第69話 もはやそれは〝浮かぶ鉄屑〟であった。
7月23日 1010時 【
『司令官閣下が艦橋入室されます──』
拡声器が鳴り、艦橋入口に立つ宙兵の声が飛んできた。背後のドアが開く。
「航宙軍が動きました──」 腕を下ろしつつ、戦術マップへと司令官アルテアン少将の視線を誘導して言う。「──宙雷の大量投射です」
アルテアン少将はわずかに当惑するような
「撃ってきたのか? 奴ら、いまさら……」
「……いえ、我が艦隊を狙ったものではありません」
ヴィケーン大佐は、いよいよ怪訝な表情になったアルテアン少将に戦術マップの表示を交えて説明した。
「──飽和的に大量投射された宙雷群は〝
「また小細工か…──ならチャフを焼き払えばよい……」 アルテアンは露骨にうんざりとなってヴィケーン大佐に言った。「──レーザー砲の長距離射撃、開始だ」
それから火器を管制する第二艦橋を呼び出す艦長に、ふと思い気付いたように付け加えて言う。
「──ああ…… 航宙軍艦隊には一応、警告はせよ」
* * *
ほどなく『
〝我が艦隊の攻撃の中〈叛乱艦〉に接近するのであれば、それに伴うあらゆる事象に関し、一切の責任は負えない〟
通信幕僚から電文を受け取ったコオロキ提督は、何の表情も面に出さずに、ただその文面を首席幕僚へと回してしまい、回されたナガヤ1佐は事務的に受領の電子印を押して回覧手続きを終えてしまった。
* * *
7月23日 1140時 【航宙軍 第1特務艦隊 雷撃統制艦 キタカミ/
戦術データリンクで繋がった艦隊諸艦およびこれらが展開する〈無人
そのネットワーク化された索敵システムと情報処理系の上で、雷撃管制を一元統制する機能を付与されているのが雷撃統制艦〈キタカミ〉である。
その〈キタカミ〉は
戦術目的は〈カシハラ〉の姿を
CICの雷撃統括指揮官の下に次々と
「
出し抜けに、立体映像の中の光点の群れの一つが数度明滅し薄い膜となって〈カシハラ〉と
「第1群──軌道爆雷10、
「──続いて
「
刻々と変化する状況を
艦隊の雷撃を統括指揮するクロダ・ワタル2佐は管制士の一人に訊いた。
「〈カシハラ〉はどうか?」
「──
〈カシハラ〉の周囲では、連続的と言ってよい間隔で
「──〝コウモリ〟は?」
クロダ2佐はもう一つの関心事である〈カシハラ〉が接続した〈無人
「影響、ありません。影の側からカバーしてます」
コウモリは〝チャフ回廊〟と〝フレアの壁〟の背後に巧く回り込んだらしい。クロダは何だか楽しくなってきていた。
「よし、そろそろ〈カシハラ〉は加速に転じる…──それに合わせて
〝
こうして〈カシハラ〉の艦影が爆発的な閃光と赤外線量の飽和に包まれることになり、まだ相当の距離のあった
* * *
〈カシハラ〉は、幹部
旗艦〈エクトル〉以下『回廊北分遣隊』の各艦は、ただちにこれの追尾に入り、翌二十四日の〇五四〇時には、全艦が再び〈カシハラ〉を攻撃圏に捉えている。
一方、航宙軍──『第1特務艦隊』──は、その間も所期の軌道に留まり、慣性航行を続けていた。
〇七〇〇時。ポントゥス・トール・アルテアン『青色艦隊』少将は〈カシハラ〉に対し最後の勧告を行うと、5分後の〇七〇五時にパルスレーザーによる砲撃の開始を命じた。
* * *
ヴィスビュー星系第6惑星の第5衛星に重力懸垂する『航宙軍』所有の自航軌道
帝国軍の断続的な集中砲火を受けながら、〈カシハラ〉は回避機動を一切取らずに〈アカシ〉〝領宙〟を目指して、ただ加速を続けた。
最後はその機関も停止し、慣性航行で領宙への進入を果たしたその姿は、艦体のいたる箇所に破孔が見られ気密を維持していないのが明らかなほどで、もはやそれは〝浮かぶ
* * *
〈カシハラ〉の
〈ラドゥーン〉は
だが、新皇帝『エリン2世』の名代としてH.M.S.〈ラドゥーン〉で戦場に駆けつけた──
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