第31話 これが〝ミシマ〟の三男坊か……
6月16日 1155時 【〝
ミシマ・ユウは屋敷の
上等な調度品で整えられた屋敷の中で唯一〝品〟がなかったのは、通された奥の間に座った主その人とその一党であった。
さして広くない部屋の正面に置かれた
その出で立ちが
「いったい何の冗談なのだろうな?」
「黙っていてくれ……」
室内に居並んだ〝
事情を知らなければ、それは仮装パーティーの一幕であった。
が、事情を理解してこの場にいるオーサ・エクステットには、そんな感慨はない。ただ入室する前に銃と
背後で分厚い扉が閉じられると『宙賊館』の主──〝
「しばらく顔を見なかったな──」
言うやララ=ゴドィは、その引き締まった体躯を躍らせると、
相当の距離──元々広い執務机の意味はそこにある──を一気に詰めて(──実際には広い卓上を一度蹴ってはいる……。)アマハの前に立ったララ=ゴドィは、彼女の
「ふむ……少しはいい女になって戻ってくるかと思ったが……」 言って長身のアマハを見下ろして続ける。「──
その如何にも粗野な言葉に、周囲からの下卑た嗤いが重なる。
言われた方のアマハはただ硬い表情で、眉一つ動かさなかった。
オーサが眉を顰め、ガブリロがララ=ゴドィに向き直ろうと一歩を踏み出した時には、もうミシマは〝
「なるほど……」 男から腕を掴まれ、宙賊館の主は興の湧かない目でミシマを向いた。「これが〝ミシマ〟の三男坊か……」
見下ろされたミシマは顎を上げて真っ直ぐに見返す。その表情にララ=ゴドィは目を細める。
「──二男の方からは捨てられたと聞いたが? それで消えたか?」
「…………」
ララ=ゴドィは、アマハ、ミシマ、ガブリロ、そしてオーサの四人の視線を平然と受け流し、アマハに答えを促すよう目を向ける。
小首を振って顎先をララ=ゴドィの手から逃がすと、アマハはファッショグラスを外して、あらためて宙賊館の主に向き直った。「──二年ほど〝泣き濡れて〟ました」
その語尾に全く感情の乱れがないのに敬服したミシマは、同時に彼女に対して〝ミシマ〟の名を〝後ろめたく〟感じてしまっている。
ララ=ゴドィの方はアマハに見上げられ、鼻を鳴らして返した。
「(ふん)──それで士官学校の宿舎には、傷心を慰めてくれる若いのが〝引く手
なるほど……〝その後〟のアマハの来歴──士官学校へ入ったこと──もちゃんと調査済みというわけだ。しかし何なんだ! この〝下品〟な言い様は……っ
ミシマは男の右腕を掴んだ手に力を込めると、強引に自分の方に引き寄せた。──となれば、自然二人の目線が正面からぶつかることになる。
二人を中心に緊張が走り〝これから起こりそうな
「──ええ、そう……」 彼女はそれまでの硬い表情から一変した、羞じらいすら漂わせた
一方のララ=ゴドィの方は、そんなアマハを嗤うと〝興が醒めた〟とばかりに顔から毒気を消して手下どもに命じた。
「
首領のその散会の指示に、宙賊一党の面々が期待が外れたとばかりにばらばらと退出していく。
「早く行け! ほれ!」 退出する一党の一人にララ=ゴドィは声を掛けた。「それからヨウニ── そのショットガン、
ヨウニと呼ばれた大男が黙って軍用
*
人払いの後に部屋に残ったのは〈カシハラ〉側の五人に対し〝
ミシマは単刀直入に航宙艦向けの補給物資の提供を求めた。
このときミシマは、〈カシハラ〉とエリン皇女殿下の置かれた状況を包み隠さず明かしている。
提供される物資は〈オオヤシマ〉──『ミシマ商会』との関係を微塵も匂わせてはならず、その痕跡が完全に〝消された〟ものでなければならない。それが絶対条件だった。だから『商会』の協力は期待してはいけない。
見返りは〝白地の小切手〟──振出し主は〈ベイアトリス王室〉。
この話にララ=ゴドィと二人の側近は困惑した。〈カシハラ〉側の話は確証に乏しい。
既に〝自由回廊〟内の各処は六月六日の時点で
それは『宙賊航路』のあるマレア星系も例外ではなく、〝
現状で傍証らしきものと言えば、隣接するカルタヒヤ星系で航宙軍の巡航艦が
クレークは星域に展開する『国軍』への各星系の対応を説明しただけで、話の行方はミシマに委ねていた。〝政治屋〟としての自分の持ち味は、相手の出方次第というわけらしい。
本題に入った時点でアマハ・シホは一言も口を利いていない。〝渡りを付ける〟までが自分の仕事で〝交渉〟はミシマの役目。──自分は〝
結局、ララ=ゴドィは即答を避けた。話は聞いたが裏付けは取らせてもらいたい、と。
顔に似合わず慎重な男だとガブリロなどは思ったが、ミシマやクレークにとって
居心地の良い食堂で饗された昼食は決して豪勢ではなかったが〝本物〟の味だった。ただ一人饒舌なララ=ゴドィに、クレークだけが場を保たせるよう
そのララ=ゴドィの言に、ミシマとクレークは
「いいでしょう。ただしあなたの他随員は6名以内。艦内に入るのはあなたともう1名として頂きます。──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます