転生したら幼女でした⁉ ―神様~、聞いてないよ~!―

饕餮

魔の森篇

第1話 きいてないでしゅよ!

 お正月、久しぶりに実家に帰ってきて、のんびりできた年末年始。嫁をもらって外に出た弟も帰って来ていて、実家はとても賑やかだ。


優希ゆきが実家にいるのは久しぶりよね。何年ぶり?」

「三年ぶりじゃないかな。マジでここ三年は忙しかったんだもの」

「海外で仕事してたんだったか?」

「そうなの。一年の出向が延期されて三年よ⁉ 酷いわよね!」


 母や兄と話をしながら、おせちを食べる。

 三十五になるのに恋人がいないことを心配されつつも、がむしゃらに仕事をしてきた。ずっと恋人がいなかったわけではないが、どうにも男勝りというか、なぜか男性よりも女性に人気があったのだ。

 女子高に行ったのが間違いだったのか……。

 高校の時は、本当にモテた。百七十を超えた身長と、父に似た男っぽい面立ちのせいで、とにかく女の子にモテたのはある意味黒歴史だ。

 宝塚に行ってはどうかと言われたが、私の演技は大根どころか、幼稚園のお遊戯レベル以下です。なので普通に大学に行った。

 大学に入っても似たような状況だったが、恋人がいなかったわけじゃないし、きちんとお付き合いをした人もいる。

 まあ、女の子っぽくないから、すぐに別れる羽目になっていたが。ちくせう。

 それからは、たまーに恋人になってくれる人はいても長続きせず、仕事に没頭したせいでここ八年ほどは恋人のこの字もなかったんだから、しょうがなくね?

 海外の仕事が一段落して別の人と交代し、十二月になってやっと日本に帰ってこれたのだ。

 日本に戻って来てすぐに住む場所を探したが、そう簡単に見つかるはずもなく、会社に近かった実家にお世話になって、早二週間。毎日ネットやアプリ、会社に行くまでにある不動産屋のショーウィンドウを眺めてはいるが、ピンとくるものがないのが実情だった。

 両親も、両親と一緒に暮らしている兄夫婦も気にしないと言ってくれてはいるが、そろそろ実家を出ないと肩身が狭い。お正月が明けたら本格的に探そう……なんて思っていた。


「じゃあ、お雑煮もおせちも食べ終わったし、初詣に行きましょうか」

「おっと。その前に、みんなにお年玉をあげないと」

「「「「「やったー! ゆきおねえちゃん、ありがとう!」」」」」

「お、おう」


 相変わらず元気な甥っ子&姪っ子たちだなあ……とほっこりする。もう中学生や小学生だもんなあ……ババアになるのも納得だわと落ち込む。

 中学生には一万円、他は一律五千円ずつ渡し、無駄遣いするなとしっかり念押しして、子どもたちにポチ袋を渡す。

 私が子どものころはお年玉袋と言っていたのに、今はポチ袋というんだなあ……となんだか感慨深いものがある。まあ、それは横においとくとして。

 ポチ袋ごと自分の財布に入れた子どもたちに外出する支度をさせ、まずは私が外に出る。通りに一歩出ると、どんどん近づいてくる車が見えた。

 おいおい、こんな狭い道路をそんなスピードで走ってどうする! ここは30キロ道路だぞ!

 なんて考えていたら、女性と男の子が通りかかった。


「そこのお母さん、そこは危ないわ! こっちに来て!」

「え? あ! はい!」


 私の声で母親のほうも暴走車に気づいたようで、男の子の手を引いて慌ててこっちに走ってくる。が、車は一向にスピードを落とす気配も見えず、むしろ上がっているように見えた。


「まずい……!」


 自転車に乗って壁際に除けていたおっさんを撥ね、さらに同じく自転車ごと壁際に除けていた少年三人を撥ね飛ばす車。運転席を見ると、焦った顔をした爺さんが見えた。

 またかよ! 最近流行りの、老人の暴走車かよ! と内心で突っ込みつつ、走ってきた親子をうちの家のほうに入れる。それに続く形で私も中に入ろうと思ったのに、何を思ったのか爺さんがハンドルを切り、こっちに車が向かってきて……。


 逃げる間もなくドン! と体に走る衝撃は、お腹と、少し遅れて背中と頭。どうやらお腹は車にぶつかられ、背中と頭は電信柱にぶつかったっぽいなあ。

 あーあ。正月早々ついてないやー。そういえば、厄年――本厄じゃーん。そのために初詣に行って、お祓いをお願いすることになってたのになー。

 なんて考えているうちに両親や兄たちの叫ぶ声が聞こえたが、それも聞こえなくなっていた。気づくと私は宙に浮いていて、下を見下ろしている。

 遠くから聞こえてくる、パトカーと救急車のサイレンの音。

 茫然としながら泣いている親兄弟。そして、助かったであろう親子も、茫然としている。

 親兄弟よ、正月早々すまん、爺さんの家族から、がっぽり金をせしめてくれ。それに二人が助かったんならいいか~。

 そしてエアバッグに挟まれている爺さん。ざけんなよ、きちんと運転できねーなら免許返納しろや、ボケ! ついでに呪われてしまえ!

