第15話 血塗れの家
このエピソードは、知人の西さん(仮名)から聞いたお話しです。西さんは、大変に子煩悩で誰彼なしに親切な方なのですが、若い頃はかなりのヤンチャ者でした。分かりやすく言うと、暴走族のメンバーだったのです。週末になると、大勢の仲間達と集団で街中を暴走する……。
──迷惑ですね……。
今を遡ること30年近い昔の話しになります。週末、西さんは、大勢の仲間と共に爆音を鳴らしていつものように夜の街を暴走していました。我が物顔で道路を走る。おまわり上等!夜露死苦!ってな感じで気分は最高なんでしょうね……。迷惑なんですがね……。一通りいつものコースを走り終えると、解散になりました。しかしまだまだ遊び足りない西さんを始め数名が、肝試しでもしようって話しになったんですよね。季節は真夏でしたし、マア、よくある話しです……。
「何処か面白い処ねえか?」
「あそこなんかどうだ?あの、○○町の一家心中があった家」
「面白いそうじゃん!そこ行こうぜ!」
肝試しに行く場所が決まると、西さん達数名は一斉に、その一家心中のあった家へ向かいました……。
「おい、なかなか雰囲気があるなあ……。ゾクゾクしてきたぜ」
「ここ、どんな事件があったんだっけ?」
西さん達は、その一家心中事件のあった空き家に到着しました。そこは数年前、精神を病んでいたその家のお父さんが、子供を含め家族全員をナタでメッタ斬りにした後、自害したという、曰く付きの空き家でした。そう言う場所って、ガラスが割られていたり、落書きがされていたりと、ひどく荒らされていることが多いのですが、あまり荒らされた形跡もなく、比較的きれいだったそうです。
「おうっ!中入ろうぜ!」
「おい、おい、びびってんじゃねえよ!ハハハ……」
玄関の鍵は開いていました。懐中電灯を持っているメンバーの1人が家の中を照らします。中に入ると、カビ臭い臭いが鼻腔を満たし、顔にクモの巣が絡み付き、すこぶる気持ちが悪い……。人が住まなくなって久しいことを物語っているのでしょう。しかしここは、殺人事件が起こったその日の夜で、時間が止まっています。そして、それに気づくのに時間はかかりませんでした……。
「オイッ!見ろよ。これ、血じゃねえか?そっちこっちにあるぞ!」
──家の中のいたるところに、血飛沫のような染みがあったそうです……。
「たしかナタでやったって言ってたよな?絶対、首やられてんだろ。天井まで血飛沫の染みがあるぞ!」
──どれだけ凄惨な状況だったのか……。みんなでワアワアと騒ぎに来たはずだったのですが、その状況の生々しさに、口数が少なくなったそうです……。
「オイッ!子供の絵日記があるぜ!うわぁ、これにも血が付いてる……」
メンバーの一人が、床に散らかった散乱物の中から、血の付着した子供の絵日記を見つけました。どんなことが綴られているのか興味を持った西さん達数名が、懐中電灯に照らされた絵日記のページを捲りました。そしてそこには、楽しかったころの家族の思い出が綴られていたのです……。
「なあ、もう帰んねえか?」
「ああ。そうだな……」
その絵日記を見ていた西さん達は、なんだか切なくなってしまったようです。家族の楽しい思い出、一緒に遊んでくれた優しいお父さん……。凄惨な殺人事件の起きたこの家にも、暖かな時間があったんだな……。そしてそれを血の色で完結させたのは、紛れもない、この子のお父さんですから……。西さん達は、なんとも複雑な気持ちになり、この家を後にすることにしました。
「じやぁな!」
西さんや同行したメンバーは、散り散りに帰って行きました。
家に着いた西さん。あの絵日記のことが頭から離れず、なかなか寝付けなかったようです……。そしてベッドでゴロゴロしていると、突然、電話の呼び鈴が鳴りました!
「まったく、うっせぇなぁ!誰だよこんな夜中に!」
西さんは、ベッドから起きて玄関の近くにある固定電話を取りに行きました。今のように携帯電話が普及している時代ではありません。こんな時間に起きているのは家族では恐らく自分だけ。それに電話をかけてきた相手はさっきまで一緒につるんでいた暴走族のメンバーの可能性が高いと思われました。
「もしもし……」
西さんは、かったるそうに電話に出ました。
「おっ!西か?俺だよ。小山(仮名)だよ」
それはさっきまで一緒に、無理心中事件のあった空き家で肝試しをやっていた暴走族のメンバー、小山君でした。
「こんな遅くになんだよ……」
「大変だよ!ケンジ(仮名)死んじまったよ!」
「おいおい、冗談はよせよ……。ついさっきまで一緒にいたじゃねえか。肝試しはもう終わってんだよ。これ以上脅かすのはやめろよな」
小山君は暴走族メンバーの中でもムードメーカーで、常日頃、冗談を言っては周りを笑わせたりしていました。そんな奴なので、自分が寝付けなくて退屈なのをいいことに、西さんを驚かそうとしたのだろう……。そう思ったそうです。しかし……。
「うそじゃねえよ!ケンジと一緒に帰った村田(仮名)から連絡が来て、対向車線を走ってたトラックにひかれて即死だってよ!」
──マジかよ……。
西さんは、半信半疑でした。一家心中のあった空き家から帰る途中まで、西さんもケンジ君と一緒に走っていましたから……。別れ際に「じゃあな」と言って手を掲げた後ろ姿を見送ってますからね……。
──しかし、ケンジ君が亡くなったと言うのは本当でした……。暴走族のメンバーは一様に悲しみに暮れたそうです……。
翌日、ケンジ君への追悼暴走と、亡くなった現場に焼香しに行くため、暴走族メンバー全員が集まりました。そこでなんとも不可思議な話しが浮かび上がったそうです……。
西さんと一緒に帰った松田君(仮名)の談です……。
「村田、そういえばさあ、昨夜、お前達と分かれた時、ケンジのバイクの後ろに乗ってたやついたんだけど、あいつ誰だよ。大丈夫だったのか?」
「えっ?そんな奴いないぜ。ふざけんのは止してくれよぉ。気味が悪いなぁ……」
帰り際、松田だけは、ケンジ君のバイクの後ろに人が乗っているのが、見えたそうです……。
──もしかしたらケンジ君。血塗れの家から、誰かを連れて来てしまったのかもしれませんね……。
※余談ですが、私の小学生の時からの友人、大木君(仮名)も、若い頃、友達数人で心霊スポットにふざけ半分で行ったらしいのですが、その中の一人が帰宅後に突然、精神に異常をきたしたらしいです。自分の意思とは関係なく、意味不明のことを話したり、異常行動をとったり等、大変だったそうです……。
──ふざけ半分で心霊スポットに行くのは大変危険なので、止めた方がよさそうですね……。
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