイデアだが……。


「ガチャの設置と中継だ」


「どう言う事かな?」


「ダンジョンの一階にガチャを設置するんだ。ガチャは専用のコインで回せるようにする。コインは魔物を倒すとドロップする」


 ガチャは、ギャンブル的な側面があると思う。

 ハマる人は、必ずハマる。

 転生前の日本でも、ガチャにお金を使いすぎる人がいたくらいだ。

 この世界の人間もガチャにハマるだろう。


「魔物と戦う事でガチャが回せる。それは命がけのガチャだよね? 良いの?」


「そりゃ、人それぞれ。自己判断、自己責任だろ


「クフフ。イイね。同族が死ぬかもしれないのに平気なんだね」


 悪魔は俺を煽るが、俺は無視した。

 話しを続ける。


「ガチャの中身は……そうだな……武器や防具、魔道具なんかはどうだ?」


「冒険者が欲しそうな物だね。中継はナニ?」


「中継と言うのは……。俺が元いた日本では、テレビと言うのがあってだな」


「TVは、わかるよ」


「それなら話しは早い。スポーツ中継と同じように、ダンジョンの中が見られるようにしろ」


「クフフ。酷い事を考えるね。『助けてくれ!』とか、『死にたくない!』とか、叫びながら人が死ぬところを見せるんだね」


 こいつの煽りは無視だ。


「死ぬところだけじゃなくて、冒険者が活躍する所も中継しろよ。それで、中継を一階とかで見られるようにして、そこにお店を出せるようにしろよ」


「お店?」


「そう。ダンジョンの中で水が出せるだろ? 水場と水を捨てる所を用意して、空きスペースがあれば、商売人が勝手に店を出す。そうすれば、ダンジョンの中継を見ながら……」


「クフッ! 冒険者が死ぬところを見ながら、お酒を飲むんだ! 君本当に酷いね」


「活躍する所を中継すれば良いだろう。中継する道具は、魔道具か何かで作れよ」


 ルドルのダンジョンに潜って感じていた事がある。

 イマイチ物足りない。

 ダンジョンにいる魔物をナメてる訳じゃない。

 魔物が、強い弱いではなくて、もっとこう……。


 イロイロあって良いんじゃないか?


 俺が転生者だから、そんな事を思うのだろう。

 俺のアイデアに悪魔は身を乗り出して話を聞いていた。


「クフ! クフフフフ! 君、ヒドイ事を考えるね!」


 悪魔は余程、俺の話したアイデアが気に入ったらしい。

 ご機嫌だ。


「そうか? 俺はそんなにヒドイと思わないぞ。どうせダンジョンに潜るなら、楽しい方が良い」


「クフフフフ! 人間て、ホントに不思議な生き物だよね。悪魔の私から見ると、残酷に思うけどね。人間は、こういうのが楽しいと感じるんだね」


「ああ、このアイデアは、人気が出ると思うぜ」


「クフフフ! じゃあ、約束通りカードを2枚あげるよ」


 悪魔は俺の方に、2枚カードを投げた。

 カードは、俺の体に吸い込まれた。


「おい! 悪魔! 良いカードなんだろうな!」


 俺が悪魔に声を掛けた時には、悪魔はもういなかった。

 部屋の中は静かになって、ガチャだけが俺の前に立っていた。


「さて……、悪魔のカードは何だ?」


 俺は裏ステータス画面で、悪魔から貰ったカードを確認した。



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 ◆悪魔からのカード◆


【神速】

【レベルアップガチャ】


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