33 七色の皇帝、再び
「なによ、なんなのよ……!?」
ヒイラギたちは軽いパニック状態になっていた。
盗むための小型船を調査していると、急に周囲の明かりが消えてしまったのだ。
周囲を照らす光源は淡すぎて頼りのない星明かりだけ。
都会と隣接した軍基地内でありながら人里離れた秘境にやってきたような気分だ。
「遅かったの……?」
反転ガスはすでにばら撒かれてしまったのだろうか……
絶望的な想像に思考が一時の空白に陥ったが、
「いや、違う。携帯端末は使えるぞ」
タケハが冷静に確認をする。
彼が取り出した携帯端末は確かに光を放っている。
本当に反転ガスが使われたなら手持ちの電子機器も一切が使えなくなるはずだ。
「基地内の電気を落とされたのだろう。恐らくは攪乱のためか」
「なんだよ、焦らせやがって……」
マコトが額の汗を拭う。
「だが厄介だ。この暗さの中では作業をするのも難しいぞ」
「仕方ない。ヒイラギ、車のエンジンをかけてくれ」
「大丈夫?」
「狙われてる気配がしたらすぐ知らせるよ……お?」
「どうした?」
「いや、香織さんが近くに来てるみたいだ」
マコトの≪
それは暗闇の中においても問題なく効果を発揮する。
「飛んでるのか? 西の方から近づいてるな。炎で場所を知らせられるか?」
「任せて」
ヒイラギはレイピア型のJOY≪
細身の刀身から縄状の炎と冷気が同時に巻きあがった。
殺傷力はそれほど高くないが見た目は派手。
氷の粒に照らされた炎は強く輝いて周囲を照らす。
周囲が真っ暗な中で空から見れば非常に目立つだろう。
先に敵の兵士が気づくことも考慮して他の三人は気を張り詰めて周囲を警戒する。
しかし、それほど待つこともなくこちらの位置に気づいた香織が彼らの傍に降り立った。
「みんな! 無事だったんだね!」
「香織さん、実はまだ船を手に入れてなくて……」
「予定が変わったから大丈夫。それよりKとは合流できた?」
「それも残念ながら、まだ」
香織たちの古い知り合いであるという『K』という青年はラバースからの離反者である。
彼とも可能なら作戦行動中に落ち合う予定だったが残念ながら未だに合流できていない。
「そっか、わかった。じゃあ今の状況を説明するね」
香織はみんなを見渡して神妙な声で話し始める。
「まず新生浩満が死んだらしい。和代さんがやってくれたみたい」
「なんと!?」
黙って周囲を見張っていたタケハが彼らしくない驚きの声を漏らした。
マコトやケンセイ、そしてもちろんヒイラギも目を丸くする。
「だから計画は変更。艦に侵入する必要はなくなったけど、これからどうなるのかはまったく予想がつかない」
ラバースコンツェルンの総帥が死んだなど、にわかには信じられないことである。
それもこの後に合流する予定だった和代が単独でやったというのはどういうわけだろうか。
「いったい和代さんはどうして……?」
「詳しいことは本当にわからないんだ。少なくとも私も事前に聞かされてたことじゃない」
ラバース総帥の死。
その衝撃は間を置かず世界中を駆け巡るだろう。
大げさではなく世界中を揺るがすような大事件である。
「ただ、戦争はたぶん止められないと思う。今は安全を確保することを第一にしよう。みんなは先に近くのアジトに戻ってて」
「先に……って、香織さんはどうするつもりなんですか?」
「私はやらなきゃいけないことがあるから」
そう言って香織は空を見上げた。
彼女の視線の先には空の裂け目がまだ存在している。
ただし先ほどよりだいぶ小さくなっており、今にも閉じてしまいそうである。
※
どこからかジョイストーンが飛んできて、新九郎の手の中にすぽりと収まる。
見慣れた七色の宝石。
間違いなくシンクの≪
形や感触は他のジョイストーンとは同じでも、存在の重さがまったく違う。
この手に、体に、馴染む。
いや、感傷に浸るようなことではない。
あるべきモノがあるべき所に収まっただけの話だ。
「……ん?」
ただ、どこか違和感があった。
何か以前とは少し違う部分がある。
異物感と言うのはおかしいだろうか?
考えて、すぐにシンクはその理由に思い至った。
前はなかった能力が追加されているのだ。
誰かは知らないが、シンクの手元にない間に何者かが勝手にこれを使い、そして空きになっていた部分に何らかの能力をインプットしたようだ。
この≪
シンクが手放した時点で登録してあった能力は六つ。
≪
≪
≪
≪
≪
≪竜童の力≫
コピーできる容量は七つまで。
一度でも登録した能力は消すことができない。
シンクはもしもの時のためにこれまでずっとひとつだけ空けておいたのだが……
まあいい、新規登録されたJOYは後で確認しよう。
とりあえず必要な能力は備わっている。
まずは≪
試しに数メートル先に瞬間移動してみる。
成功。
問題なく使えるようだ。
シンクは必要のなくなった手元の≪
次に≪
六つの能力の中で最強の攻撃力を誇る炎を操るJOYだ。
シンクは全力で拳の先から爆炎を放つ。
敷地内に轟音が轟き、オリジナルの≪
「びっくりしたあっ! なにかやるなら事前に言ってよ!」
爆音を出したことで紗雪が文句を言っているが無視。
コピー元のジョイストーンが消失、もしくはインプラントした術者が死ぬことでコピーしたJOYはオリジナルと同等の性能を引き出せるようになる。
これでシンクがコピーした≪
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