第34話 どすしゅとらいくでしゅ

「ほあー……おおきいでしゅ!」


 大きな影がどんどん近づいてきて、徐々にその姿を現していく。

 最初に見えたのは金色の大きな足。10トンのロングトラックやコンテナ、下手すると電車の車両よりも大きい。

 鱗が生えていて、足の形としては背中が光ったあとで口から破壊光線を出す、某巨大な怪獣に近い。

 次に見えたのは金色の体色に白いお腹。ぽってりとしたお腹で、ここにも鱗が生えているけれど、蛇腹のように横に並んでいる。

 見上げれば鉤爪がついた大きな手で、指は五本。やっと見えた銀色のほうはヘビのように細長く、手は金色と同じように五本指だ。

 本来の姿のバトラーさんですら咥えられそうなほど大きな口には牙がびっしり生えているし、細長い顔の上には二本の角。銀色のほうは麒麟のような角と長い二本のひげが。

 そして金色は背中にならんだ凸凹に、うしろに延びた尻尾は太くて長く、先細りしている。

 銀色のほうも背中が凸凹しているけれど、こっちには同色のたてがみがあって、ふよふよと浮いている。手には輝く球体が握られていた。

 金色のほうは十階建てのマンションくらいで、銀色のほうは三十メートルくらいの長さはあるかな? とにかくどっちも大きいし長い。

 まあ、いろいろと説明したけどね?


「ほあー! ドラゴンー!」


 はい、ドラゴンだよ! 金色が西洋、銀色が東洋の姿をしているのだ!

 どっちも鱗がキラキラ光って綺麗!

 しかも、西洋のほうは被膜の翼じゃなくて鳥の翼みたいにふわふわしたもので、三対六枚だ。もちろん色は金。

 金というか白金かな? 金よりも薄い色で、光の加減によっては白にも見える。

 そして金色のほうは黒曜石のような黒い瞳、銀色のほうはスカイブルー。どっちも綺麗な色で、つい見惚れてしまう。


<いらっしゃい、バトラー、テト、スティーブ>

<随分と可愛らしい幼子を連れているのね>


 金色は耳元で囁かれたら腰が砕けそうな色気のあるバリトンボイス、銀色は鈴を転がしたような女性の声。どちらの声も素敵で、ずっと聞いていたくなる声だ。


「ああ。森の南端で保護した。荒れてる国に行くための街道に近い場所だ。しかも、この子はバステト様の愛し子だ」

<おや、それは珍しいですね>

<ふふ、だからバステト様の気配がするのね>


 バトラーさんの説明を聞きつつ、大きな顔が近づいて、私をじっと見る二匹のドラゴン。綺麗な鱗だなあ。触ってみたいな。

 その前に自己紹介せねば!


「あにょ、はじめまちて。ステラでしゅ」

<ふふ。ようこそ。私はセバスです>

<あたしはセレスティナよ。セレスと呼んでね>

「あい! よろちくおねがいちましゅ!」


 バトラーさんにお願いして地面に下ろしてもらったあと、丁寧にお辞儀をしてから、ハタと気づく。セバス、だと……? 確か最強の一角じゃなかったか?

 頭を上げてから二匹を見る。すると体が光ってどんどん縮まり、人型になった。

 金色は男性で見た目四十後半か五十前半の渋いイケオジ。長い金髪を首のうしろでくくり、オールバック。銀縁眼鏡をかけている。

 しかも服装は黒を基調にして、グレーのベストに並んでいる五つのボタンは貝ボタン。白いシャツを使った執事服に白い手袋。首は光沢のあるグレーのアスコットタイで、ポケットからは白いポケットチーフが見え、そこから細い鎖が出ている。

 鎖は襟のところで止められていた。恐らくだけれど、懐中時計だと思われる。


 大事なことだからもう一度言うが、執事服に白い手袋に銀縁眼鏡をかけた、渋いイケオジだった。

 やべえ……ドストライクなんだが! 恰好が!


 そして女性のほうも男性と同じくらいの見た目で、銀色の髪を結いあげ、紺色のメイド服に白いエプロン。エプロンの形としては、肩のところにレースがついていて、ひだになっているものだ。頭には白いメイドキャップを被り、こっちもレースでできていた。

 メイド服はロングスカートでパフスリーブ、形はカントリーロングといったところか。胸のところで切り返しになっていて、上の部分は白。丸襟の下は銀と黒のチェックになっているリボンを結んでいる。

 袖口が白だからとてもよく生えるし、使われているボタンも貝ボタンのようで、キラキラと虹色に光っていた。裾にもレースがあしらわれ、こちらも白。

 こっちもドストライクな格好で、大きなお胸様と細い腰を見せつけるような、めっちゃスタイルがいい美人なお姉様!


「ほあ~!」

「あらあら、ステラちゃんのお目目がキラキラしてるわ」

「本当に。零れ落ちないかしら?」

「大丈夫じゃない? というか、スティーブ。貴方も相変わらずねぇ」

「いいじゃないのよ~」


 綺麗な声と野太い声で会話しないでくれ~! 本物のお姉様の声がかき消されるじゃないか!

