第52話 まちのようすでしゅ
ご飯を食べたあとは、町の様子の報告会。
……のはずなんだが、現在の私は、バトラーさんとセレスさんに両側から抱きつかれ、「ただいま」攻撃をされている。なにせ、二人が帰って来た時の私は、セバスさんと一緒に料理してたからね~。
それができなくてウズウズしていたらしい。
過保護もここに極まれりってか?
まあ、それはともかく。
二人が満足するまでその状態でいたあと、暖炉の前に集まって報告会開始。
大人たちはワインとエール、町で買ってきたという
くそう……早く酒が飲める年齢になりたい。美味しそうなんだよ、
って、そうじゃない! 先に話を聞かないと!
二人が町に着くと、門が開いていたそうだ。かなりごった返していたから、知らん顔をして門番に話を聞くと、魔物の討伐と盗賊の残党狩りを終えて帰って来たばかりだったそうだ。
危険がなくなったことで門を開けたと門番から聞かされたらしい。
おお、無事に討伐されたのならよかった!
町の中に入ったらすぐに冒険者ギルドに行って不必要な素材を売ったんだが、その中にフォレストウルフとホーンラビット、ミノタウルスの肉が大量にあったもんだから、ギルド側はびっくりからの狂喜乱舞。肉はすぐに商業ギルドに回されたという。
つうかミノタウルスなんていたっけ? 私、遭遇したっけ?
それを聞いたら、私が昼寝している間に出たらしく、棲息地域を出てから起きたものだから、黙ってたんだと。しかも、起こしたけれど、私はグースカ寝てて一向に起きなかったらしい。
……がっかりだよ、私。ダメダメじゃん、私。
別の国にもいるそうだから、そこに連れて行くまで待てと言われた。とほほ……。
で、ギルドで換金したあとは町の様子を見つつ散策し、屋台で買い食いしつつ情報を得て、調味料と乾燥野菜と乾燥キノコ、ドライフルーツと乳製品を買って町を出たらしい。
「ろんなうわしゃがあったんでしゅか?」
「主に食材に関してだな」
「あとは、店舗を持っている商人が食材を買い占めて、値段を上げたみたいで、それに対する不満ね」
「おおう……」
やっぱり値段を上げていたのか。買い占めて値段を上げて売るって……悪質な転売ヤーかよ。
てなことを思いつつバトラーさんとセレスさんの話を聞く。
噂ではあるけれど確定しているのは、国と領主がとっくに動いていたということ。国は元々備蓄を出していたけれど、それを買い占めたのが所謂悪徳商人らしい。もちろん、国と領主とで調査中だそうだ。
未確認な噂だと、隣国からの援助を取り付けたらしい。
そして領主のほうは、町や村単位で配給を始めたそうだ。悪徳商人に対する牽制みたい。
盗賊に関しては賞金首、ベアとウルフは解体されてこれも肉は商業ギルド行きとなったと、教えてもらったらしい。
「ただ、やはり町の中には行かないほうがよさそうだ」
「他国の奴隷商人がいたのよ」
「他国の、ですか」
「ああ。どうも、捕まった盗賊たちから商品を買う予定だったらしくてな。我らが町を出る時、半数が捕まったと門番が話していた」
「残りは潜伏しているらしくてね。まあ、あたしたちにとっては探すのなんて、造作もないことだけれど」
うわー。それは嫌だなあ。
私がいるからなんだろうけれど、単独行動をして情報を集めたって言っていたから、その時にストーキングされたんだろうなあ、セレスさん。だって、言葉の端々がとげとげしいもの。
でもって、ストーキングしてきた奴らを一網打尽にして兵士か騎士がいる詰め所に突き出したんでないかい? 憶測だけれど、間違ってない気がする。
ただ、この国では奴隷がいないことからずっと怪しまれていたらしく、半数とはいえ逮捕できたのはよかったと、門番が言っていたんだって。
捕まった奴隷商人と盗賊たちの癒着? と言っていいかわからないが、それらが発覚して確実な繋がりがわかった場合は、しっかりと処罰されるという。
ただし、まだ半分しか捕まっていないし、町の人たちも外から来た人に対して、あからさまではないもののピリピリしているから、行かないほうがいいと判断したそうだ。
「まあ、わたくしたちには関係のないお話ですしね」
「ええ。依頼も請けていないもの、どうこうする筋合いはないわ」
おおう、神獣様たちは意外とシビアでござる。まあ、見守る存在である神獣たちからすれば、冒険者として依頼されない限り、首を突っ込むようなことはしないんだろう。
盗賊たちと魔物たちの噂と事実はそんな感じらしい。なので、明日の午前中、もう一度キャシーさんとセバスさんが町の様子を見に行き、その時の状態によっては午後には出発するか、もう一泊するか決めるそうだ。
町の様子を見たかっただけに、なんだか残念。……叱られたくないので、我慢するさ~。
町の様子はそんな感じで、今度はお金のお勉強。バトラーさんたちが換金したものを、私の目の前に並べてくれる。
ただね……恐ろしいことに六種類全部並んでいるのだ。……滅多に見られないんじゃなかったっけ!?
