第70話 お掃除
「ベルンハルトはタームに以前会ったことがあるの?」
「討伐に向かったことがありますぞ。こやつらによって、村が全滅しかけたこともあります」
「村にも出るんだ……」
「極稀に、です。こやつらの好む土壌があるようでしてな。出たとしても数年に一度程度ですぞ」
「そうだったのか。この土地はこいつらが好む環境だったんだろうなあ」
「そうかもしれませぬ」
ベルンハルトの言葉から察するに、
アリクイもどきの脅威度は低いから問題ない。
もし、アリクイもどきの肉が美味しければ……むしろガンガン来て欲しい。
丸太で誘引すりゃ来るなら、入れ食いだしな。
ランバード村名物、アリクイもどきのシチューにステーキ。悪くない。
ちなみにここで俺が想像した肉は牛肉である。
「肉……」
「タームの肉は喰えたものじゃあ、ありませんぞ」
欲望が口をついて出ていたらしい。
うん、蟻を食べようなんて思っていない。あのやべえ蟻酸を見ているからな……そもそも昆虫って肉がないじゃないか。
せっかく肉の話題になったのだから、勝手知ったるベルンハルトに聞いてみよう。
「いや、そっちじゃなく。アリクイもどきの方なんだけど」
「ヴァーミリンギュアでしょうか」
「そ、そうヴァーなんとかの方はどうなんだろう? 食べられるのかな」
「はい。ウサギ肉に似た味がしますぞ。少し癖がありますので、ハーブなどで臭みを消した方が良いかと」
「お、おおお」
よっし、そうと分かればアリクイもどきの肉を保管しようじゃないか。
いそいそと一か所に集められていたアリクイもどきの前までてくてくと歩く。
「これは、廃棄した方がよろしいかと」
「そ、そうだな……」
後ろからアリクイもどきの様子を覗き込んだモニカが、バッサリと切って捨てた。
うん。俺もそう思うよ。
蟻に食い散らかされ、もうダメな感じになっている。
次回にお預けだなあ。
「別の獲物をまた狩りに行きましょう。森に行けば獲物は沢山います!」
「おう。近くまた一緒に行こう」
「はい。探索はお任せください」
ガッカリする俺をモニカが励ましてくれた。
彼女が手伝ってくれれば、獲物なんてすぐに発見できるんだ。その後、ブリザベーションで長期間保管できるんで、大量に肉をストックすることも可能。
時間がある時にある程度の量を狩っておいた方がいいかもしれない。冬になれば、狩りも難しくなるだろうしさ。
秋になったら冬の超え方を考えることにしようかな。
そうこうしているうちに、ベルンハルトがタームを一体掴み、俺たちの前に置く。
「この甲殻部分が利用できます。腐食性の酸を持っていますので、ソウシ殿のウォッシャーで洗い流してから触れる方が安全かと」
「なるほど。この甲殻は硬いから、利用価値があるってことかな」
「その通りです。鉄ほど……とはいきませぬが、加工しやすく使い勝手はなかなかのものです」
「ありがとう。まとめてウォッシャーをかけてから、甲殻を剥がすよ」
「はい。それと、木材ですが、酸で焼けた部分がありましたが、削れば問題ありません」
意外にも木材は使用可能とのことだ。
表面が酸でやられているだけで、中は無事ってことなのかもしれない。
「ベルンハルト様、木材をお運びいたしましょうか?」
「そうか。助かる。では、屋敷の前まで運んでもらえるか。私も運ぶ」
「いえ、わたし一人でやっておきます。ベルンハルト様は大工道具をご準備ください」
モニカが軽々と丸太を持ち上げ、にこやかにほほ笑む。
彼女の体より長さがある丸太なんだけど……。しかし、彼女にとっては丸太の重量より、サイズの方が問題なんだろうな。
あのサイズだと一本しか持つことができないもの。
「先に束になるよう、紐で括った方が良くないか?」
「屋敷はすぐそこですし、結んでいる間に全部運べるかと存じます」
「な、なるほど……任せる」
「はい。お任せください」
ここでペコリとお辞儀をして丸太が俺に襲い掛かって来るというお約束は起こらなかった。
さすがモニカ、その辺りは心得ている。
「ソウシ殿、それでは大工道具を取ってきます」
「ありがとう。ベルンハルト。モニカからベッドを作ってくれるって聞いたよ」
「はい。アリシア様もいらっしゃいますし、必要ですからな」
ガハハと笑いベルンハルトは馬車へと向かって行く。
残された俺は、アリクイもどきの処分でもしようかと思ったが、ここでフェリシアがいることを思い出す。
◇◇◇
モニカの丸太運びが終わった後、屋敷を彼女に任せフェリシアと共に現場に戻った。
「逢引じゃなかったんですの……?」
「二人で外出することを逢引というなら、その通りじゃないか」
ずううんと影がさしたフェリシアの肩をぽんと叩く。
出かけようと誘ったら、嬉しそうについて来てくれたんだが……。先に目的をちゃんと言った方が良かったかもしれない。
「良ければなんだけど、このアリクイもどきを処分して欲しくてさ」
「分かりました! シアが兄さまの頼みを断るわけないじゃないですか。最初からそう言ってくだされば、変な期待もしませんでしたのに……」
「ごめんごめん」
「後でまた撫でてくださいね」
片目をつぶっって愛らしく微笑んだフェリシアは、アリクイもどきの山の方へ体の向きを変えた。
深呼吸をして意識を集中させた彼女は、力ある言葉を唱え始める。
「フェリシアの名において願います。火の精霊さん。業火となりて頑張ってください。クリメイション」
かざした手の平から炎が出現し、アリクイもどきの山を包み込む。
あっという間に炎の勢いが増し、火柱となる。
熱を感じたと思ったら、すぐに炎が忽然と姿を消し、後には灰さえ残っていなかった。
「さすがシアだ! 今のはどんな火の精霊魔法なの?」
「灰を残さない火の精霊魔法ですわ。ゴミが出ないのでとても便利ですの」
「シアに来てもらってよかったよ。火の精霊魔法なら、普通に燃やすより早いかなと思ったんだ」
煤や煙どころか跡形もなく全部焼却できるとは思ってもみなかった。
時間も一瞬といっていいほど、即だったしさ。
やはり、魔法ってのは便利だ。
「モニカは風ですものね。ソウシ様は水。廃棄物はどうされておりますの?」
「そいつは適当に。聖魔法の浄化を使ったり、いろいろ工夫しているよ」
「シアもお手伝いしたいです……もう少し待って頂ければ」
「はは。シアはシアの仕事があるじゃないか。確かに四大精霊魔法の使い手がいれば、何かと便利だけどさ」
「四大? 土の使い手さんもいますの?」
「うん、コアラが土の精霊魔法を使うんだ」
「コアラ……?」
「あ、ああ。変な生物さんだよ」
「変な生物さん、土の精霊魔法もお使いになられたのですね!」
「うん。村の周囲に柵ができていただろ? あれはあいつが一夜にして作ってしまったものだ」
「すごいです! モフモフしてて、そんなすごい精霊魔法まで!」
ぱああっと花が咲くような笑顔を浮かべるフェリシア。
「モフモフしている」は誉め言葉なのか、少し気になる。
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