第12話 空き巣?

 生徒会準備室なる部屋でなんやかんやありつつも、無事俺達は家の前までたどり着いていた。しかし、道中こそ代わり映えのしない、いつもの景色だったが、今俺と菘の間には緊張が走っている。


「これ、どういうことだ?」

「……空き巣、とか」

「怖いこと言うなよ」


 俺達は、今里家……つまり家の庭にいた。

 庭に面するように設置された大きな窓を見るとカーテン越しに室内灯がついていることがわかる。

 でも、俺達はこうして二人並んでいる。目下この家で生活しているのは俺と菘を除いて他にいない。

 じゃあ家の中にいるのは誰だ、という話をしていた。


「でも、それぐらいしか……。おばさんたちが帰ってきてるとは思えないし」

「連絡はないな」

 

 いや、仮に一時的に帰国するとなっても俺に連絡とか入れないだろうけど。

 しかしまあ、俺の親ではないだろう。昨日、突然ハワイに新婚旅行に行くなど喚いていたのだ。まさか、入国拒否でもされたんだろうか。


「鍵はちゃんと持ってるか? 朝、渡したよな」

「子供じゃないんだから。ちゃんと持ってるわよ。ほら」

「ドヤ顔のとこ悪いけど、その伸びるキーチェーンにつけてる時点で子供っぽいからな……?」


 俺も財布から自宅の鍵を取り出した。

 俺の知る範囲でこの家の鍵は、俺と菘が今持っているものと、父と母がそれぞれ持っている鍵の合わせて四つしか存在していないはずだ。

 スペアキーなら、ちょうど今朝まではあったがそれは既に菘の手の中。

 となると、玄関の扉以外から侵入した線が濃厚か? 

 ざっと見回しても、窓ガラスが割られた形跡などはない。そもそも、白昼堂々とそんなことをする空き巣犯がいてたまるかって感じだが。

 戸締りが完璧じゃなかった可能性は大いにある。一つや二つぐらい空いていた窓があってもおかしくはない。


「……警察、呼ぶ?」

「まあ、最悪そうなるな。ただ、空き巣と断定するまで警察はちょっと」

「なにか不都合があるの?」

「そりゃ、俺たちの生活様式おかしいし」

「なるほどね。傍から見たら、涼が育児放棄されてるというか、おばさんたちの監督不行き届きだものね」

「傍からもなにも事実でしかないけどな。それに警察に厄介になったら、葵さんに頼らないといけないだろ? きっと仕事で忙しいだろうにそれは申し訳ない」

「そうね、お母さんの予定……は知らないけど。今日もどうせ仕事だわ」


 というわけで、とりあえず俺の家にいる謎の人物が自発的に家を出るのを待つ作戦をとることにした。

 今時空き巣であれなんであれ、後出しでも警察に逮捕されるだろう。

 そう思ったのだが。


「ねえ、いつになったらこいつは出ていくの?」


 それから一時間が経っても、謎の人物は家を出る気配を見せなかった。

 

「さあ?」

「やっぱりおばさんたち帰ってきてるんじゃない?」

「いや、それがなあ」


 ほれ、と俺は菘にスマホの画面を向けた。


「楽しそうね」

「な。ムカつくほどに」


 そこには俺の両親が、ハワイのビーチではしゃぐ姿が写真に収められていた。

 母さんに至っては、髪に花の簪つけて完全にハワイにかぶれている。

 こんな写真を息子に送り付けてくるな。ブロックするぞ。という旨を返してスマホをしまった。


「てなわけで、うちの両親ではない」

「だったら、誰が……」


 その時だった。俺たちの話声に気が付いたのか、家の中にいる人物が庭に面した窓に近づいてきたのがカーテンの影越しにわかった。。

 まだ陽は明るい。住宅街とはいえ、往来はある。それでも緊張した。なにせ、家に忍び込んだ未知の人間とのご対面だ。

 いざという時のために、菘の手を取る。最悪、無理に引っ張ってでも逃げるしかない。

 菘も理解しているのだろう。ぎゅっと、強く握り返してきた。

 そして、カーテンが開かれた。


「……あんたたち、そこで何してんの?」


 そこにいたのは、


「葵さん!?」「お母さん!」


 菘の母――長瀬葵さんその人だった。




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