 そんな二人をよそに、おじさまがわざわざ膝をつき、顔を私の目の高さに合わせてくれる。行動までイケメンか!


「ステラはいくつですか?」

「しゃんしゃいでしゅ」

「おや。まだまだ親が必要な歳ですね。こちらの服はどうされたのですか?」

「ばしゅてとしゃまが、ごよういちてくらしゃいまちた」

「ふふ、そうですか」


 可愛いですねと微笑みを浮かべ、頭を撫でるおじさまことセバスさん。その撫で方が優しくて、つい笑みを浮かべてしまう。くふ。

 ……あかん、行動が確実に年齢に引っ張られている。気をつけないとなあとは思うものの、見た目三歳児が大人びた行動をすると、こまっしゃくれた幼児になってしまう。

 そこは諦めて、しっかり幼児に徹しよう。


「とりあえず、中にどうぞ」

「すまぬ。土産もあるんだ。あとで確かめてくれ」

「わかりました。さあ、ステラ。私たちの家へとご案内しましょう」

「あい! おじゃまちましゅ!」


 元気にお返事するよ!

 立ち上がると同時に私を抱き上げるセバスさん。足元がかなり凸凹してて幼児の足だと危ないらしく、それで抱き上げたらしい。

 そんなセバスさんもいい匂いがする。いい匂いというか、落ち着く匂いっていうのかな。穏やかなバリトンボイスとその雰囲気とも相まって、余計にそう感じる。

 歩き始めると同時に、セバスさんの横にセレスさんが並ぶ。

 家に着くまで話をしたんだけれど、二人は夫婦だそうだ。種族としては、セバスさんが最古の竜族で古代竜、セレスさんも最古の龍族のひとつで黄龍。どちらもエンシェントドラゴンと呼ばれているそうな。

 私の感覚だと、黄龍は天帝なんだけどね。そんな話をしたら、セレスさんはあながち間違ってないと笑う。


「しょうなんれしゅか?」

「ええ。遥か昔は空を統べる王の役割をしていたこともあるの。それは今も変わっていないけれど、セバスの一族と、あたし側の種族である金龍や銀龍と交代で、王の役割をしているわ」

「基本的に、バステト様の代わりに下界の監視をするのがお役目です。昔はあちこちで戦乱が相次いで大変な時期もありましたが、今は監視だけですので、楽ですね」

「おおう……」


 セバスさんたちいわく、今の状態に落ち着くまで、あちこちで戦争だの内乱だのが勃発していたそうだ。そのころの人間たちはとにかく欲望が強く、自分たちが持っていないからといろんな種族に喧嘩を売り、その種族の宝や土地、技術を奪ってきたらしい。

 奪ったからといって人間たちにその技術が扱えるかというとそんなことはなく、単に技術を滅亡させたり衰退させるだけだった。その技術を守り、復活させたりする役目を負っていたらしい。

 あとは、傲慢で強欲すぎる人間の国を滅ぼしたり、数を減らしたりとかね。

 人族は他の種族と違って繁殖力が強いからどんどん数が増えるし、他の種族の縄張りだろうと、平気で土足で踏み込むという無礼と傲慢さ。そんな人間ばかりではないとはいえ、その当時はそんな人間しかいなかったらしい。

 そのことに珍しくバステト様が激怒。約五千年近く伊邪那岐いざなぎ伊邪那美いざなみの神話のように、一日千人死んだら五百人しか生まれないような呪いをかけ、人族の増加を減らしたらしい。

 かなり減って落ち着いたあとは、一日千人死んだら千人しか生まれないようにし、それ以上増えないよう、調整したという。他の種族はもともと子どもが生まれにくいし、増えても人族ほどではないので、そういった制約はかけていないという。

 それでも増えても五十人が限度だというんだから、徹底してるよね。

 異類婚姻も同じで、ハーフだろうと両親どちらかの種族になるんだそうだ。それは凄いというか、なんというか。

 まあ、数が増えればその分食料も必要になるし、豊かな土地をめぐって争いも起きやすくなる。それを防ぐために、破綻しないギリギリラインで、全人類の数を調整しているらしい。

 その一端を担っていたのが、セバスさんとセレスさんの一族を含めた複数のドラゴン族なんだそうだ。

 それが二万年前の話だというんだから、なんとも壮大な話だよね。

 地球なら神話だよ。

 この世界では神話イコール実話なので、今でもその話が伝わっているという。


「ですから、小さいうちは悪いことをするとドラゴンに食べられると言われて育ちます」

「最近はそれに加えて、神獣に食べられる、罰を受ける、なんて話も出回っているわね」

「にゃるほどー」


 神獣は神の使いだもんな。それに、身近に存在しているから、余計にそういった話が出回るんだろう。

 そんな話を聞いていると、セバスさんたちの家に到着目前になる。

 さて、どんなおうちかな? 見るのが楽しみ!


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