 なんて、のほほんとしつつ、運転していた爺さんを罵っていた。

 それとだな……体が浮いている現状を見るに、どうやら私は死んだっぽい。お腹と背中と頭にかなりの衝撃があったから、即死だったっぽいなあ、これ。しかも、未だに車と電柱に挟まれているしな、私の体は。

 恐らく、内臓破裂と頭蓋骨損傷とかになってるんじゃなかろうか。


 私こと今井いまい 優希ゆき、享年三十五歳。爺さんが運転する暴走車から母子を助けて轢かれ、あえなく死亡。

 結婚してなくて親不孝をしたが、最期にいいことをした! と、とても満足した。

 そして誰かが呼んでいるような気がしてそこに行ってみると、黒髪金目で小麦色に焼けた肌、人外的な美貌とたわわなお胸様、見事なプロポーションを余すことなく見せつける扇情的な服を着た女性が微笑みを浮かべていた。

 服はとてもエロいのに、雰囲気にはエロさが全くない。むしろ神々しい。

 おお、めっちゃ綺麗なお姉さん! 拝み倒しちゃう! ついでにそのお胸様に埋もれてみたい!


「まあ、ありがとうございます。それから、貴女には申し訳ないことをしてしまいました……」

「ああ、死んだこと? 別に構いませんけど。人助けして死ねるなんて、滅多にないことですし」

「そうはおっしゃいますが、本来はもっと生きることができたのです。今なら間に合います。生き返りますか?」

「んー、いいかな。仕事はひと段落していたから多分迷惑にならないだろうし。親不孝しっぱなしなのが心残りですけど、それくらいですしね」


 とても心配そうな顔をした女性に、豪快に笑ってみせる。本当に悔いはなんだよね、親不孝以外は。仕事もこれといったプロジェクトもなくて、年明けに新しいプロジェクトを立ち上げるか、海外から戻ってきたばかりだからその整理をするつもりだったし。

 担当者には申し訳ないが、私よりも優秀な男がたーっくさんいるから、なんとかなるっしょ。

 そんな心の声がバッチリ聞こえているようで、麗しい女性は泣きそうな顔をしながらも笑っていた。

 女性は大きく息を吐き出すと、自分は地球の神の一人であり、別の世界も管理していると話してくれた。それからあの親子のことを教えてくれる。

 あの親子のうち、母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、一緒にいた男の子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる重要人物たちだったという。もしあそこで親子が死んでいたら、人類は衰退する一方だったらしい。

 おおう……なんという大物を助けたんだ! 自画自賛してしまおう!

 で、彼らを助けた功績で異世界に転生させてくれるという女性――女神様。そんな簡単に決めちゃっていいのかな。


「構いません。異世界が嫌なのであれば、地球に転生することもできますよ」

「うーん、地球もいいけど、異世界も面白そうです。なので、異世界でお願いします」

「わかりました」


 それから女神様と話し合い、その世界で生きていけるような魔法をくれた。そして移動するのに適した鞄も。


「この中に旅に必要な道具や食材、着替えなどが入っています」

「ありがとうございます。それだけで充分ですよ」

「魔物が出る世界です。気をつけてくださいね」

「はい」


 それから私の魂の器になる肉体を用意してくれて、馴染むまで結界を張り、その場所で眠らせるそうだ。魂が肉体に馴染んだら、自然と結界が消えて目が覚めるようになっているんだとか。


「肉体も、生きていた時の年齢よりも若くしました」

「おお、それは助かります! 三十過ぎてから体力が衰えて来ていて、ちょっと大変だったんですよ~」

「それはよかったです」


 にっこりと微笑んだ女神様のご尊顔が眩しいです!


「それでは、肉体に移しますね。わたくしは、貴女を見ています」

「ありがとうございます」


 若干の不安を覚えつつ、女神様にすべてを任せ、そして目を瞑る。


 ――お父さん、お母さん、親不孝ですまん。兄夫婦に弟夫婦よ、両親を頼む。悲しまないでくれ、私は異世界で元気にやるからさ。


 そんなことを考えていると、なんとなく意識が浮上してくる。どれくらい眠っていたかは知らないが、ふと目を開けてみると、そこには木々が広がっていた。

 なんというテンプレか! 呆れつつもちょっと感動した!

 そして体を起こすものの、なんだか視界が低い、ような……?


 違和感を覚えて自分の手を見ると、めっちゃちっちゃな紅葉の手。下を見ても、めっちゃ短いぷっくりとした足。服はピンクのエプロンドレス。横を見れば、女神様が渡してくれた、黒い斜め掛けの鞄は、女の子のものっぽくて可愛らしく、猫の顔と猫耳が付いている。

 だが。


「……めがみしゃま! ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー‼」


 幼くも、舌足らずな甲高い声が虚しく響く、森の中。


「しょれくりゃいのしぇちゅめいは、しといてくらしゃい!」


 そう空に向かって叫んだ私は、悪くない!


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