第57話 チベットしゅなぎちゅねのかおでしゅ
ゲットした証明書を見ていると、書かれている文字とともに、何が書かれているのか教えてくれるというので、素直に頷く。とはいえ、たった今宿に来たばかりなので、一回休憩。
セバスさんが本領発揮して、華麗に紅茶を淹れてくれる。わざわざ幼児でも飲める温度にして手渡してくれたのは、仄かに香辛料が香るミルクティー。つまり、チャイだった。
私の分はそこまできつい匂いではないから、かなり加減してくれたと思われる。
そんな気遣い溢れたチャイを一口含むと、テトさんが何か魔法を使った。テトさんを見つめて質問するように首を傾げたら、防音や盗聴されないための結界だと聞いて、目を丸くする。
そんなに重要な話をするのか!? と思ったら、単に私が喋れるということを知られたくないから、らしい。……チベットスナギツネの顔になってずっこけたよね。
てなわけでセバスさんから、一時的に喋る許可が出たけれど、質問する前にまずはきちんと話を聞かないとね。姿も冒険者スタイルなので、話し方もそのままみたい。
「この証明書は二重の意味がある。俺たちのパーティー、〝
「もちろん、ステラの身分証明書代わりにもなるわ」
国によって違うようだけれど、今いる国のシステムだと前置きして話してくれたんだが。出産したら役所に出生届を出すと、交換で生まれた子の出生証明書を渡される。それが身分証を兼ねているそうで、冒険者や商人、職人などのギルドに登録する際に、そのタグがそのまま自分のタグになるらしい。
ただ、国によってそういうシステムがなかったり、スラムで生まれた子には発行されない、なんてこともある。だから、ギルドに登録するまでは身分証明ができず、生まれた町を出ることはできても、別の町や国に入ることができないということもままあるんだとか。
そのため、冒険者に限らずギルドタグを持っている大人がなんらかの理由で子どもを保護した場合、『保護してますよ』『うちの子ですよ』という証明書を発行する場合があるそうだ。それが今回私がもらったもので、冒険者ギルドが発行する証明書に関しては、全世界共通らしい。
私の場合、元はこの世界の住人じゃないからね。それもあってあの設定にして、セバスさんたちのパーティーが旅の途中で私を保護し、孤児院に連れていったけれど離れなかったから、成人するまで育てますよという証明にもなるんだそうだ。
ああ、だからバトラーさんが一時的にパーティーに入れて保護するとかなんとか言ってたのか。
「にゃるほろ」
「ただ、やっぱり抜け道じゃないけれど、悪用するおバカさんもいるのよ」
「それが、悪質な奴隷商人なの」
「おおう……」
キャシーさんとセレスさんが追い打ちをかけやがった!
しかもストーカーまがいなことまでされてるわけだし。大人でそれなんだから、幼児の私なんてもっとダメなやーつ!
奴隷という言葉は元日本人としてはどうにも馴染めないが、ファンタジー小説では定番だし、過去には地球にもあったんだよね。それを考えると、迂闊に嫌だとかきらいとは言えない。
死の森の移動中に聞いた話の中で、奴隷商の話があったんだけれど、奴隷商と一口に言っても様々な〝
町にいた連中は違法奴隷商――主に誘拐や盗賊から買うなどして、勝手に売り捌くことを指すそうだけれど、いくら中の人が三十五とはいえ、見た目は幼児。そこはかなり暈した言い方で教えてくれたんだが。
・借金のかたとして売られる
・詐欺などの犯罪を犯した
・借金が払えなくて身を落とした
が主な理由だそうだ。中でも扱いが一番酷いのが犯罪を犯した者で、他はそうでもないんだと。それがいわゆる借金奴隷と呼ばれる人たちだそうだ。
犯罪を犯した借金奴隷は、過酷な職業――鉱山での採掘をして返済することが主だが、他はその人ができるものを前面に押し出して売り出すという。
借金のかたや身を落とした人は、買われた主人に仕えつつお金を返し、全額返すことができたら自由の身になれる。
こちらは止むにやまれずな状態ばかりなので、真面目に働いて返済する人が多く、その働きが主人に認められたり気に入られれば、そのまま継続して雇ってくれることがほとんどだそうだ。
たとえば、裁縫が得意ならお針子として、戦闘が得意なら護衛としてなどだ。人によっては奴隷の間に手に職をつけ、借金を返したあとに独立して店を出す人もいるという。
中には娼館に行く人もいるけれど、ここでも格差があるから一概に娼館がダメ、ということもないみたい。とはいえ、犯罪を犯して娼館に買われた人は、鉱山同様に扱いが酷いらしい。
主に給料が安い下働きとしての雑用か、日に何人もの客と寝るとか……ごにょごにょ。給料が安いからたくさんの人と寝て、たまにチップをくれるお客さん目当ての人もいるとかいないとか。
ぶっちゃけると、借金返済のために、たくさんの人と寝るわけだ。その分、返す金額も多くなるから早く娼館から足抜けできる場合もある。とはいえ、お勤め年数――年季が決まっているので、いくらその期間に全額返せたとしても、足抜けはできないそうな。
もっとも、年季ギリギリで終えるような返済の仕方になっているので、客に気に入られて身請けされない限りはずっとお勤めだそうだ。
他には料理を作ったり、裁縫が得意なのであればお針子として働き、娼館に勤めるお姉さんたちの服を縫ったり、布団の修繕をする場合もある。容姿が優れていたり、頭脳明晰な人は段階的に教養や立ち居振る舞いを覚え、高級娼婦としてトップに君臨できることもある。
この高級娼婦だけど、お客と寝ることは稀で、ほとんどが金払いのいい客たちの接待なんだって。娼館によっては春を売らず、その教養を活かして国から要請され、他国から来た客人をもてなすこともあるというんだから、驚いた。
凄いよね。侮れんぞ、高級娼婦。
まあ、そんな奴隷事情はともかく。
そういう話を聞いていたからこそ、嫌だと言えんのよ。悪いことばかりとはいえないから。
だからこそ、搾取するよう違法に人身売買をする奴隷商は嫌われるし、買う人もいない。いても後ろ黒いところがあるような商人か、不正しまくっている、または特殊性癖持ちの貴族だけだそうだ。
そんなところに売られた人は、悲惨な目に遭うことがほとんどだそうで……。詳しいことはそれ以上教えてくれなかったけれど、想像はつくしお口チャックしたとも。
そんな話を思い出していると、証明書の質問や冒険者ギルドの看板のことも思い出したので、聞こうと思ったらノック音が。
「セバスたちー! いるんでしょ? 開けてー!」
「「「「「「……はぁ……」」」」」」
若くはないけれど、外から元気な女性の声が聞こえてきた。その声に、珍しくも神獣たち全員が溜息をついている。
おやぁ? なんでそんな反応?
何かあると困るからフードを被ったほうがいいかなと手を伸ばしたら、大丈夫だからと言われてなおさら首を傾げる。どゆこと?
漫画なら、頭上にクエスチョンマークがたくさん出ている状況の中、セバスさんが動いて扉を開ける。そこにいたのは、
セバスさんたちを知っているみたいだけれど、誰かなー?
説明プリーズ!
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