第60話 このしぇかいのほんでしゅ

 柔らかジューシーなトマト味の胸肉は絶品、サラダも文句なしだった。さすがは本職の料理人が作っただけある。申し訳ないけれど、テトさんが作ったものよりも美味しかったと言っておこう。

 もちろん、私は足元にも及ばず。

 しかも、熊さん手ずから私の口サイズにカットして、サラダもワンプレートに載せて出してくれたんだよ? 至れり尽くせりな時間だった。

 お礼にプリンとオレンジ味のゼリーを出したら食いつきが凄くて、ちょっとだけ引いたのは内緒。まあ、でも、この町や国にもある材料だったし、スライムゼリーさえあればどんな果物でも作れると知ってからは、レシピを頼まれたが。

 そこは熊さんの手が空く二時間後にこの部屋に来てもらい、備え付けられている簡易キッチンで一緒に作ることに。その間にステイシーさんが材料を集めてくると言っていたので、私が口頭で伝え、それを熊さんがメモしていたのには笑ってしまった。

 そんな感じで和やかな食事が終わると、ステイシーさんがテトさんに布製でトートバッグの見た目をしたものを渡していた。へえ、この世界にもトートバッグなんてあるんだね。

 大きさとしてはB4サイズがすっぽり入るもので、箱型なのか十センチほどの厚みがある。クリーム色と表面にはポケットまであって、まるで日本で使われているようなトートバッグに近い形だ。

 肩にかける部分も太めだし、縫い目のところにはふさふさで、真っ黒い尻尾のキーホルダーもどきがぶら下がっている。細い革紐だから、もどきと表現してみた。

 その中から本を取り出したテトさんは、私の前に並べてくれる。分厚い本が二冊と、絵本くらいの薄さのものが数冊と筆記用具。大きさとしては、どれもビジネス書サイズというんだろうか……B5くらいはありそうだった。


「じゃあ、説明するさね。この厚い本が植物図鑑と魔物図鑑。こっちが看板図鑑で、これが――」


 一冊ずつ手に取り、表紙を見せながら説明してくれたステイシーさん。分厚いものは植物図鑑と魔物図鑑で、薄いやつは看板と種族がわかるものが一冊ずつ。動物が描かれているものが二冊と、魔法やスキルの名前がわかるものが一冊ずつあった。

 筆記用具は文字が書けるようになっているテキストらしきものが三冊と、お絵かきできるように自由帳のようなものが二冊。絵本が二冊で万年筆に近い形のペンが二本と、たくさんの色があるクレヨンっぽいなにかだった。

 全ての説明を終えたステイシーさんは、プリンとゼリーの材料を買いに行くからと言って部屋から出ていった。

 おぉい! クレヨンぽいものはなんですかーっ! 説明してくれよーー!


「しゅごいでしゅ! テトしゃん、こりぇはなんでしゅか?」

「これかい? クレヨンといって、この真っ白なノートにお絵かきできるものだよ」


 まんまクレヨンだった!


「そしてこれが、文字を書く練習用のノートで、これがペン。中に液体が入っていてね、書けなくなったら中に入っている芯を交換することで、また書けるようになるんだ」

「ほえ~。まんねんひちゅかとおもったら、ボールペンみたいでしゅね」

「まんねんひつ? ボールペン?」

「あい。わたちのしぇかいにあった、ペンのいっしゅでしゅよ」

「へぇ!」


 お互いに感心しつつ、ペンの芯を見せてもらう。真ん中を捻るとふたつに分かれ、中から金属でできている、ボールペンの替え芯のようなものが出てきた。これを持ってペンを売っている道具屋や雑貨屋に行くと、本来の値段よりも安く買えるそうだ。

 つまり、交換することでその分安くしているんだろう。エコだね!

 テトさんに聞かれたので、地球にあった万年筆とボールペンの仕様を説明したんだけれど、やっぱボールペンだと思ったみたい。見た目は万年筆だけれど、確かに芯を変えるのはボールペンみたいだよね。

 まあ、万年筆といってもインクの補充方式はいくつかあったし、その中で当てはめるのであれば、カートリッジ式万年筆といったところか。とはいえ、ペン先は万年筆のように割れていないし、丸い。

 だからボールペンみたいだと評してみた。

 そしてクレヨンだが、色数は十二色と少ないものの、日本で見たものとそう変わらない発色だ。色の成分は主に植物から抽出したものを使い、錬金術で作るらしい。

 ちなみに、図鑑をはじめとした本やノートやテキスト、ペンとクレヨンも、製造方法はバステト様からの下賜だそうな。バステト様や……、地球のものを持ち込んだんだね……。

 そんな説明を聞いて若干遠い目をしたものの、テトさんが私を膝抱っこしてくれたうえでどれが読みたいか聞かれたので、植物図鑑と答えた。


「じゃあ、開くよ。図鑑には絵と文字が描かれている。だいたい見開きで一種類かな」

「ふむふむ」

「一応、薬草や果物、野菜や樹木といった具合に項目分けされていて、図鑑によっては色がついているものもある」

「にゃるほろ~」


 写真はないだろうから絵として残したんだろうけれど、どんな感じなんだろう? 日本にもあったイラストが描かれている、魚や恐竜図鑑のような感じなのかな。

 わくわくした気持ちでテトさんがページをめくってくれたのを眺める。すると、そこには詳細な絵がカラーで描かれ、部位ごとに説明文らしきものが書いてあった。


「しゅごい! きれいでしゅ!」

「これは……」

「ステイシーってば、奮発したわね」

「うにゅ?」


 奮発ってなにさ。

 よっぽど不思議そうな顔をしてたんだろう。私の様子を見て微笑んだ大人たちが説明してくれたんだが。

 この図鑑はどうやら開発されたばかりのカラー図鑑で、最新式だそうな。しかも、カラーになっている分、技術料なども含めてお値段も高い。

 そんなもん、買ってくるなよ! 幼児なんだから普通のでいいよ!

 そういったけれど、神獣おとなたちは「自分の愛し子に最高のものを用意するのは当たり前!」と、声を揃えてぬかしやがりまして。わざとらしく溜息をつき、諦めた。

 そんな経緯はあったものの、熊さんとステイシーさんが来るまではテトさんに質問しつつ、ずっと膝の上で図鑑を眺めていたのだった。

 熊さんたちが来たあとは、簡易キッチンでプリンとゼリーの講習会。冷蔵庫がなくても魔法で冷やせるし、この時期なら暖炉のない部屋や食糧庫に入れておけば固まることもわかり、熊さんとステイシーさんは大フィーバー。

 この国は冬だが、別の大陸では夏のところもあるので、そこで出すデザートとして出すことを決定してた。


「ありがとうね、ステラ」

「ろういたちまちて」


 熊さんとステイシーさんに頭を撫でられたあと、お礼だとドライフルーツと魚介をいただいたのだった。


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