まずは大きさだけど、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨の大きさは百円玉くらいの円形で、色も名前の通りだったりする。ただし、鉄貨だけは四角。
白金貨は一円玉くらいで銀貨よりも白っぽい色、精霊金貨はその半分もなくて、半透明の黄色だ。しかも、表面には動物の横顔が彫り込まれている。
ファンタジー世界ならではの材質なんだろうなあ、精霊金貨って。
ちなみに、裏にあたる部分はどの貨幣も同じで、〝大陸共通〟と四桁の数字が掘られている。この四桁の数字は、共通貨幣になって何年で、その年に作られた貨幣ですよ~、と知らせるものだそうだ。
あれか、日本の貨幣だと和暦と作られた年が描かれているやつと同じ意味か。数字はゼロから始まっていて、この世界の文字で〝0523〟とか〝0342〟と書かれている。
ってことは、共通になって五百年は経っているってことなんだね。数字が大きいほど、作られたものが新しいってことか。
まさか、二百年前の貨幣が見れるとは思わなかったけれど。
で、それぞれの貨幣の表はというと。
鉄貨は角が生えているウサギで、ホーンラビット。
銅貨はオオカミで、フォレストウルフ。
銀貨は立派な角があるシカで、ホーンディア。
金貨はクマでフォレストベア。
ここまでは、以前教わった通り、貴賤を問わず使う貨幣。
そして白金貨はドラゴンで、精霊金貨は猫。なぜか、猫。
なんで猫?
「しぇいれいきんかは、ろうして、ねこしゃんでしゅか?」
「ああ、それはバステト様が描かれているからですよ」
「バしゅてとしゃま?」
「ええ。バステト様が地上に降りる時、猫の姿になると言われているのです」
「猫はバステト様の化身とも言われている」
こっちでも猫なのか、バステト様は。
「ほえ~。じっしゃいは?」
「地上に降りることはありませんね」
「猫好きなだけだな」
「それがいつの間にか、バステト様の化身って言われてたのよね」
「そんなことになったら、地上に猫なんていないわよねぇ」
「バステト様の恩恵に与りたいだけでしょ」
「おおう……」
セバスさんとバトラーさん、セレスさんとキャシーさん、テトさんの順にお言葉をいただきました! 神話や伝説、説話の裏側なんて、そんなもんだよね~(棒)
とりあえず、当面の間のおこづかいということで、バトラーさんが鉄貨と銅貨を五十枚ずつ、銀貨を十枚私にくれた。さすがに金貨以上のものは危なくて持たせられないので、その金額になったらしい。
それでも嬉しいよ! この世界で初めてのお小遣いだ。なくさないよう、黒猫の鞄の中に入っていた、がま口のお財布の中に入れておく。
このお財布も猫柄で、見た目よりもたくさん入る仕様になっているらしく、どう見ても入らないだろうという貨幣が全部入ってしまった。すげえな、マジックバッグ仕様のお財布は。
しかも、首からかけられるよう、丈夫な革紐付きであ~る!
安全な町に行ったら買い物も体験させてくれるというので、楽しみに待つことにしよう。
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