第16話 焚きつけるのが友人の仕事
昼休み。喧騒の中、一人の男子生徒が俺の席へとやってきた。香澄だ。
「涼く~ん、ご飯食べましょ?」
「きもい……」
「ツッコむならもっと勢いよく頼むわ。それだとガチで引いてるみたいだろ」
ガチで引いてるんだけど?
「悪いが俺には先約がある」
「なに、また菘ちゃん?」
「そうそう、だからお前は埴輪ちゃんと食べてくれ。あと、菘のことを名前で呼ぶな」
「げぇー、また飛鳥とかよ」
「なによ、嫌なの?」
俺達の会話に割って入ってくる声。
絶賛香澄に片想い中の、弥生飛鳥だ。あだ名は埴輪ちゃん。
「嫌っていうか、まあ食傷気味ではあるよな」
「私のこのプリチーな顔を見飽きたと?」
「うん」
「殺す」
香澄、埴輪ちゃんの顔が可愛いことは否定しないんだな。まあ実際可愛いんだけど。
「てことで、涼くん。裁判にかけるから香澄貰ってくね」
「おお、終身刑でいいからな」
「言われなくても」
バッチリとウィンクを決めて、埴輪ちゃんは香澄を引きずっていった。香澄ももはや無抵抗だ。ぶっちゃけ、埴輪ちゃんの凶行に毎度付き合っている時点で、香澄も埴輪ちゃんには何だかんだ気を許しているのだろう。
……さっさと付き合えばいいのに。
「あの二人、仲いいわよね」
いつから近くにいたのか、菘の声が後ろから飛んできた。
「だな、引っ付くのも時間の問題だろ」
「……どうかしらね。飛鳥、あれで告白する勇気が出ないみたいで」
「そうなのか」
意外だった。こう言ってはなんだけど、埴輪ちゃんのいい所は、その何も考えてなさそうな真っ直ぐなところにあると思っていた。
「でも、香澄が相手なら大丈夫だと思うけどな」
「私も、そうだとは思うんだけど……」
菘が歯切れが悪く、何か言いづらそうにする。
俺が目線だけで続きを促すと、菘は継ぎ接ぎに言葉を並べた。
「その、つい最近まではたしかに大丈夫だったの。飛鳥も、山科君なら簡単に落とせるわって息巻いてたし。でも、私たちの件があってから、ちょっと調子が」
「私たちの件っていうと、俺が振られたやつか?」
「……ええ」
申し訳なさそうに菘は頷いた。なるほど、口に出しにくそうにしていたのは、こんな内容だからか。
けど、埴輪ちゃんの気持ちはよくわかった。
周囲から見ればカップル同然の俺と菘。ついに俺が告白をして、正式に付き合い始めるのかと、埴輪ちゃんも思ったのだろう。しかし、結果はそうはならず。
物事に絶対はないとはいえ、「ほぼ」成功すると思われていた俺の告白が、目の前で見事に爆発した。ただでさえ、俺と境遇が似ているのだ。埴輪ちゃんが不安になるのは仕方がない。
「励ましてあげようにも、私じゃ……ね」
菘は肩を落とす。友人の助けになれないことを悔やんでいるのだろう。
そして、遠回しのその役目を俺に代わってもらおうとしている魂胆も見えた。
でも、俺はその菘の想いを無碍にする。
「別に菘が気負う必要はないだろ。告白できないのは、埴輪ちゃんが悪いんだし」
「そんな言い方……!」
「だってそうだろ? 埴輪ちゃんは告白して振られることを怖がってるんだろうけど、だからなんだよ。そりゃ、振られたら悲しいし逃げたくなるのはわかる……っていうか俺は一回逃げた。でも、それで相手のこと嫌いになるならその程度ってことだろ。俺は、振られてもまだ菘のことが好きだし、諦めきれない」
「……」
ポカーンと、菘が口を開けたまま惚けていた。それはもう、見事までな間抜け面。
それから正気を取り戻したのか、パンパンと顔を気付けている。
平静を取り戻した表情で、菘は俺のことをじっと見つめてきた。
「……なんだよ」
「いえ……。なんか、涼が恥ずかしいこと言い出したと思って」
「お前なあ」
「でも! そうね、とりあえず飛鳥にはそう言っておくわ。一言一句そのまま、もちろん涼の発言だと知らせて」
「やめてくれる!?」
無駄に恥をかいただけだった。ていうか、昼ごはん食べる時間ほとんどないし……。
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