第49話 隙あらば
「ごちそうさま」
「はい、お粗末様でした。あ、涼はそのままでいいわよ。食器は私が下げるから」
俺の前から食器を片づけていく菘。なんか貴族になった気分だ。いや、俺の貴族観なんかおかしいな。
病院から帰ってきてから、オーブンに入れたまま放置していたグラタンを温め直して食べた。利き腕は健在なのに、菘はやたらとあーんをしたがって困ったものだ。
「さて、と。次はお風呂ね」
食器を洗い終えた菘がリビングに戻ってくるなりそう言った。
その目は俺を見据えている。
「……言っておくが、別に一人でも入れるからな?」
「でも、時間かかるわよね」
「そりゃそうだけど」
「なら、取るべき選択肢は一つよね」
俺の意見には聞く耳も持たず菘はリビングから出ていった。
かと思えば、洗面所に向かったわけではないようで、二階に上がっていく足音がする。
何がしたいんだろう。
菘の意図がわからず、かと言って先に風呂に入ろうものなら後から突撃されるのは目に見えているのでとりあえず待機することにした。
しばらくすると、菘が階段を降りてくる気配がする。
ガチャりと、リビングの戸を開いた菘は、およそ一般的な家宅には似つかわしくない格好をしていた。
「……なんでスク水? っていうか、デジャヴだわ」
学校指定のスクール水着を身に着けた菘がそこにはいた。
相変わらず身体のラインがハッキリと出ている。
菘がうちに泊まり込むことが決まった翌日にも、俺は菘のスク水姿を見ている。
あの時はまだ菘は恋人ではなかった。だから、その姿はあまりにも強烈で隅々まで記憶に留めることができなかった。
でも、今は違う。何度も肌を重ねてきた。もう落ち着ついて菘を見ることができる。
「んんっ……」
「なんできつそうなんだよ。この前も着てただろ」
胸のあたりの生地を手で弄くる菘を見て思わずこぼしてしまう。成長期の小学生じゃないんだから……。
「実際、ちょっとキツイ……」
――太ったんじゃ? とは冗談でも言えない。いくら気心がしれている菘相手でも言ってはいけないことがある。
だがしかし。事実、前見た時より全体的にムチムチしている気がする。
やたらと豊かな胸は主張することをやまない。
「幸せ太りじゃないわよ」
「まだなんも言ってないやん」
「目がそう言ってた。というか、見過ぎよ」
菘の手は次いで下半身の方に伸びる。つられて視線を向ける。
割れ目に、思いっきり食い込んでいた。
布一枚を隔ているはずなのに、そんなことある? ってぐらいに形がありありとわかってしまう。
「なんかこれ、裸より恥ずかしいわね……」
菘もそれに気づいているからこそ、さっきからずっと位置を調整しているんだろう。
いくら菘が手を施しても改善されないので、傍から見ればいたちごっこでしかない。
そもそもの布地が足りていないとしか思えない。
菘はスッと手を除けた。諦めたようだ。
「ね、涼」
菘はゆっくりとした足取りで俺に近づいてくる。間合いを図られているみたいでちょっと怖い。
菘は俺の目の前まで来た。この距離まで近づくと、少しだけだがカルキの匂いが鼻をついく。
俺は折れてない方の手を菘に取られた。そのまま、俺の手は菘の身体に導かれる。
「涼が直して?」
「……は?」
俺が素っ頓狂な声を出すと、菘は目を細めながらもう一度言った。
「だから、涼が直して?」
「聞こえてるよ! 今のは? はもう一度言ってくれという意味じゃなくてな」
「だって、涼ずっと見てたから」
「理由になってない……」
俺の声を無視して菘は無理やり俺の手を自らの股間部に引っ張る。
そのまま、指先は濃い紺色の布地に触れた。一見するとツルツルしてそうだが、触れてみると意外にざらついた表面をしている。
ただそれ以上に。そこにはほんのりと水気があった。
「……これは涼が凝視してきたから」
俺が何か言う前に、菘は先立って言い訳をする。
「だからって、これ水着だからちょっとやそっとじゃこうはならんだろ」
コスプレ用の安物ならともかく、これは学校指定の水着だ。それなりに厚みがある。
その上揮発性には富んでいるはずだし、少し水分を含んだところで染み出すとは思えない。
関節を折り曲げ、少し力を加えて水着越しに指を沈み込ませる。
クチュリと、たしかな水音。
顔を上げると、菘の顔は羞恥に歪んでいた。
「誰もそんなことしてって言ってない」
「してって言ってるようなもんだろ」
「そんなことない。私はただ直してって言っただけ」
「あー、はいはい」
意地を張ってるだけなのか、はたまた本気で言っているのかは定かではないが、とにかく手を動かすことにする。
とは言ったものの。
「やぁっ……もっとやさしく……」
どう頑張ってもこの子喘ぐんだけど、どうすればいいの。
そもそも水着の食い込みって人に直させるものなのか。
何が正解なのかわからないまま、手探りで闇雲に手を進める。
当然ながら、デリケートゾーンを守る場所とあって簡単に布地はずれない。
その上俺は片手しか使えないとくれば、出来ることは限られていた。
結果。
「んっ、りょう……おなじとこばっかりこすらないでっ」
特に有効なこともできず、甘い愛撫に終始していた。
直接触れることも叶わず、水着越しの緩やかな手捌きに菘は悶々としているようで涙目でこちらを見ている。
図らずも焦らしているような状況。
「……っていうか、風呂入るんじゃなかったのか」
「そうだったわね。早く行きましょ」
ケロッとした表情で菘は同意をして、スタスタと洗面所の方へ逃げて行った。その際見えた耳が真っ赤なのは言うまでもない。
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