6-2

「車出せるかは分かんないけど、年上なら一人当てがあるよ?」

「本当? どんな人?」

 紗絵がすぐさま食いつく。

「どんな人って、ギタリスト。見た目はちょっとチャラい感じするけど、話してると楽しいお兄さんだよ」

「へぇ、和葉そんな知り合い居たんだ?」

 道子が好奇心一杯の目でこちらを見始めた。

「うん、たまたま知り合いになったんだ」

「その人にちょっと電話してみてよ」

 紗絵の唇の端が微かに上がる。

「え? 今?」

「そう、今」

「だって、バイトしてるかもしれないよ?」

「そんなんかけてみたら分かるじゃない。ほらほら」

 結局紗絵に押し切られる形で、私は順哉さんに電話を掛けた。

 コール音が2回聞こえた所で、順哉さんが出る。

『もしもし?』

「もしもし順哉さん? 今大丈夫ですか?」

『うん、今丁度バイト休憩入ったんだ。どうしたの?』

 どうしたの? と聞かれ、何と答えたらいいのか分からなかったが、とりあえず会話を続ける。

「順哉さん、車って持ってたりします?」

『え? 持ってないけど、どうして?』

「いえ、ちょっと今、仲のいい子達と、海でも行きたいねって話になったんですけど、車持ってる人がいたら、連れてって貰えたらなぁって思ってたんですよ。それで、私年上の知り合いなんて、順哉さんしかいなくて……」

『へぇ、そう言うことね。いいよ』

「へ? いいよって、でも順哉さん、車持って無いんじゃ?」

『車は無いけど、免許はあるからさ。レンタカーでも借りればいいし、引率してあげるくらいは出来るよ?』

「本当ですか? ちょっと待って下さいね」

 一度携帯を耳から離し、いいって、と二人に告げる。

「うっそ、マジで!」

「決まり決まり!」

 二人の高まるテンションを見て、再び順哉さんとの会話に戻る。

「あの、じゃあ、お願いします」

『いつがいいかな? 俺もバイトの都合があるから、いつでもって訳にはいかないけど……』

「でも、私達は今夏休みなんで、順哉さんの都合に合わせて貰えれば」

 二人を見ながらそう言うと、道子も紗絵も頷いてくれた。

『分かった。じゃあ、バイトの日程を後でメールするよ』

「はい、お願いします」

『ああ、そうだ。和葉ちゃん、友達って何人位いるのかな?』

「あーっと、女の子が三人です。それに、一人は彼氏付きなので、今の所は順哉さん入れて五人の予定ですけど……」

『五人か……。じゃあさ、ついでに、玲央も誘っていいかな?』

「え? 玲央君ですか?」

 玲央君の言葉が出て来て、私は心臓が高鳴るのを感じた。

『うん。最近あいつ家に籠りっ放しみたいだし、外に連れ出したいんだよね。話は俺がつけるから、お願い出来ないかな?』

「ちょ、ちょっと待ってもらっていいですか?」

 思わず声が上ずる。

 再び携帯を離し、二人に確認を取る。

「レ……、じゃないや、ねぇ、大藤君も誘いたいんだけど、いいかな?」

 私の言葉に、紗絵と道子は顔を見合わせた。

 そして、道子はニマっと笑い、紗絵はちょっと眉を寄せた後に、あんたも本当物好きだね、と笑った。

「いいよね?」

「まぁ、いいんじゃない?」

 紗絵の言葉を聞き、順哉さんに、それでお願いします、と告げた。

「和葉~、やるじゃん」

 順哉さんとの電話を切った所で、道子が笑いながら言う。

「よし、じゃあ宿題はまたにして、水着でも見に行くか!」

 紗絵が意気揚々と宣言して、さっさと問題集を閉じる。

 私は急に海に行く事が決まった事よりも、そのメンバーの中に玲央君がいる事の方が不思議でしょうがなかった。

 そしてそれと同時に、その日が楽しみで仕方無かった。

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