5 みつどもえ
「ショウよ、ひとつ聞きたい!」
高速機動で二つの翼が東京湾上を舞う。
同じオートガードを持つショウに『ライトニングフェザー』は通じない。
とはいえ、奴の能力は攻撃を当てることで一時的に動きを阻害することができる。
オートガード故の弊害、防御中の固定化。
高すぎる防御性能が仇となった≪
自分でもそれがわかっているからショウは可能な限り攻撃を避けようと、一カ所に留まることなく飛び続けているのだ。
「君はなぜALCOに味方し、ラバースコンツェルンと敵対した!?」
動きさえ止めればこちらには防御を斬り裂く≪
ルシフェルは慌てず落ち着いてショウを追い詰めていく。
ショウは回避を続けながらもこちらの隙を探っているようだ。
視線を鋭く方々に向けながら彼は大声で答えた。
「決まってんだろ、『反転作戦』とかいうふざけた計画を止めさせるためだ!」
ルシフェルは数秒ほど何のことかと思考を巡らした。
そしてすぐにその言葉が示すものに思い至る。
「ああ、親父が企んでいるアレか。そんな名前だったのだな」
正直に言えば興味もない。
なぜなら神となったルシフェルが統べるのはこの世界ではない。
彼の根城は彼自身が作り出した異世界であり、現実世界などどうなっても構わないからだ。
自分と関係の無い計画の過程で多くの人間が命を落とすとしても、ルシフェルにとっては些末な出来事でしかない。
「正義感の強い貴様らしい考えだ。ふむ、僕が親父の計画に荷担していると勘違いしているのか? だが僕はこうして親父と袂を分かった。ならば僕らは再び手を取り合えるのではないだろうか?」
「ふざけんな、気まぐれで無差別攻撃するようなカス野郎と誰が手を組むか!」
さきほどの『ライトニングフェザー』による日本各地に対する攻撃か。
どうやらショウはあれが酷くお気に召さなかったらしい。
別に無差別な攻撃ではないのだがな。
だが実にショウらしい。
「さすがは正義の味方と言ったところか。ならばその手の『大正義』をもって僕を斬ってみろ。それができると言うのならな!」
「うるせえ! 言われなくてもそのつもりだ!」
挑発に釣られたショウが突っ込んでくる。
正義感は強いがあまり頭が良くない所も変わらない。
そんな一直線の動きでは『ライトニングフェザー』のいい的だ。
ところが、ルシフェルが光のミサイルをショウの軌道上に集めた瞬間。
彼は大きく迂回してルシフェルから見て左方へと迂回した。
「龍童、合わせろ!」
反対側の右方にはショウの乱入に動きを止めて二人の戦いを眺めていたレンがいる。
「同時攻撃か!?」
前言撤回だ。
ショウは熱くなっているよう見えても冷静な判断が下せる。
どうやら先ほどの攻撃でわずかに≪
多方向からの波状攻撃で強引に破るつもりのようだ。
ショウの掲げた愛刀『大正義』が嵐の中で光る。
そしてレンはそれに呼応して……
「おいっ!」
動かなかった。
ショウの刀はむなしくオートガードに弾かれる。
「合わせろって言っただろ! なにボーッと突っ立ってんだ!?」
「え? なんでぼくがおまえに協力しなきゃいけないです?」
レンは冷めた半眼でルシフェル越しにショウを睨む。
「なんでって……お前もコイツを倒すために戦ってんだろうが!」
ショウの怒鳴り声にもレンは腕を組んで考え込むような姿勢を取って、
「ぼく考えてました。そういえばおまえとの決着はつけてなかったです。上海に帰る前に、すごくばかにされたことも覚えてます。ぶっちゃけぼくはおまえがきらいです」
「こんな時に好き嫌い言ってる場合じゃ……」
「銀髪も強いけど、おまえも強いです。だからぼくはおまえを先に倒そうと思います」
「……は?」
「というわけで、しね!」
レンはルシフェルの目の前を通り過ぎショウに向かって飛んだ。
その拳は≪
「なに考えてんだ、このガキっ!」
「あー、ほんとうにうっとおしいです。おまえたちのその見えない壁、うざいです。まじでいらつきます。ころすけどいいよね?」
「良いわけあるか!」
そしてレンはショウを標的と見定めた。
※
「ほんとすいません。戻ってきたらよく言い聞かせておくんで」
「だ、大丈夫だよ。うちのショウくんの普段の行いが悪いのが問題なんだし」
シンクは香織に平謝りする。
別に彼が悪いわけではないのだが、一応レンの保護者である。
強者を見れば無邪気に突っ込んでいく少年の暴走を非常に申し訳なく思う。
それにしてもあいつ、本当に強い相手と戦えればそれでいいらしい。
ルシフェルに挑んだのも本当は正義感からだと期待したが全く違うようだ。
ショウの奴に対してはシンクも思うところはある。
だけど何もこんな時にケンカを始めなくてもいいだろうに。
とりあえず協力して一緒にルシフェルを倒してからじゃダメなのか?
ダメなんだろうな。
いや、考えている場合じゃない。
ショウが加わったせいでますます戦闘は激化する一方だ。
争いに巻き込まれないうちに出来るだけ遠くへと逃げないとこっちの身が危ない。
とりあえず目の前の橋を渡れば関内地区に抜けられる。
赤レンガ倉庫の前を通り過ぎ、シンクと香織は全力で走った。
※
「あはは、もっと必死に逃げるがいいです! 止まったらぶちぬきます!」
「ちくしょう、このクレイジー野郎が!」
狂気に染まった笑顔でショウを追いかけるレン。
今はショウの方がやや機動力で勝るため、なんとか逃げ回っている。
彼にしてみればレンと戦う理由はなく、逃げつつルシフェルに攻撃する隙を探っているのだろう。
接近戦を得意とするレンは、素手による直接攻撃にはオートガードが働かない≪
それでも先日までの実力差があればどうとでもなったが、今のレンは以前とは比べ物にならない力を得ている。
ショウも易々と目を離すことはできない。
必然的に今度はルシフェルが戦いにあぶれた。
「こ、この……!」
最強である自分が目の前にいるのに放置される屈辱。
ルシフェルの怒りは彼を黙殺するレンに向かう。
「舐めるな、ガキィっ!」
翼一枚あたり全長およそ五十メートル超。
広げた≪
『ライトニングフェザー』は逃げ場もない光の筋となって東京湾上を埋め尽くした。
「ちっ!」
「おっと」
ルシフェルの無差別攻撃に当たり、オートガードを発動させてしまったショウの動きが止まる。
レンもさすがに攻撃を止めて回避に集中していた。
「じゃまするな! おまえはあとでやっつけるから!」
「五月蠅いッ! この僕を無視するんじゃない!」
「あーくそっ、こうなったら面倒だから二人まとめてやってやるよ!」
「それはぼくのセリフです! なんなら二人まとめてかかってくるがいいです!」
「ふざけるなァ! 神器使いも古き龍の神もまとめてこの僕の前にひれ伏せェ!」
嵐吹き荒ぶ東京湾上空。
彼らが争い合うことで、奇しくもルシフェルによる外部への攻撃は止んだ。
その代わり何物も彼らの争いに近寄ることはできず、軍民関係なくすべての航空機や船舶は自然と待避する形で東京湾から姿を消していった。
それぞれが国家すら滅ぼす力をもつ三人の
三つ巴の……子どものケンカが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。